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トーストセットの旅①〜音楽喫茶わたべ〜

2017.04.10 05:17

トーストセット。

それはどこの喫茶店においてもほぼ必ずメニューにありながら、価格も手頃な庶民の味方である。


喫茶店探訪の楽しみとは何か。

最近のわたしは専らトーストセットを頼むことだ。


トーストセット。

食パンを焼き、バターを塗ったもの。店によってはジャムや付け合わせのサラダがあったりする。

シンプルでありながらそのお店の個性がふんだんに表れるのがトーストセットなのだ。


そんなトーストセットの虜になった羊が、長崎の喫茶店を巡りながらトーストセットについて語ろうというのが今回から連載する「トーストセットの旅」である!

足を伸ばして遠出することだけが旅ではない。市内の路面電車で行ける範囲もわたしにとっては旅である。

喫茶店は日常から離れられる非日常的な異空間であり、喫茶店へ行くということがそもそも旅と似ているのかもしれない。


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活水女子大学のある東山手から、出島道路の下の道へ抜けると一階部分がテナントになったマンションが見える。

その一角にある「音楽喫茶わたべ」の看板の光が目に入り、好奇心から覗いてみることにした。


そもそも音楽喫茶とはなんだろう。看板にはジャズとクラシックの文字。ちょっと敷居が高い気もしたが、閉店する17時まで1時間ほどだったので軽い気持ちで入ってみることにした。

ドアを開けるとカウンターに一人の中年男性、眼鏡のマスターとママさんがいた。窓際の席に座る。クラシックが流れているが、カフェで流れるようなBGMの音量・音質ともにえらい違うのは素人でもよくわかった。


メニューにさっと目を通し、トーストセットを注文。一つのルールとして、トーストセットを頼む時は原則コーヒーということにしている。コーヒーはこのお店らしくジャズブレンドとクラシックブレンドがあり、セットにはどちらか選べるようになっていた。


他のお店と違うのはメニューと一緒に注意事項と「リクエスト票」があることだ。注意事項には、高音質の音楽をお楽しみいただくためサービスに努めているが1時間半以上の滞在は飲み物の追加注文をお願いしている、という内容が書かれていた。

リクエスト票は音楽のジャンル、曲名、演奏者などのリストがあり、これをマスターに渡すとその曲をかけてくれるらしい(店にあるやつのみ)。


さっと食べてぼーっとしようと軽い気持ちで入ったが、こりゃえらい変な(面白い)店に来てしまったな…としみじみ感じた。

トーストセットがきた。

本当にシンプルなトーストで、バターが塗ってあり半分に切ってある。

コーヒーのカップを見て驚く。かつて働いていたカフェのバス通り裏で使っていたものと全く同じだ!!

トーストのもちもちした美味しさよりもそのカップでコーヒーを飲めたことがあまりにも嬉しくてにやけてしまった。


しばしトーストセットを堪能していると、初めにいた男性が帰り、入れ違いに中年の女性が店にやって来た。常連さんらしく、今日は何にしましょうという問いに以前流してもらったというジャズギターの曲をリクエストしていた。


なるほど…この店はこういうシステムなのねと彼女の好きな曲を聴いていたのだが、2曲目が流れた時点で「ごめんね、私ばっかり〜!」とこちらへ声をかけてきたのでどうぞお気になさらず、と返したのだがその後もちょいちょい話しかけられた。

特にお客さんも他にいないので「わたしもジャズは初めてで〜」などと話していたら愛想のいいマスターが色々とジャズについて教えてくれた。


ずっと窓辺を向いて食事をしていたので気付かなかったのだが、カウンターの奥に見慣れない大きな機材がある。左右に並んだ黒い長方形の上に謎の丸い物体。

それこそまさにこの生音のような臨場感を演出するスピーカーであった!

真ん中にはレコードプレーヤーが置かれ、その前にはレコードが山積みになっている。

それを見て西海の山奥にある音浴博物館を思い出した。まさかこんな街中でこんな音楽を聴けるとは……。


その後もジャズの歴史から様々なジャンルについて教えてもらい、わたしはジャズベースがメインになっている曲をリクエストし、ポール・チェンバースの「ベース・オン・トップ」を流してもらった。


話は尽きず、気付けば閉店時間を1時間オーバーしていたが、最後までジャズへの熱い気持ちを語っていたマスターの姿がとても印象的だった。ジャズをムーディーな音楽だと捉えるのはセンスがない、全て生命の音楽であり、静かなメロディーの中にも人間の生命が感じられるのだ。そう語るマスターから、初めの物静かな雰囲気とはまた違う一種の情熱を見た気がした。


不思議な出会いもまた旅の醍醐味だろう。いろんな人がいるということを感じると、自分の中にもまだ未知の部分があって、今後も絶えず変化を続けながら人生に成り得るような、そんな気がして少しわくわくする。

そしてコーヒーと音楽の組み合わせは黄金比的に良く、思いがけずハマりそうである。


トーストセットの旅はまだまだこれから。


つづく。