Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

Extra9:御用邸の調査記録

2021.10.19 09:00


[依頼を受けたのはいいものの、情報を仕入れた結果1人で到達できるかが分からないから一緒に来てほしい]


だのなんだのと義弟が言ってきたのが午前7:00頃。

冒険の帰り道で野営しており、朝を迎え片付けをしていた最中にリンクシェルで連絡が来た。

こんな朝早くに連絡を寄越すのも少々珍しく、何事だと聞いてみれば上記の回答が帰ってきたのだ。

とりあえず話を進めてもらうと、どうも来月頃に守護天節を開催する予定らしいのだがその会場の1つで使われているハウケタ御用邸に妖異が出てきたらしい。

ハウケタ御用邸はそもそも妖異の住処に近いものとなっているため頻繁に現れるのだが、どうも今回は大型が3〜4体いたらしく…双蛇党が派遣され2体程討伐。

だが残りが御用邸の奥に行ってしまい足止めされたのだという。

奥へ進もうとすると視界が悪くなり、進むことができないと隊員が言っていた。

[まるで盲目になったかのようだ]

それで暁のメンバーにいるヤ・シュトラに依頼しようとしたのだが、本人は何か調査をしているらしく連絡はつかなかった。

どうしたものかと悩んでいるとたまたま双蛇党本部に立ち寄ったアリスに矛先が向いたようだ。


「依頼を引き受けた理由はエーテルを見る力だろう?」

《はい、双蛇党に伝えたわけではないんですけど、話を聞いているうちにもしかしたらできるかもしれないって思って…ってなんでその事知ってるんですか!?》

「あの時お前の眼を見たろう…。あの眼はまさにヤ・シュトラと似た何かに見えたからね、察したさ。

で、何が問題って言われると場所がハウケタ御用邸だってところか」

《はい…勢いで受けたものの場所を聞いたのが引き受けたあとで…》

「はぁぁ……」

《すみません゙…》

「…まぁいいさ。野営の帰りだったんだがちょうど北部森林でね。

南下すればハウケタ御用邸のある中央森林だったはずだから、そっちに向かい始めるよ」

《ありがとうございます!》

「それで、ヘリオには言ったのかい?」

《あぁ、はい伝えてます。

俺のエーテルを見る力を考えて、俺が先頭になるからヒーラーとして来てくれるって》

「分かった、ならそいつも連れて向かってきておいてくれ」

《分かりました!》


そう話し合い片付けを済ませ、ガウラは目的地へ向かうことにした。

ハウケタ御用邸…正直自分も(視界の悪さ的に)好きではないのだが、こちらも困ってる連中は放っておけない性分。

気持ちを切り替え覚悟を決めることにした。


─────


「おや、私が最後だったかい?」

「俺たちはベントブランチ牧場にテレポしてここへ来た」

「そりゃぁそっちのが早いか…」

「すみません義姉さん…手間かけさせてしまって」

「構わんさ。それにお前たち2人でも大丈夫だと思っていたが、私を呼んだことには理由でもあるんだろう?」

「俺が姉さんも呼んでおいた方がいいと言った。

残党の数が分からない以上、こちらも多めに戦力が欲しいからな」

「なるほどね」


挨拶を済ませ作戦会議に入る。

先に話していた通り、エーテルを見る力があるアリスがナイトで先頭に入り、ヘリオが占星術師で援護する。

ガウラは火力を優先して攻撃職で挑む。

双蛇党の情報を考えると、視界が悪く何が起きるか分からないのも困るので、回復蘇生もできる赤魔道士にするようだ。


こうして始まった妖異討伐は、序盤こそ問題なく進んでいたが進むにつれて情報通り視界が暗くなってきた。


─────


「アリス、エーテルを見るのは構わないが体力の消耗も激しいと聞いている。

使うのは要所要所で構わない、お前が倒れられる方が困るからね」

「分かりました。

今のところエーテルでは見えないですね…妖異だから闇属性のエーテルが濃く見えるとは思うんですけど」

「……姉さん、気配は?」

「音や視線はまだないね。

道中は下位の妖異しかいなかったが、この一帯はむしろ何も居なさそうだ」

「………喰っている…?」

「「は?」」


ヘリオが口にした[喰っている]。

アリスはきょとんとしたままヘリオを見るが、ガウラは彼の言っている意味が分かってきたようだ。

それは以前ハウケタ御用邸で対峙したハリカルナッソス…あれが使っていた[魔の誘惑]だ。

誘惑され連れられてきた別の妖異を喰らい吸収し、使用者の能力を上げるというものだ。

それは時に攻撃力にも比例され、上手く処理しきれないと大惨事を招くこともある。


この一帯だけ妖異が居ないのは確かに不自然ではある。

その不自然が[魔の誘惑]で起きているとなれば話は合うかもしれない。


「だ、大丈夫かな……」

「姉さん、魔の誘惑の処理は分かってるんだろ?」

「あぁ、理解はしているよ。

けれど既にここら辺の妖異が居ないと考えると、最悪の場合…かなりの攻撃力を持っている可能性がある」

「え゙…」


場所も相まって更に恐怖心が上がるアリス。

ヘリオはどうサポートするかを考え、ガウラは周りを見渡し次の部屋への扉を探し始めた。


─────


扉を見つけ進むと、妖異の死骸が山になっていた。

ある意味恐怖だ。

流石の双子もこればかりは震え上がる。


「大丈夫か?アリス…」

「は、はい大丈夫です!

みみみ、見なければいいし!?」


カラ元気だ。


「?

姉さん」

「なんだい?」

「今何か…」

「……音がする、布が擦れる音だ」

「え!?」


耳をぴくっと立て音の場所を探るガウラ。

慌てたアリスがエーテルを見ると、1箇所に強い闇属性のエーテルを感じた。


「義姉さん、この向こうです!」


山積みとなった死骸とは反対側にある部屋を指差す。

気付かれないようにそろりと部屋に近づき…


「だぁッ!

行けアリス!」

「はい!」


ガウラが勢いよく扉を蹴り開け道を作った。

アリスも戦闘へと意識を切りかえインターヴィーンで対象に接近した。

続けてヘリオが星天交差をアリスに使い援護を始める。

ガウラはアクセラレーション、エンボルデンを使い自身と周りに力を上げさせつつ連続魔法を駆使し魔法を打ち込み始めた。


魔法の光で一瞬一瞬だが敵の姿も見える。

大型の妖異だ。

姿を見るに、サキュバス系統のものだろう。

負けじと妖異もヴォイド系魔法を使う。

ガウラの予想通りに威力は強く、敵視を稼いでるアリスが防衛し何とか受け止めている状態になった。


「なんて力だ!」

「そのまま押さえとけ!」


コル・ア・コルで急接近し近接コンボを繰り出すガウラに妖異は対抗するものの、前と後ろから攻められている状態なので対応が遅れる。

ガウラにヴォイド・サンダラを放とうとすると、彼女はデプラスマンで引き下がる。

絶妙なタイミングで下がったことで敵の魔法を喰らうことなく避けることができた。


『オオォォオ…!』

「なん、だ!?」

「まずい!アドル!!」

「ッ!」


咄嗟にそれぞれ軽減を使っていく。

アリスは動くのに時間がかかると判断したのかディヴァインヴェールを、元々軽減の少ない赤魔道士…ガウラはアドル、ヘリオはディヴァインヴェールを展開するのにホロスコープ→アスペクト・ヘリオスを使用。

奇声を上げた妖異は止まることなく魔法の雨を降らせた。

魔の誘惑で威力の上がっている雨はとても鋭い痛みを与える。


しばらくし、ホロスコープが時間経過で味方に回復を与えた。

約30秒間も続いた雨に満身創痍の3人…軽減を活用していたアリスはタンク特有の耐久力で立ってはいる。

切り傷の多さから裂傷の状態異常を受けているようだ。

ガウラは軽減が少なかったのでヴァルケアルで維持していた…途中でアリスに庇ってもらいダメージを受け流そうと思い声を出したが、雨の音に遮られたのか指示は聞こえておらず。

こちらは切傷と少々のスタン。

ただでさえ差程魔法が得意ではないので息は荒くなっている。

ガウラが横目でヘリオを見る…姿勢を変えず目線だけ動かしてる彼の様子に違和感を覚えた。


『アアァ…』


妖異もかなり魔力を消耗したようでよろめいている。


「あ…アリス!」

「なんです、か!?」

「お前、そいつをもう少し見ておいてくれ!

ヘリオが変だ!」

「はぇ!?」


変な返事をしつつも妖異の敵視を稼ぎ始める。

スタンが解除されたガウラは自身の少ないエーテルを一旦諦め、ヤケクソに細剣を妖異に投げ刺した。

未だに状況を把握できていない様子のヘリオに近づき声をかける。


「…何が、起きている」

「妖異が消耗しきっている、アリスが敵視を稼いでいる。

でもアリスのダメージも大きいから回復をしたい。

私はもう魔力がないから回復してやれない、ヘリオはどうだ?」

「……魔力は残っているが対象の位置を定められない。

[盲目になっている気分だ]」


[盲目]

双蛇党の隊員も口にした言葉だった。

見えていない…暗闇状態。

先の妖異が降らせた雨により各々状態異常を喰らっていたのは目に見えていたが、どうやらその中に暗闇もあったようだ。

長時間続き、且つエスナが使えないそれは恐らく戦闘が終わらない限り消すこともできないだろう。


「なぁヘリオ」

「なんだ」

「見えていないならその武器を使わせてくれないかね」

「は?」

「今のお前よりは動けるさ」


そう言って武器を奪い取るガウラ。

急な判断に着いていけず困惑するヘリオだが、見えていないのでガウラの腕には手が届かない。


「ふぅ…アリス、聞こえるかい!?」

「聞こえます!俺もうそろそろ体力限界…ッ!」

「分かってる!

あと10秒持っててくれ!」

「はい!

…インビンシブル!」


10秒で何ができるのか。

少ない魔力でできることは、[限界を超えた力]のみ。

周囲の環境エーテルに頼り詠唱を始めるガウラ。

エーテルの流れを感じたヘリオが声を上げる。

[あんたの力では無理だ]と。

だがガウラは武器を手放さなかった。

詠唱を始めた彼女を止めなければ…消えてしまうかもしれない。

そう考えた時には彼の足が地面を蹴っていた。


「星の恵みよ、星の生命よ…。

命を活性化させ、限界を越えよ。

……星天…」

「返せ!」

「ヘリオ!?」


乱入するように入り込み、武器を取り返すヘリオ。

いつの間に近づいてきていたんだ。

そんな表情をするガウラにヘリオはぼそりと呟いた。


「元々エーテルのないあんたを追っていたんだ。

考える必要なんてなかった…研ぎ澄ませば、あんたの居場所なんて分かっているから」

「は…?」

「星よ、命よ、活性させたその力で生者に恩恵を!

星天開門!」


ガウラより魔力を保っていた術者の力は、とても強大で凄まじい輝きを放った。

ガウラやアリスはその力に活性化され、力を取り戻す。

あまりの眩しさに妖異は目を押え狼狽える、その隙にアリスがレクイエスカットを使用…すぐさまコンフィテオルでトドメを刺した。


妖異が討伐されたことで視界が明るくなっていった。

状態異常が残ったままの3人は周りの様子を伺う。


「……はぁあ゙…生きた心地しなかったぁ゙…」

「おつかれ、アリス。

…ったくヘリオ!なんて無茶な!」

「無茶をしようとしたのは姉さんだろう!」

「ゔ…」

「暗闇状態だろうと星天開門であれば状態異常関係なく扱えるのに、それを何も言わず武器を取ってあんたが詠唱し始めて…エーテル残量くらい把握しているだろうに!」

「ま、まぁまぁヘリオ落ち着いて…」

「いや、確かにヘリオ言う通りだ。

妖異の力の異常さに私も焦っていたかもしれない」

「義姉さん…」

「……あのままあんたに使わせていたら、最悪消えていたぞ」

「そうだな」

「…あんたの唐突さは今に始まったことではないから直せとは言わないが…心臓に悪いから程々にしてくれ」

「……分かった」


また久しぶりに感情を露にしたヘリオを見た気がする。


─────


しばらく部屋で休んでいたが、状態異常がなかなか治らないので外に出ることにした。

御用邸の外に行けば治るかもしれないし、治らなくても外にいる隊員に治してもらえるだろうと判断したためだ。


「ほら」


そう言って少々乱暴にヘリオの手を掴み前を歩き始めるガウラ。

それを無言で受け入れ歩くヘリオ。

アリスは双子のその姿を見て、改めて彼らは家族なんだなと思った。

手を繋ぐなどあまり見ない彼らの様子は少し貴重だったかもしれない。


「……うー、俺もヘリオと手を繋ぎたいー!」

「はぁ!?」


そう言ってヘリオの空いている手を握り歩くアリス。

こちらはいつも通りな様子でよかった、かもしれない。


─────


外へ出ると徐々に身体が軽くなってきた気がする。

誰かが双蛇党の隊員と話をしている。


「お兄ちゃん!」

「あ、やっと出てきました!」


隊員と話していたのはリリンと彼女のパートナーとなったアリシラだった。

どうも帰りが遅い事が気になったらしくここまで来てしまったのだとか。

彼女らにアリスとヘリオを押し付け、ガウラが代わりに隊員の方へ話をしに行った。


「お疲れ様です、ガウラ大闘士」

「お疲れ様です。

大型妖異はどうも1体だったようです、ただそいつの力が強すぎたため奥地一帯があの様になっていたみたいです」

「なるほど、分かりました。

報酬は追ってお贈りします」

「分かりました」


各々敬礼し、隊員は先に本部へ帰っていった。

振り返り4人の様子を見てみると、何故かヘリオは暗闇状態のことを伝えたのかリリンに目元をガーゼでグリグリと擦られていた。

アリスは白魔道士に着替えケアルとケアルラを連発。

アリシラはリリンに何かを話していた。


「…相変わらずだねぇ」


ガウラは呆れた様子で彼らの元へ戻って行った。


─────


後日、アリスは双蛇党本部に寄り報告書を作成。

それと引き換えに報酬を貰い今回の件は終了となった。


「そういえばヘリオ」

「なんだ?」

「よく見えないってのに義姉さんの場所が分かったな?」

「……探るには問題なかった。

元々エーテルがない奴を追っていたから…特に変わらない姿勢で探っただけだ。

それにあの時だけあんたよりも強く環境エーテルが渦巻いていた。

姉さんは体内エーテルを消耗しすぎないように、独自で環境エーテルを利用することを学んだと言っていたから」

「あぁ、そう言われればあの時確かに環境エーテルが強く見えたなぁ…」

「環境エーテルを使って星天開門をしようとしたんだろうが、さすがに消耗しきっている状態でやらせるのは危険だから勢いに任せて武器を取り返していたらああなってしまった」

「……ヘリオって、意外と情熱的だな」

「?」

「あぁいや気にしないで!」


きょとんとしたヘリオを他所に話を切り替えようとするアリスだが、結局おどおどしてしまっているので変な空気になってしまった。

ちなみにあの後状態異常はどうなったかというと、3人ともきちんと手当をしてもらっているうちに異常はなくなったそうだ。

それでも長く続いていたことに変わりはないのでしばらく安静にと言われた。

ガウラは無茶をしようとしたことがヴァルにバレたそうで帰った後にこっぴどく怒られたとかなんとか。

まぁそれで無茶しなくなるのかと言われると彼女の場合はノーなんだろうけれど。


「よーし、今日はレストラン・ビスマルクで美味しいもん食べてスタミナ付けるぞ!」

「いや俺は…」

「帰るなんてもったいない!外はまだ明るいし何なら午前だし!

ほらヘリオも行くぞ!」

「あ、おい…」


手を繋ぎ楽しそうに笑うアリスを見て、断れないヘリオであった。


ガウラはというと、別件で不滅隊に呼ばれたので今日も朝から不在。

ヴァルは動き回る彼女の様子を見て小さくため息をついていた。