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とある冒険者の手記

A.成長

2021.10.17 07:28

「大変お世話になりました!」


ドマ町人地に大きな声が響き渡る。

屋敷の前でユウギリとヒエンにお辞儀をするアリス。

その顔は、晴れやかだった。


「他ならぬゴウセツの頼みであったからな、力になれて何よりだ」

「うむ!儂も、アリスが居たおかげで、少しばかり息抜きが出来た!」

「ヒエン様…」


困った様に溜め息を吐くユウギリ。

アリスの精神修行の合間に、ヒエンは公務の息抜きと称して刀の扱いをアリスに教えていたのだった。


「住む部屋まで提供していただいたうえに、ヒエン様直々に刀の訓練所もしていただいて本当に感謝してもしきれません!」

「そんなに感謝されると、何だか照れくさくなってしまうな」


はっはっはっ!と豪快に笑うヒエン。


「お主の持っていた刀がかなりの業物だったから興味が湧いただけのこと、感謝される様なことでもあるまいて」

「いえ、見様見真似で刀を振るうより、本場の動きを教えて貰って本当に助かりました!」


更に感謝をされ、「いや、参ったのう」と笑うヒエン。


「それでは、そろそろ行きます」

「おう!また何時でも来るが良い!お主とまた手合わせをしたいからのう!」

「ヒエン様っ!!」


ヒエンの言葉にユウギリが牽制を入れ、「ユウギリは真面目すぎる」とヒエンが笑った。

そして、もう一度アリスは「ありがとうございました!」と2人に言って、ドマ町人地から去った。

町人地を出たアリスは、真っ直ぐ自宅には戻らず、トームストーンを直すため、ガーロンド社の社員が滞在している場所へと向かった。

手早くトームストーンを直して貰い、アリスはヘリオに「今から帰るよ」とチャットを送った。

1~2分して、ヘリオから「分かった」と返信があり、アリスは自宅へとテレポした。

少し前に個人宅のあった場所にFCハウスを引越しさせ、自宅と兼用する事にしたハウス。

1階の共有スペースから地下の居住スペースへと向かう扉を、深呼吸して開ける。

開けると同時に鼻をくすぐる料理の香り。

ヘリオが部屋に居るのが分かる。

ゆっくりと階段を降りると、椅子に座ったヘリオの姿が視界に入った。


「ただいま」

「おかえり」


相変わらずの無表情で返される挨拶。

アリスがヘリオの元へ進むと、ヘリオは席を立ち、アリスの方を向く。


「あの、ヘリオ…ごm…」

「悪かったな」


謝る前にヘリオに謝られ、キョトンとするアリス。


「え…なんで?」

「あの時、アンタの様子がおかしいのに気づいていたのに、いつもと変わらない厳しい言葉をかけた。結果、アンタを傷つけた」


ヘリオの言葉に唖然とするアリス。


「正論でも、言葉を選ぶべきだった。俺の選択ミスだ。すまなかった」


頭を下げるヘリオに、アリスはやっとの想いで口を開いた。


「ヘリオは悪くないだろ?ヘリオが気休めを言うタイプじゃないのを分かってたのに、それを求めてしまった俺の心の弱さが原因なんだし…」


アリスの言葉に、ヘリオは溜め息を吐いた。


「姉さんが言ってたぞ、お前は俺を甘やかしてるって」

「え?」

「自分に原因があるって言って、相手の悪い所を指摘しない。場合によってはそれは良いことだが、それだと相手は成長しないってな」


その言葉に、アリスは考え込む。

自分がいなければ、ヘリオは姉のガウラと暁のメンバーぐらいしか関わりを持たなかっただろう。

それは、ガウラにエーテルを返すと言う目的が優先で、"いつか自分は消える"という事が前提だったからだ。

だが、自分と出会った事で、それ以外の人間と関わりを持つ事が増え、今は儀式の完了により、"自分が消える事はない"。

そうなると、自然と人と関わる場面は増えていくだろう。

ガウラの言葉にある"成長"とは、人との関わり方、対応の仕方等を指している。

それまで人と極力関わって来ず、感情の全てを知らないヘリオにとって、それを知っていくのが必要だと、アリスは悟った。


「そっか…、そうだよな」


以前、義姉ガウラに言われた言葉。


"私が教えることはできない。お前が代わりに教えてやってくれ"


その言葉が強く心に刺さった。

パートナーとして、自分が教えられること。

いつも教えて貰ってばかりの自分が、唯一出来ることをしっかりと再認識した。


「俺、今まで喧嘩になって嫌われたらって気持ちがあって、言うのを躊躇ってたのかもしれない」

「ほう」

「でも、これからはちゃんと伝えていくよ。これからのヘリオの事を考えてさ」

「っ!?ど、どういう意味だっ!?」


珍しくたじろぐヘリオに、小さく笑うアリス。


「でも、今回は俺の心が弱かったのも原因だから、おあいこ…だな」

「…そうだな」


そう言って、2人で小さく笑う。

そして、アリスはヘリオに歩み寄り抱きしめた。


「今回の事を踏まえて、改めて言葉を変えて聞き直すよ。ヘリオは…」


ヘリオを抱きしめる腕に、少し力が籠る。


「俺と出会えて良かった?」


少しの沈黙。そして─


「…そう思って無かったら、俺はここに居ない…」


小さく言われた言葉に、「そっか」と嬉しそうに答えるアリス。


「ヘリオ、これからも2人で一緒に成長していこう」


アリスの言葉に、小さく「あぁ」と返事をしたヘリオは、躊躇いがちにアリスの背中に手を回し、抱き締め返した。