SHINE研修『マット・ビボウと味噌・茜』(2)実践編フォトレポート
マットさんが三宅商店の古民家事務所にやってきた。
何度か来日する中でこんなボロ家に招かれたのは初めてなのではなかろうか。穴が空き放題の障子は玄米(猫・めす)のせいですが、土壁は剥がれ、隙間からはまだ冬の名残の冷たい風が入り込んでいる。マットさんが来るに合わせて急遽土間を左官して、フローリングに。近所でお買い得な天板を買ってきでテーブルをこしらえたのです。
薪ストーブのススに薄っすら覆われた(旧)土間に案内すると、その隣ではちょうど布団が準備されているところ。マットさんと通訳のマイマイさん用に、前の家主からのお下がりのオールドスクールなFUTONが二組。不思議なのは店主によって用意されたDJブースがその部屋に似合っていること。
頂き物のビオワインを湯呑みにそそぎ乾杯。簡単な自己紹介を済ませ四方山話を通り過ぎると、テーマはだんだんDeepな方向に。パーマカルチャーネタは翌日の本番にとっておく、なんて予定調和をしたわけではないのですが、原爆とかパールハーバーとか、日米における戦後教育の違いと共通点なんて話題に突入。
そんな小難しい話やら、ポートランドに社会的な詩を歌う三宅に似たミュージシャンがいるとか(次回の記事をお楽しみに)、なんだか異様に盛り上がったのですが、何かに記録していたわけでもなく、その日も朝から片付けをしていたことによる眠気もあってか、筆者は内容をあまり覚えてない(きっぱり)
それでも確実に覚えていることがあります。
・その夜の時点で我々は意気投合した
・マイマイさんの通訳が神がかっている。取り憑かれたように、ノンストップで同時通訳。補足説明もあり誰よりも誰よりも喋っている。それはそれは楽しそうに。
・気づけば午前2時。休憩なしで4時間話し続けました。
そして筆者は翌日午前5時に起きて味噌作りの大豆に火をかけなくてはなりません。マットさん、過密日程の中こんなスタートですいません。とは言ってもマットさんもノッテたと思います。マットさんも三宅も話し出すと止まらないタイプ。三宅商店にはそんな人が他にも…
夜は明けて味噌作り開始
目が覚めて、あっ、なんか明るい。時計を見ると7時。あー寝坊した。
急いで浸水した大豆の入った寸胴を抱え庭へ。
そうです。味噌作りは1日では出来ません。前日の事前準備が必要です。
今回味噌作りに用意したものは下記の通り
・大豆 8kg(三宅商店で販売しているきくち村さんの大豆の在庫量の関係もあり、今回使用した大豆は佐賀のBig Family Farmさんの自然栽培大豆。水を吸って倍になります)
・乾燥玄米麹 9kg(三宅商店で買えます。ネット上では生麹を使うレシピが多いかと思いましたので、三宅商店の商品で作れるようにと乾燥麹を使うことにしました)
・アミラーゼの多い自作の麹 3kg(オリジナリティを出すために追加。スタッフが栽培した有機米で作った自家製の麹。大豆と麹の分量は決まっていません。麹の比率が多いほど甘めの味噌になります。詳しくはこちらの記事を)
・塩 3.7kg(この三日前に海水から作った自家製の塩!詳しくはこちらの記事を)
・味噌樽(こだわって木の味噌樽を購入。毎年大事に使用すれば100年以上使用できます。ホーローや陶器、プラスチックの容器も普及してますが、木の樽ですと隙間に菌が住み着いて、オリジリティある味噌になります)
・鍋
・ざる
・たらい
・マッシャーとか
・ラップ
・食用油
・おもし
1.まずは大豆をよく洗う。水が綺麗になるまで丹念に。
2.大豆の三倍量の水に浸水。一晩とはよく言いますが、完全に芯まで水が行き渡るには18時間はかかるそうです。気温が低いときは余分に時間がかかるでしょうから、丸一日を見ても損はないかと多います)
3.水を取り替えて、大豆を3時間煮る。アクを丹念に取り除く(寝ぼけていたので水を変えるのを忘れました。というか、個人的に普段から豆料理をする時は水を変えないないので、いつもの流れで火にかけてしまいました。まあ大丈夫でしょう)
50リットル位の寸胴が満杯なので中々沸騰しない。寝坊して2時間押しが確定しているのに。。。前日夜遅かったぶん、マットさんたちもスロースタートだったので結果ちょうど良かったのですが。
集合時間の9時にはスタッフ達が集まりだす。この日は茜染めもしますので、沸騰させておいた寸胴で染液作りも開始。染めについては後ほど説明します。
これまで一人で作業していたので写真をとれてなかったのですが、ここからは動画を回しているので写真と合わせていきます。
4.大豆が煮え上がる前に塩と麹を混ぜて塩きり麹を作る。満遍なく、底から返すように。
5.大豆が茹で上がりました。煮加減は親指と小指で潰せるくらいの柔らかさ。それにしても大量。
6.ひたすら潰します。熱々の柔らかいうちはマッシャーなどを使って、冷めてきたら素手でこねこねして、みんなの「菌」を入れ込んでいく。昔は子供達に素足で踏ませていました。人間の常在菌は糀が分解してくれるので殺菌消毒しなくても大丈夫だそうです。
7.大豆がよく潰れたら塩きり麹と合わせ、よーく混ぜる。耳たぶくらいの硬さがちょうど良いと言われています。今回はちょうど良い硬さでしたが、硬すぎるようなら大豆の煮汁(アメ)を入れて調整します。アメを入れると旨味が増すものの、カビが生えやすくなります。詳しくはこちら。
8.しっかり混ざりあったら、味噌団子にして樽の中に投げつけます。おりゃ。空気を入れないように容器に詰めるための大事な作業です。空気が入るとカビが生える原因になります。
9.空気を抜くようにしっかり押し込んでいく
10.空気の侵入を防ぐために塩で覆い、最後は油を塗ったラップで密閉。
11.最後は落し蓋をして重しとなる石を乗せて終了!残念ながら最後の写真も映像も無い!現在は新聞紙やらに包まれてひっそりと出来上がりを待っています。これで安心して三宅商店の昼食の味噌汁をまかなっていけます。
同時並行で進んでいた茜染め
通常ワークショップなどでは味噌は味噌、染めは染めで行われるのでしょうが、今回三宅商店では贅沢にも二ついっぺんにやってしまいました。人数もいるし、必要な道具もほとんど変わらないので効率も良いのです。
味噌は完成まで時間を要します。当日マットさんに何かを持ち帰ってもらえるようにとの意味合いも込めて、三宅商店が何度も経験している茜染めがぴったりでした。
タンパク質には染料がよく吸着する性質があるのでシルクなどはよく染まる。一方、コットンやヘンプなどの植物繊維は事前にタンパク質をつけてしまうと良いのです。通常は大豆の呉汁という、大豆を水に浸して潰して絞った液体や、豆乳などを使用するのですが、今回は大豆の煮汁がいやでも出るからそれを試しに使って見ようということになりました。あまりタンパク質は入っていないでしょうが、ものは試し。
そんなこんなで味噌と茜を同日にやることに意味を見出していたので、この記事においても少し長くなってしまうのを覚悟で一つのページとして公開いたします。
と、いうわけでまずは染液と媒染液の作り方を。今回は共に40リットル用意しました。
【染液:50-60℃】
・水 20リットル ×2
・酢 20cc ×2
・茜 200g ×2
お湯が沸騰してから茜を30分煮出します。茜はネットや布で包んで煮るとザルで漉す必要も無く楽です。完成した一番液を取り除き、もう一度同じ工程で茜を煮出て二番液をとります。各20リットルづつとりました。
【媒染液:30-40℃】
・水 40リットル
・酢 400cc
・ミョウバン 40g
媒染液はお湯に酢とミョウバンを混ぜるだけ。簡単。お湯は給湯器を使うと温度管理も手間いらずで楽チンです。
他に用意するものは
鍋
たらい
ゴム手袋
物干し
くらいでしょうか
1.さてまずは地入れ。今回は大豆の煮汁、普段はお湯に染める生地をつけ、満遍なく水分を浸透させます。生地は最初は水を弾いてしまう。10分程かけて揉み込むようにして全体に均等にいきわたるようにします。
2.続いて媒染をします。茜の染料を定着させるための大事な作業です。媒染液の中でひらひらと生地を泳がせるようにして20分。布が重なっているところがムラにならないようにひたすら動かし続け、Tシャツの襟の部分など分厚い部分もよく染まるようにしっかり揉み込んでいく。手を抜かずに動かし続けることで、綺麗にムラなく染めることができます。手荒れが気になる方はゴム手袋を。
店主は色落ちした自分のふんどしを染め直すようです。そうです、草木染は「色落ちして当たり前」。色が薄くなったらまた染め直して、末長く大事にしていく。これこそが言葉だけが先行している印象のある「スローライフ」そのものと言えます。得られる結果は確かにスローにやってくるし、労力もかかる。しかしその「得られる結果」の質が違います。それは一つの鎖のように生活のあらゆる側面と共鳴しあって豊かさを増していくものです。
3.ついに染めます。染液の温度が50-60℃になるようにお湯で薄めます。今回は一つのたらい毎に4リットル程の染液を8リットルのお湯で割りました。媒染の時と同じように丁寧に生地を泳がせ続けること20分。熱いのが耐えられない方は手袋を。素手だと手が赤く染まります。これを染め師風だと言って喜んでいる人もあり。
4.一度水ですすいで、2、3の工程を繰り返します。二度目の染めは二番液を使います。
5.そして最後のすすぎをします。その際、自然塩を少量入れることによって色の固着を助けることができます。
6.干す。天日に干すことによって日光堅牢度が上がります。おっ、ハート柄のキッズTeeがある!
こんな風にひもで縛ったり、糸を縫い付けたりして染めると
じゃーん。こんなして模様をつけることができます。
味噌作りや茜染めの作業中はマットさんも通訳のマイマイさんと離れそれぞれ思い思いに楽しんでいました。スタッフも岡山京橋店で店舗をシェアするビバーク一家も普段ではなかなかできない仕事以外のコミュニケーションに華を咲かせていました。
さて、三宅商店からマットさんへの実践によるギフトはなんとかうまく行ったかなと思います。3時のおやつを挟んで小休止した後はトークタイムへ。
濃厚な一日はまだまだ続きます。
当日の雰囲気を以下の動画にまとめました、次回のトーク編をご期待ください。