盆中の小宇宙(盆栽)
盆栽が海外に普及するきっかけは、1970年の大阪万博の時に設置された盆栽展示だったとされているそうです。これを契機に多くの外国人が日本の盆栽に興味を示し始めたのだそうです。今やBonsaiは、sushi, Zenとならんで、日本語の発音がそのまま英語でも通用する語の一つになっています。
大自然の景観を小さな盆に再現し、大きくなる木を敢えて小さく育てる盆栽は、いかにも日本人好みで、日本古来の文化だろうと思っていましたが、その起源は中国だと言われています。しかも、その精神的起源とでも言えるものは、インドにおける樹木信仰にあるのだとも言われています。
インドでは、菩提樹の下で仏陀が没したことによって、菩提樹の木、そのものが信仰のシンボルと考えられるようになり、その心情が仏教とともに中国にもたらされたのだと言われています。
中国では、古くから自然の在り方に人間の生き方を併せてみる老荘思想があり、いわゆる「鉢植え」や園芸の技術が進んでいたようですが、禅宗が発展するに伴って、水墨画や禅式庭園等の禅宗文化が広まってきて、鉢の上に石と一緒に植物を植えて自然の美、自然のミニチュアを作り上げる盆栽が普及していったのだと考えられています。
日本では、鎌倉時代に禅僧たちによって禅宗文化が紹介され、既に伝わっていた庭園技術と禅宗庭園とがもてはやされる中で、台の上に植物を配置する疑似庭園として盆栽の原型が現れたと言われています。
やがて、禅僧たちの「盆中に宇宙を強く連想する」盆栽観は、禅宗の普及とともに武士階級を中心に浸透していったようです。
本来自然の中で大きく育つべき樹木の芽を摘み、小さな盆の上で育て、自分のイメージにあった枝振りにするために針金を巻いて枝をくねらせる盆栽に以前は反発すら感じていたのですが、アルゼンチンでは、公園に来た人たちに自然に対して関心を持ってもらおうと植物写真のパネルを作ってレクチャールームに飾たりしているうちに木本類は鉢植えにして見せることも出来るのではないかと思うようになりました。
公園内を歩く時に公園内に自生している樹木の苗を探して小さな鉢に植えたのですが、その樹木の特性がよく出るようにと枝振りを考えたり、鉢の中にコケを植えたり、白い小石を捜してきて並べたりしているうちに、見よう見まねの盆栽づくりが始まりました。
伸びようとする芽を摘まれ、つっかえ棒や針金で自由を奪われ、ミニチュアとなってしまう盆栽をかわいそうだと思っていた自分が、小さいなりに自然の形を残した盆栽を作り、より多くの人に自然に対する関心を持ってもらうという考え方に変わったのです。
そうなると、かわいそうだという気持ちは無くなり、より大自然に近い形にと言う気持ちに変わっていきました。自分が持っていた価値観や考え方も時とともに変わっていくものなのですね。