【男1:女1】嘘つきの乙女
男1:女1/時間目安30分
【題名】
嘘つきの乙女
(うそつきのおとめ)
【登場人物】
祥吾(しょうご):領主の息子
あやめ:乙女村に住む。
(以下をコピーしてお使い下さい)
『嘘つきの乙女』作者:なる
https://nalnovelscript.amebaownd.com/posts/22013127
祥吾(男):
あやめ(女):
001 あやめ:あの、そこのお兄さん。
002 祥吾:はい。
003 あやめ:良かったら花をひとつ買っては頂けませんか?
004 祥吾:いや……。
005 あやめ:そう、ですよね。お引き留めしてすみません。
006 祥吾:いや、やっぱり頂くよ。幾ら?
007 あやめ:えっと……このお金が3枚です。
008 祥吾:あぁ……はい、これ。
009 あやめ:あの、1枚多いし……これ違いますよ?
010 祥吾:それは君へのプレゼント。誰にも渡してはいけないよ。
011 あやめ:いや……でも……。
012 祥吾:それで洋服でも食べ物でも、好きな物を買って。
013 あやめ:ありがとうございます。あの、お名前は……?
014 祥吾:……祥吾。
015 あやめ:家名は……。
016 祥吾:祥吾という名前だけ覚えてくれたら嬉しいよ。
017 あやめ:分かりました。
018 祥吾:お嬢さんのお名前は?
019 あやめ:あやめ、と申します。
020 祥吾:花売りに相応しい名前だね。
021 あやめ:ふふ……嬉しい。
022 祥吾:じゃあ僕はこの辺で。また。
023 あやめ:……はい。
024 祥吾M:乙女村(おとめむら)。大きな街から1時間ほど歩いた所にある閑静な村。この村にはとある噂があった。
025 あやめM:乙女村の娘は呪いがかけられている。
026 祥吾M:噂は村の名前と共に広がっていき、あっという間に乙女村は呪われた村と呼ばれるようになった。
027 あやめ(タイトルコール):『嘘つきの乙女』
028 祥吾:改めて、僕は伊集院祥吾(いじゅういん しょうご)。一応この家の跡取り息子だ。よろしく頼むよ。
029 あやめ:あ、あやめと……申します。よろしくお願い致します。
030 祥吾:そんな畏まらないでくれ。
031 あやめ:あの……ど、どうして私の様な者が領主様の元に呼ばれたのでしょうか……私がなにか粗相をしてしまったのなら謝ります!何でもしますのでどうか命だけは……!
032 祥吾:(笑いをこらえきれずに笑い出す)
033 あやめ:あ、あの、旦那様?
034 祥吾:旦那様なんて辞めてくれ。祥吾でいい。
035 あやめ:私のような者に旦那様のお名前を呼ぶ権利はございません、どうかお許しください。
036 祥吾:はぁ……全く。これは命令だ。僕の事は祥吾と呼ぶように。
037 あやめ:……っ……では、祥吾様と。
038 祥吾:仕方ない。それで許そう。
039 あやめ:ありがとうございます。
040 祥吾:ところであやめ、君は乙女村出身だったか?
041 あやめ:あっ……はい。
042 祥吾:乙女村についてひとつ聞きたいんだがいいか?
043 あやめ:は、はい。
044 祥吾:きっとあやめも噂については知っているだろう?……その噂は本当なのか?
045 あやめ:……はい。しかし、呪いと言いましても人様にご迷惑をかけるようなものではございません。
046 祥吾:詳しく聞いても?
047 あやめ:乙女村で産まれた娘は、嘘をついてはならないのです。人として当たり前の事ですから、信じない方(かた)が大半ですけれども。
048 祥吾:それだけでは「呪い」という感じでは無さそうだけれども……。
049 あやめ:呪いで間違いはありません。私達は乙女の間に嘘をつくと死んでしまうのです。
050 祥吾:嘘をつくと、ってそれはどういう……。
051 あやめ:仕組みは誰にも分からないのです。呪いというくらいですから、もう仕方ないと諦めております。嘘をつかなければいい話ですから。
052 祥吾:そうか。
053 あやめ:もう下がらせて頂いてもよろしいでしょうか?
054 祥吾:あぁ。
055 あやめ:では、失礼致します。
<祥吾があやめを探している>
056 祥吾:あやめ?……あやめー?
057 あやめ:痛た……。
058 祥吾:あやめ!どうしたんだこの傷……。
059 あやめ:あ、さっき転んでしまって。ご心配をおかけしてすみません。
060 祥吾:大丈夫かい?
061 あやめ:大丈夫です。すみません、そそっかしくて。
062 祥吾:ちゃんと手当するんだよ。
063 あやめ:はい。祥吾様、私になにか用があったのではございませんか?
064 祥吾:あぁ、そうだった。今月の最後の土曜はなにか予定はあるかい?
065 あやめ:いえ、特にありませんが……確かその日は深山家のパーティに参加する予定ではありませんか?
066 祥吾:あ、そうなんだが……その……。
067 あやめ:どうかなさいましたか?
068 祥吾:一緒にパーティに来てはくれないか。
069 あやめ:え、っと……パーティの時にお仕えする者は既に決まっておりますが……。
070 祥吾:だから……僕のパートナーとして、一緒にパーティに来てくれ。
071 あやめ:パー、トナー……そのようなお役目は、許嫁のご令嬢や意中のお相手が担うものではないのですか?
072 祥吾:それは……。
073 あやめ:私は作法など学んではおりませんし、連れていったところで祥吾様の顔に泥を塗ることになってしまいます。ですから……(※被せ)
074 祥吾:(※被せ)あぁーもう!君という人は!
075 あやめ:祥吾様?
076 祥吾:こんな形で言うつもりなんて無かったのに……意中の相手があやめなんだ。だから、一緒にパーティに来て欲しい。
077 あやめ:それ、は……。
078 祥吾:答えは後日でいいから。今日はもう下がっていい。
079 あやめ:……失礼致します。
(少し間)
080 祥吾:はぁ……やってしまった……。そんなつもりじゃなかったのに……!
<あやめが扉をノックする>
081 あやめ:祥吾様。あやめです。入ってもよろしいでしょうか?
082 祥吾:どうぞ。
083 あやめ:失礼致します。
084 祥吾:突然呼び出したりしてすまない。良かったらお茶でも飲まないかと思って。
085 あやめ:お茶ですか。
086 祥吾:ダメ……だったかな。
087 あやめ:いえ、祥吾様の仰せのままに。
088 祥吾:あやめの気持ちを聞かせてくれ。無理強いはしたくないから。
089 あやめ:嫌ではないです。
090 祥吾:それは……嬉しくないという意味か?
091 あやめ:祥吾様はずるいお方ですね?……嬉しいです。
092 祥吾:それは良かった。そこに座ってくれ。
093 あやめ:お茶のご用意をしますから、少しお待ち頂いても?
094 祥吾:今日は僕が入れるよ。
095 あやめ:いけません、それは使用人である私が。
096 祥吾:あやめとお茶を飲む為に入れる練習をしたんだ。僕が入れるから、感想を聞かせて欲しい。
097 あやめ:……分かりました。ご主人様とは言えど、簡単に合格は出しませんからね。
098 祥吾:あはは、手厳しいな。ちょっと待っていてくれ。
099 あやめ:……はい。
(間)
100 祥吾:この屋敷には慣れたかい?
101 あやめ:ええ。なんとか。
102 祥吾:何か困っていることはないか?
103 あやめ:……え、っと。
104 祥吾:あやめは素直でいいな。
105 あやめ:素直も時にはトラブルの元になりますから、あまり嬉しくは無いですけれど。
106 祥吾:何かあったのかい?
107 あやめ:とある侍女の方を怒らせてしまいまして。私が正直に意見を言ってしまったのがいけないのです。
108 祥吾:しかし……あやめは嘘をつけなかったはずだよね?
109 あやめ:えぇ。……言葉ではわかっていても、嘘をつかない、とはどういう事なのかを分かっていただくのはとても難しいのです。
110 祥吾:そう、だね。私も言葉ではわかっているけれど、どういう事かは分かっていない。それでも一つだけわかっていることがある。
111 あやめ:なんです?
112 祥吾:あやめの言葉に嘘はないという事。
113 あやめ:……あはは!祥吾様は面白い事を仰いますね!
114 祥吾:面白い事言ったかな?
115 あやめ:えぇ。……そんな事を言ってくださったのは祥吾様が初めてです。
116 祥吾:もしあやめが嫌だったら答えなくていいんだけど……もし嘘をついたら、どうなるんだ?
117 あやめ:原理はわかりませんが、私達は花になるそうですよ。
118 祥吾:人間が、花に……?
119 あやめ:不思議でしょう。だから乙女村の娘は呪われている、なんて噂が流れるのですよ。
120 祥吾:どんな花に?
121 あやめ:人によって違います。百合だったり桜だったり椿だったり。なぜその花なのかも分からないので、不治の病と呼ぶ者もいるくらいです。
122 祥吾:そうなのか……。
123 あやめ:少し昔話をしても宜しいですか?
124 祥吾:もちろん!ぜひ聞かせてほしい。
125 あやめ:……昔、隣の家にアンナという子が住んでいたんです。小さい頃からよく遊んでいました。でも……死んだんです、私の10歳の誕生日に。
126 祥吾:あやめ……?
127 あやめ:誕生日の次の日、ピンクの百合になって見つかりました。彼女は嘘をついたんです。私のために。
128 祥吾:どんな嘘を?
129 あやめ:『誕生日プレゼント忘れちゃったから、また今度渡すね』って。……後から聞いた話ですが、彼女の弟が風邪をひいたらしく、プレゼントを買う予定だったお金は、薬代に使ったそうです。……それが言えなかったのでしょうね。
130 祥吾:嘘をついたから、花に。
131 あやめ:恐らく。それが私が初めて見た乙女村の呪いです。乙女村に生まれた娘のほとんどは、このように幼い時に嘘をつくとどうなるかを教えられます。だから、乙女村出身というのを公言しない者も多いのですよ。
132 祥吾:それは……嘘をついていないことがバレてしまうから?
133 あやめ:ええ。その通りです。全て本音で話すことがいい事とは限りませんから。
134 祥吾:そうだな。……ところで、パーティの件、考えてくれたか?
135 あやめ:あっ……やはり私では力不足かと。
136 祥吾:そんな事は無い。あやめは美しいし、時間もまだある。作法を覚える時間もまだ……。
137 あやめ:そういう事ではございません。
138 祥吾:あ、あやめ?
139 あやめ:祥吾様が私を良くしてくださるのはとても嬉しく思っております。……しかし、伊集院家は常に人々が目を光らせております。中には旦那様や祥吾様の粗探しをしている者も、もちろんいるでしょう。そこで私が祥吾様のパートナーになったらどうなるでしょうか。……頭のいい祥吾様ならお分かりになりますよね?
140 祥吾:僕は、ただ純粋に、
141 あやめ:どうか、もう一度お考え直し下さい。失礼致します。
<あやめが立ち去る>
(少し間)
142 祥吾:あはは……お茶の味、聞くの忘れたなぁ。
<祥吾に手を引かれるあやめ>
143 あやめ:離して、ちょっと祥吾様!離して下さい!
144 祥吾:いいから、ちょっと来て。
145 あやめ:痛、いです、離して下さい。
146 祥吾:この手を離したら君は逃げるだろう!
147 あやめ:……っ……。
148 祥吾:……声を荒らげてすまない。……入って。
<祥吾の部屋へ>
149 あやめ:旦那様、どうしてお部屋に……。
150 祥吾:ベッドの上、座って。
151 あやめ:え、べ、ベッドですか?
152 祥吾:早く。
153 あやめ:しょ、祥吾様?
<ベッドに腰掛けるあやめ>
<スカートを捲り上げる>
154 あやめ:ちょっと祥吾様!何を!
155 祥吾:……この足首、これは何?
156 あやめ:これ、は……。
157 祥吾:どうしてこんなになるまで放っておいたんだ。
158 あやめ:祥吾様、怒ってますか……?
159 祥吾:怒ってるよ。自分を大事にしないあやめにも、気づいてあげられなかった自分にも。
160 あやめ:……ごめんなさい。
161 祥吾:これ、どうしたの?
162 あやめ:えっと……?
163 祥吾:誰に、やられたの。
164 あやめ:そんな言い方……。
165 祥吾:この屋敷の主(あるじ)である僕が知らないとでも?
166 あやめ:それは……。
167 祥吾:知っていたよ。君があまりよく思われてない事。僕のせいだろう?
168 あやめ:いえ!そんな事はございません!私が……私がもっと上手くやればこんな事には。ご心配をお掛けして申し訳ございません。
169 祥吾:……っ……そんな風に距離を置かないでくれないか。
170 あやめ:私は使用人です。祥吾様とは違います。
171 祥吾:あやめは僕が嫌いか?
172 あやめ:ずるい質問。
173 祥吾:こういう聞き方をしないと、君は答えてくれないじゃないか。
174 あやめ:もう癖の様なものですから、ご容赦ください。
175 祥吾:……もし、あやめが本当に嫌なら、僕を拒んでも構わない。この屋敷を去るのも止めはしないよ。もう追いかけないと誓おう。でも、そうじゃないなら、この手をとってほしい。
176 あやめ:この手を取ったら、私はどうなるのでしょうか。
177 祥吾:私のパートナーであると皆に公表する。
178 あやめ:以前お伝えした事をふまえた上で、ですか?
179 祥吾:もちろん。周りの評価なんてどうでもいい。僕は君を守りたいんだ。
180 あやめ:……もう少し、考えさせて下さい。
181 祥吾:もちろん、急かしはしないよ。ただ……あやめを転ばせたのが誰なのかくらい教えてくれないか?
182 あやめ:嫌がらせを受けたくらいで祥吾様のお手を煩わせるほどでは。
183 祥吾:誰に、やられたんだ。
184 あやめ:……旦那様の、侍女様に。
185 祥吾:あいつらか……どうしてやろうかな……。
186 あやめ:お咎めなどはお辞め下さい。
187 祥吾:それでは僕の怒りが収まらない。
188 あやめ:私は大丈夫ですから。落ち着いて下さい。
189 祥吾:しかし!
190 あやめ:(遮るように)お茶でも入れましょうか。一息つきましょう、ね。
191 祥吾:お茶は僕が入れる。怪我人は座ってなさい。
192 あやめ:ふふ……はい、仰せのままに。
193 祥吾:あやめ。
194 あやめ:祥吾様。どうなさったのですか?
195 祥吾:そろそろあやめの休憩時間だと聞いてね、一緒にお茶でもどうかな。
196 あやめ:ご一緒してもよろしいのですか?
197 祥吾:もちろんだよ。じゃあ今日は庭園でお茶にするとしよう。
198 あやめ:お茶とお菓子の支度をしてまいりますので少々お待ち下さい。
(少し間)
199 祥吾M:僕とあやめの関係をよく思わない者がいることは知っていた。それでも、あやめを守れる自信があった。……それがただの自惚れだったという事に気づいたのは、全てが終わった後だった。
<祥吾があやめの部屋のドアをノックする>
200 祥吾:あやめ……入るぞ。
201 あやめ:祥吾様……その……申し訳ありません。その、ドレス……。
202 祥吾:あやめが謝る事はないよ。全て、僕のせいだから。
203 あやめ:そんな事は!
204 祥吾:僕が悪いんだ。僕がもっと上手くやっていたらあやめがこんなに傷つく事も無かっただろうに。……すまない。
205 あやめ:……祥吾様は優しすぎます。
206 祥吾:そんなことはないよ、あやめを傷つけたやつを殺してしまいたいとすら考えているのに。
207 あやめ:では何故泣いているのですか?
208 祥吾:あやめが泣かないからだろう?
209 あやめ:ふふ、優しいお方。……祥吾様。
210 祥吾:……っ……頼む、何も言わないでくれ。
211 あやめ:いえ。……ちゃんとお返事をさせて下さいませ。……お願いです。
212 祥吾:それはずるいだろう。
213 あやめ:ずっと。……ずっとずるかったのは祥吾様の方ですよ。
214 祥吾:そんな事ない。
215 あやめ:(遮るように)あります。……私は嘘は言いませんよ。
216 祥吾:ああ、そうだったな。
217 あやめ:えぇ。……祥吾様。私には昔からお慕いしている方がおります。私の事を一番に考えて、私のために泣いて下さる優しいお方です。ですから……ですから、祥吾様のお気持ちにはお答えできません。
218 祥吾:……どうして。
219 あやめ:……ずっと黙っていて申し訳ありません。
220 祥吾:……そう、か。
221 あやめ:明日、村に帰らせて頂きます。お世話になりました。……祥吾様の入れるお茶、しょっぱかったです。
222 祥吾M:次の日、あやめは屋敷から姿を消した。
<執事が部屋のドアをノックする>
223 祥吾:どうぞ。……ん?あぁ、お前か。……大丈夫だ。少し寝不足なだけだから。
<執事が祥吾に花を渡す>
224 祥吾:どうしたんだ、この花。今日は何か特別な日だったか?……執事から菊の花を貰うとか冗談でも嫌だぞ。
<執事「門の前に置かれてました。」>
225 祥吾:門の前?なんでまたそんな所に……おい!この消印!これは乙女村のものでは無いか?
<執事「そのようですね」>
226 祥吾:乙女村から……赤い菊の花……。まさか!
<祥吾が本で調べ始める>
227 祥吾M:ふいに、あやめが教えてくれた事が頭をよぎった。嘘をついた乙女が何の花になるかは花言葉に関係しているのかもしれないと、あやめは言っていた。
228 祥吾:確か赤い菊の花は……。
229 あやめ:『あなたを愛しています』
(終)
*補足*
・作中に出てくるピンクの百合の花言葉は『虚栄心』という意味で使っております。