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木育教本としての「もくもくもぐもぐ」の目的とは

2017.04.10 22:42

   「個性化の時代」と言われるようになって久しい現代に於いて、初等教育に於ける多様な考え方を育み育てていくシステムを、どのように作ったら良いのか、「木育」という視点から考えてみた。

   答えが一つしかない問い。言い換えてみればあらかじめ答えが用意されている「問題」を私たちは幼い子供たちに課している。「友だちと仲良くしなさい」「けんかはだめ」「ご飯の前にお菓子を食べてはいけない」……等々。最後には「大人の言うことをきくこと」。誘導された答えに沿って、子供たちは成長していく。モラルが刷り込まれ、例えば、道路にごみを捨てる事が「出来ない」人間が誕生する。なぜなら、それは「悪いこと」だから。では、なぜ、道路にごみを捨ててはいけないのだろう。なぜ、人の物を盗ってはいけないのだろう。「悪いこと」はなぜ、悪いのだろう。理由を聞けば、きっとちゃんとした答えが返ってくると思う。権利の侵害が公共のモラルに反する事は、三才の子供にも経験で分かっている。しかし、「盗人にも三分の理」といわれるような微妙にデリケートな事柄については、彼等は理解する事は出来ないだろう。「正義」の絶対的な力。駄目なものはだめ、悪いものは悪い。悪は償わねばならない……。

    しかし、正義は一つではない。視点が変われば、違う結論が導き出される事もあるのだ。

    自分とは違う立場にある人の心の中で今何が起きているか、その葛藤や痛みを理解する事は容易ではない。けれどもそういった理解を、将来おとなになった彼等が持てなければ、未来の社会は絶望の闇に墜ちるだろう。


    異なる視点から幾つもの「正義」を導き出す能力。それは「想像力」と云われるものだ。架空の物語に心を飛ばし、命のないものに会話させる、子供の頃に特有の遊びだ。その中で子供は様々なものに変身する。海賊になったり、宇宙人に出会ったり、超能力を身に付けたりする。それを妨げてはいけない。現実逃避だとか、内向的だとか心配することはない。そうやって彼等はさかんに学んでいるのだ。この、自分というものの心の中になにが潜んでいるのかということを。自分の心について、存分に学んだ者のみが、他者の心の有りように想いを寄せることが出来る。自分だったら、どう感じるか、どう行動するか想像してみる。ひいては今、自分が他者に対してどういう働きかけをすべきかが考えられる、ということだ。


    このことから、私は一つだけの答えを持ち得ない、問いかけとしての「教本」をつくってみた。物語としては不完全な、穴だらけのお話し。情景描写もなければ、場面設定もあやふや。結末さえも宙に浮いている。最低限の骨組みの中に放り出された読み手たちは、当然のことに、迷子になって途方に暮れる。しかしそんな時、私たち大人と違って、子供たちならどうすればいいかをちゃんと知っている。柔らかい心を持つ彼等ならば、帰り道を見つけられるのだ。物語の中に入りこんで、知恵を使って謎を解き明かし、想像力を駆使して欠けている部分を補って、お話しを完成させることによって。無数の方向性、無数の結末が待っている。丁度、森の木々が一本として同じには育たないように。

   それだけではない。もし、私たち作り手や語り手と、受け手である子供たちの合作が上手くいったなら、その物語は新たな命を得て子供たちの心に根付き、成長し続けることだってあり得るのだ。

   それこそ、その子の人生に寄り添う、ほんとうの物語と云うことが出来るだろう。


   *木育教本「もくもく もぐもぐ」スンクとマーイの森のおはなし・木のじてん「ようてい木育倶楽部」製作の、絵本になった木育の案内書です。一話完結の短いお話しが、絵と共に大体、見開きページに収まっています。登場人物は妖精たちですが、取り上げられている事柄は家や森での日常的な出来事です。一話ごとにお話しのテーマであるタイトルが掲げられていて、一つ一つに、読んだ人が考えたり、感じたりせずにはいられなくなるような、秘密の仕掛けを施してあります。

    対象年齢は2、3歳の未就学児から大人までと幅広く、使い方も多様です。

  小さいお子さんをお膝に抱いて、読んであげる(もしくは自分で読む)本を持ってお散歩に行く。

 「読み聞かせ会」の絵本としてやアウトドアイベントのガイドとしてご使用できます。その場合は特に、読後、グループワークを行う事をお勧めします。お話しを聞く事によって生じた疑問について話し合う、刺激された感覚を言葉にしてもらう、語られていない部分を空想によって補って貰うなど、使い方は様々です。その為のガイドとして後半に「解説編」を設けました。書いてあることを参考にして、あるいは全然違う視点や方法でもかまいません。「その時、スンクは何て言ったと思う?」とか、「じゃあ、夏の森のにおいは?」「この木に集まる昆虫は? 動物は?」など、その場に応じた、楽しく、興味深い集いにしてください。もちろん、ご家庭で読まれる場合でもご家族で会話しながら、知識を深めたり、心を遊ばせたり、してほしいと思います。

 本編である「お話し」も解説も、堅苦しい事は一切書かれていません。反対にワクワクしたり、じーんとしたり、お話しとしての、読む楽しみを感じて頂けるようにと、心を砕きました。

 お手に取ってページをめくり、ハートに響く木育をめざしている私どもの活動にご参加頂けましたなら、望外の幸せです。