『四月四日』

2017.04.06 03:00


冬の空気が好きです。冬のきんと冷えきって、肌を刺すような風が好きです。



春を待ちわびる寒々とした裸の木々を抜け、生け垣の霜ばしらに吹きつけ、風は冬を教えてくれます。




近頃は、日が落ちてもあたたかい風が吹くようになりました。




桜が綻び、やがて風はその春の便りを運ぶのでしょう。初々しい制服やおろしたてのスーツの肩を撫でるのでしょう。未だ家具の揃わないアパートの窓から吹き込むのでしょう。




風は時に背中を押し、時に向かい風となり、時に優しく通りすぎて行きます。



いつかの記憶にある温度の、香りの、懐かしさを湛える風に誰かを思い出す事があります。背中を押してくれた、目の前に立ちはだかった、優しく隣に居てくれた誰かを思い出す事があります。



風が立ち止まらぬように、置いて行かれぬように歩き続けようと、ふと空を見上げました。



初音瞭


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