【死神、イタリアに降り立つ!】
~ 一角VSスクアーロ ~
日が落ちようとしている・・・
うっそうと茂った森の中、夕日に映える樹々の足元では、すでに闇が満ちていて、枝から枝へと移動するスクアーロの足元にも、忍び寄り、ともすれば飲み込もうと手ぐすねひいて待っていた。
「キリがねぇな・・・」
数に物を云わせた攻撃は、雑魚だらけとはいえ・・・疲れる。
さすがの作戦隊長スクアーロの顔にも、疲労の色が浮かんでいる。一体、いくつの小隊をぶっつぶしただろう・・・いちいち数えちゃいないし、覚えちゃいない。
他の奴らは何をしてやがる?とぼやきながら、木の上で小休止・・・先ほどボスのXANXUSと連絡をとろうと試みたが、何度呼び出しても反応なし。おそらく、イヤホンをはめていないか・・・壊したか、そんなところだろう。
『俺に用があるなら、お前が戻って来い ─── 』
そういう奴だ、XANXUSは。
「仕方ねぇ、一旦戻って・・・作戦会議だ」
このままじゃ、体力を消耗するだけでラチがあかない。XANXUSの待つ城に向かおうと、方向を変えたその時だった。
「・・・まだ、残っていやがったのか」
チッ、と舌打ちし、スクアーロは呟いた。
木の上の彼を見上げるように、男が立っている・・・攻撃をしかけてくるでもなく、まわりに人の気配もない。先ほど倒した奴らの生き残りか、と思ったが・・・ミルフィオーレの制服は白なのに対して、男が身にまとっているのは、黒い・・・着物のようなもの。
「何者だ?」
探るのは、面倒臭いとばかりに枝を蹴ったスクアーロは、迷わず男の前に飛び降りた。
「う゛お゛ぉい」
開口一番、叫ぶ。
「たった一人で、このスクアーロ様に挑むとは・・・いい度胸だなぁっ」
「うぁん?」
刀を担いだ男が、ギロリ、とこちらを向いた。一瞬探るような眼差しを走らせ、
「見えンのか・・・俺が」
「何、わけのわからんこと云ってる?・・・この、禿げがぁっ」
「んだとぉっ!?」
男が気色ばむ。傷つくわけじゃないが、他人から『禿げ』と呼ばれるのは、頭にくるらしい。
「そのうっとぉしい長髪・・・俺が切ってやらぁぁっ」
にやりと笑って、禿が吼えた
「・・・う゛お゛ぉい、やれるもんならやってみろぉっ!ハゲ、お前の方こそ、今すぐ、三枚おろしにしてやるぜぇ・・・」
スクアーロの唇にも、笑み。
「おい、ロン毛ぇ、名前教えておいてやるよ」
肩に担いだ刀を下ろし、スラリと抜いた。
「殺す相手には名を名乗る、それが、俺の流儀だ・・・」
左手に刀を持ち、右手に鞘を握る。
「更木隊第三席、斑目一角・・・それが、テメェを殺す男の名だ!」
禿・・・こと斑目一角が吼えた。
「じゃあ俺も教えといてやる・・・スペルビ・スクアーロ。覚えろなんて云わねぇ、 ─── どうせ貴様は死ぬんだからなぁ!」
スクアーロは高らかに、宣言した。
地を蹴ったのは、二人、同時だった。
「・・・うるさいと思ったら・・・」
やれやれ、とベルがつぶやいた。
『作戦会議だ、戻れ』との命令で、XANXUSの待つ城へと向かっていたベルとフランの二人だが、足元から・・・というより森全体に響き渡るようなわめき声に、足を止めた。見れば、闇の中に浮かぶ人影が・・・
「せんぱぁーい・・・ロン毛と禿の対決 ─── なんか、眩しくないですかぁ?」
隣でフランがつまらなそうに呟いた。
ぶつかりあう、刃と刃・・・そして、スクアーロの銀髪と禿頭。
「なんだ、アレ・・・ミルフィオーレじゃなさそうじゃん」
少し離れた木の上で、高みの見物としゃれ込んだベルとフランだったが、敵の正体を掴みかねてベルは小首をかしげた。
見慣れた白い制服ではなく、黒装束・・・ジャッポーネの着物みたいだ。
「敵さんの・・・特殊部隊かなんかじゃないんですか?」
「ニンジャか?」
のん気な会話を交わす二人には、スクアーロの加勢に行く気は、まるでなし。毛色の変わった敵の登場に、暇つぶしがてらの野次馬だ。
「・・・死神だよ」
背後から会話に加わってきた声に、かったるそうに二人は首をめぐらせた。
「何、お前・・・」
スクアーロと対峙する男と似たような黒装束に身を包んだ男に、ベルは言葉を噛み付かせる。もちろん、左手には匣を持ちいつでも開匣できる体勢だ。
「君たちにも、僕らの姿が見えるようだね」
こちらは禿ではないが、眉毛と眦に奇妙な飾りをつけている。
「普通の人には、僕らの姿は見えないはずなんだけど・・・」
男は艶然と微笑んで、小首をかしげた。しぐさが物語る、どこから見てもナルシスト。
「だって・・・オレ、王子だもん」
ししし♪と笑ったベル。
「ミーは幻術使いですしぃ・・・ってゆーか、ベルせんぱい・・それ、理由になってないですよ?」
「うっせーよ、お前だって、意味わかんねーし」
「・・・死神さぁん、このヒト、地獄に連れてっちゃって下さぁい」
プスッ、とフランのカエル頭にナイフが刺さった。
「やめて下さいよぉ」
「うっせ、てめぇが地獄へ行け」
「あのさ ─── 君たち」
たまりかねて、男が割って入る。
「僕を無視して盛り上がるの、やめてもらえないかな・・・我慢がならないんだけど?」
男の口調がムッとしている。
「ししし・・・ちょうどいいや。作戦隊長がここで足止めなら、城に戻っても退屈なだけだ」
手にナイフをセットして、ベルが笑った。
「やるのかい?」
男も腰の刀に手をやる。
「藤孔雀・・・」
男の呟きに反応して、刀が姿を変えた。刃が四枚・・・扇のように開く。
「更木隊第五席・・・綾瀬川弓親。僕のこの手にかかって死ねるとは ─── 君たち、幸運だね」
男・・・弓親がフッと笑った。勝利の笑み、というよりも口上に対しての自己陶酔。
「・・・なんか、そのカタナ・・・先輩のナイフと並ぶくらい ─── シュミワル~」
ぼそりとくだされた、残魄刀にたいする評価に、弓親が憮然とする。
「そんなカエルの被り物被ってる君には、云われたくないね」
「ミーは、好きで被ってるわけじゃないですよぉ。・・・先輩たちの、ティアラとかぁ、その目元のワンポイントは好きでつけてるんですよね?正直、ヘンだと思うんですけどぉ?」
100%神経を逆撫でするポイントを、フランは押さえている。
「ししし・・・ユミチカとかいったっけ?ちょっと待ってくれる?こいつ、先に殺っちゃうから ─── 」
「いや、ぼくがやるよ・・・君こそ、ちょっと待っててくれるかな ─── 大丈夫、退屈はさせないよ、一瞬で終わるからね」
ずいっ、と弓親がフランにむかって間合いを詰めた。
その時だった、すさまじい光が辺り一帯を包み込み・・・木々がなぎ倒されるかのような勢いで揺れた・・・
枝の上の三人は、たまらず下へと飛び降りる。
「なんだぁ?」
「・・・一角!」
駆けつけた三人の見たものは・・・
刀で切りつけ、鞘で防御・・・のスタイルでスクアーロと対峙していた、一角だが・・・敵の力量に、鬼灯丸を解放した。
「伸びろ!『鬼灯丸』」
の声に、鬼灯丸が姿を変えた・・・一本の槍へと。
「う゛あん?」
スクアーロが目を眇める。
「へへへ、そろそろ、決着つけようぜ?」
にやり、と口元を歪ませた一角に、スクアーロも匣を取り出した。
「ああ、俺も・・・暇じゃねぇからなぁ!」
ぼっと灯ったリングの炎を、匣へと注入する。
「『暴雨鮫』!!」
まばゆい光を纏って、宙に鮫の姿が出現した。一角の目が、見開かれ、鮫の姿を凝視する。臆しているのではない、値踏みしているのだ。
「なんだ・・・こいつは」
【虚】とは違う・・・だが、手強そうだ。
力量次第では・・・卍解を使うか・・・解放したばかりの鬼灯丸を手に、一角は今まで対峙したことのないタイプの敵に、楽しくてしょうがない。
「一角!」
だが、その勝負に水を差す声が割って入った。
「弓親か」
応えるが、視線は鮫からはずさない。
「う゛お゛ぉいっ!援軍か?禿」
小ばかにしたように、スクアーロがわめく。
「禿じゃねぇって云ってんだろ!・・・邪魔すんじゃねぇよ、弓親ぁ」
「お楽しみのところ、悪いけどね、一角 ─── こいつらは、僕らの敵じゃないみたいだよ?」
「んだとぉ?」
「云われたろ?僕らの任務は【謎の魂魄反応】を探る事。この鮫・・・匣兵器っていうらしいんだけど、その匣兵器を扱うための、特殊な炎 ─── それが、【謎の魂魄反応】の正体らしいよ」
「だから?」
「・・・【謎の魂魄反応】は、我々にとって害を成すものじゃないってこと。わかったら、さっさと帰って報告しなくちゃ・・・」
「そうは、いかねぇようだぜ?弓親 ─── 」
「一角?」
ききわけのない、と眉間に皺を寄せた弓親だったが・・・一角の視線は、鮫ではなく別のものの姿をすでにとらえていた。
「・・・【虚】だ、どうやら、俺たちの戦いに反応して出てきやがったらしい・・・」
見れば、広がる星空に裂け目のようなしみが広がりはじめている。
「やれやれ、【虚】退治か・・・丁度いい、退屈してたところだからね」
弓親が、ぼやきながらも藤孔雀を握りなおす。
「う゛お゛ぉい、貴様・・・逃げるのか!?」
逃がしはしないという勢いに、
「隊長・・・ミルフィオーレの奴らも来てンだけど?どおするよ?」
ベルが頭の後ろに腕を組み、のんびり声をかける。
「ってゆーかぁ、あのヒトたち・・・ミルフィオーレじゃないみたいですよ?無駄な戦いしてないで、あっちの敵さん倒して下さいよぉ」
フランが後ろを指差し、ぼやく。
「倒して下さいじゃねぇだろ?貴様らがやれ!」
銀の髪が翻り、ベルとフランに視線を噛み付かせ、スクアーロが吼えた。
近づいてくるミルフィオーレの小隊に、スクアーロは『暴雨鮫』を向かわせる。ししし♪と笑ったベルの肩から、いつのまにか開匣されていた『嵐ミンク』も、その姿を躍らせる。
「ちょっと、数が多いな・・・」
「行くぜ、弓親」
死神二人は、空間の裂け目から這い出てきた【虚】へと向かっていく。
「う゛お゛ぉい!斑目とかいったな?禿」
「禿じゃねぇ!」
「貴様の太刀筋・・・悪くないぜ。今度逢った時は、必ず倒す ─── それまで、生き延びろ」
スクアーロの言葉に、一角はふっと口元をほころばせ、
「俺の実力は、まだまだこんなもんじゃねぇぜ・・・俺に逢わないよう、せいぜい気をつけるんだな!」
ふっと、お互い笑った。
それが、別れの挨拶・・・
すれ違うように、お互いの敵へと向かう二人は、もう振り返らない。
「楽しかったみたいだね、一角」
「あぁ、久しぶりに手ごたえのある奴だったぜ・・・」
「こっちは、大した手ごたえなさそうだね。さっさと倒して尸魂界へ帰ろう」
【虚】に向かってアゴをしゃくった弓親に、「おうよ!」と答え、一角は鬼灯丸を構えた。
一方、ヴァリアーのほうでは、思い出したようにフランがつぶやいた。
「どうせなら、あのアホの作戦隊長・・・死神に連れてってもらえばよかった、なぁ」
☆ END ☆