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【東雲堂酔夢譚】

【死神、イタリアに降り立つ!】

2017.03.31 15:00

~ 一角VSスクアーロ ~

 日が落ちようとしている・・・

 うっそうと茂った森の中、夕日に映える樹々の足元では、すでに闇が満ちていて、枝から枝へと移動するスクアーロの足元にも、忍び寄り、ともすれば飲み込もうと手ぐすねひいて待っていた。

 「キリがねぇな・・・」

 数に物を云わせた攻撃は、雑魚だらけとはいえ・・・疲れる。

 さすがの作戦隊長スクアーロの顔にも、疲労の色が浮かんでいる。一体、いくつの小隊をぶっつぶしただろう・・・いちいち数えちゃいないし、覚えちゃいない。

 他の奴らは何をしてやがる?とぼやきながら、木の上で小休止・・・先ほどボスのXANXUSと連絡をとろうと試みたが、何度呼び出しても反応なし。おそらく、イヤホンをはめていないか・・・壊したか、そんなところだろう。

 『俺に用があるなら、お前が戻って来い ─── 』

 そういう奴だ、XANXUSは。

 「仕方ねぇ、一旦戻って・・・作戦会議だ」

 このままじゃ、体力を消耗するだけでラチがあかない。XANXUSの待つ城に向かおうと、方向を変えたその時だった。

 「・・・まだ、残っていやがったのか」

 チッ、と舌打ちし、スクアーロは呟いた。

 木の上の彼を見上げるように、男が立っている・・・攻撃をしかけてくるでもなく、まわりに人の気配もない。先ほど倒した奴らの生き残りか、と思ったが・・・ミルフィオーレの制服は白なのに対して、男が身にまとっているのは、黒い・・・着物のようなもの。

 「何者だ?」

 探るのは、面倒臭いとばかりに枝を蹴ったスクアーロは、迷わず男の前に飛び降りた。

 「う゛お゛ぉい」

 開口一番、叫ぶ。

 「たった一人で、このスクアーロ様に挑むとは・・・いい度胸だなぁっ」

 「うぁん?」

 刀を担いだ男が、ギロリ、とこちらを向いた。一瞬探るような眼差しを走らせ、

 「見えンのか・・・俺が」

 「何、わけのわからんこと云ってる?・・・この、禿げがぁっ」

 「んだとぉっ!?」

 男が気色ばむ。傷つくわけじゃないが、他人から『禿げ』と呼ばれるのは、頭にくるらしい。

 「そのうっとぉしい長髪・・・俺が切ってやらぁぁっ」

 にやりと笑って、禿が吼えた

 「・・・う゛お゛ぉい、やれるもんならやってみろぉっ!ハゲ、お前の方こそ、今すぐ、三枚おろしにしてやるぜぇ・・・」

 スクアーロの唇にも、笑み。

 「おい、ロン毛ぇ、名前教えておいてやるよ」

 肩に担いだ刀を下ろし、スラリと抜いた。

 「殺す相手には名を名乗る、それが、俺の流儀だ・・・」

 左手に刀を持ち、右手に鞘を握る。

 「更木隊第三席、斑目一角・・・それが、テメェを殺す男の名だ!」

 禿・・・こと斑目一角が吼えた。

 「じゃあ俺も教えといてやる・・・スペルビ・スクアーロ。覚えろなんて云わねぇ、 ─── どうせ貴様は死ぬんだからなぁ!」

 スクアーロは高らかに、宣言した。

 地を蹴ったのは、二人、同時だった。

 

 「・・・うるさいと思ったら・・・」

 やれやれ、とベルがつぶやいた。

 『作戦会議だ、戻れ』との命令で、XANXUSの待つ城へと向かっていたベルとフランの二人だが、足元から・・・というより森全体に響き渡るようなわめき声に、足を止めた。見れば、闇の中に浮かぶ人影が・・・

 「せんぱぁーい・・・ロン毛と禿の対決 ─── なんか、眩しくないですかぁ?」

 隣でフランがつまらなそうに呟いた。

 ぶつかりあう、刃と刃・・・そして、スクアーロの銀髪と禿頭。

 「なんだ、アレ・・・ミルフィオーレじゃなさそうじゃん」

 少し離れた木の上で、高みの見物としゃれ込んだベルとフランだったが、敵の正体を掴みかねてベルは小首をかしげた。

 見慣れた白い制服ではなく、黒装束・・・ジャッポーネの着物みたいだ。

 「敵さんの・・・特殊部隊かなんかじゃないんですか?」

 「ニンジャか?」

 のん気な会話を交わす二人には、スクアーロの加勢に行く気は、まるでなし。毛色の変わった敵の登場に、暇つぶしがてらの野次馬だ。

 「・・・死神だよ」

 背後から会話に加わってきた声に、かったるそうに二人は首をめぐらせた。

 「何、お前・・・」

 スクアーロと対峙する男と似たような黒装束に身を包んだ男に、ベルは言葉を噛み付かせる。もちろん、左手には匣を持ちいつでも開匣できる体勢だ。

 「君たちにも、僕らの姿が見えるようだね」

 こちらは禿ではないが、眉毛と眦に奇妙な飾りをつけている。

 「普通の人には、僕らの姿は見えないはずなんだけど・・・」

 男は艶然と微笑んで、小首をかしげた。しぐさが物語る、どこから見てもナルシスト。

 「だって・・・オレ、王子だもん」

 ししし♪と笑ったベル。

 「ミーは幻術使いですしぃ・・・ってゆーか、ベルせんぱい・・それ、理由になってないですよ?」

 「うっせーよ、お前だって、意味わかんねーし」

 「・・・死神さぁん、このヒト、地獄に連れてっちゃって下さぁい」

 プスッ、とフランのカエル頭にナイフが刺さった。

 「やめて下さいよぉ」

 「うっせ、てめぇが地獄へ行け」

 「あのさ ─── 君たち」

 たまりかねて、男が割って入る。

 「僕を無視して盛り上がるの、やめてもらえないかな・・・我慢がならないんだけど?」

 男の口調がムッとしている。

 「ししし・・・ちょうどいいや。作戦隊長がここで足止めなら、城に戻っても退屈なだけだ」

 手にナイフをセットして、ベルが笑った。

 「やるのかい?」

 男も腰の刀に手をやる。

 「藤孔雀・・・」

 男の呟きに反応して、刀が姿を変えた。刃が四枚・・・扇のように開く。

 「更木隊第五席・・・綾瀬川弓親。僕のこの手にかかって死ねるとは ─── 君たち、幸運だね」

 男・・・弓親がフッと笑った。勝利の笑み、というよりも口上に対しての自己陶酔。

 「・・・なんか、そのカタナ・・・先輩のナイフと並ぶくらい ─── シュミワル~」

 ぼそりとくだされた、残魄刀にたいする評価に、弓親が憮然とする。

 「そんなカエルの被り物被ってる君には、云われたくないね」

 「ミーは、好きで被ってるわけじゃないですよぉ。・・・先輩たちの、ティアラとかぁ、その目元のワンポイントは好きでつけてるんですよね?正直、ヘンだと思うんですけどぉ?」

 100%神経を逆撫でするポイントを、フランは押さえている。

 「ししし・・・ユミチカとかいったっけ?ちょっと待ってくれる?こいつ、先に殺っちゃうから ─── 」

 「いや、ぼくがやるよ・・・君こそ、ちょっと待っててくれるかな ─── 大丈夫、退屈はさせないよ、一瞬で終わるからね」

 ずいっ、と弓親がフランにむかって間合いを詰めた。

 その時だった、すさまじい光が辺り一帯を包み込み・・・木々がなぎ倒されるかのような勢いで揺れた・・・

 枝の上の三人は、たまらず下へと飛び降りる。

 「なんだぁ?」

 「・・・一角!」

 駆けつけた三人の見たものは・・・

刀で切りつけ、鞘で防御・・・のスタイルでスクアーロと対峙していた、一角だが・・・敵の力量に、鬼灯丸を解放した。

 「伸びろ!『鬼灯丸』」

 の声に、鬼灯丸が姿を変えた・・・一本の槍へと。

 「う゛あん?」

 スクアーロが目を眇める。

 「へへへ、そろそろ、決着つけようぜ?」

 にやり、と口元を歪ませた一角に、スクアーロも匣を取り出した。

 「ああ、俺も・・・暇じゃねぇからなぁ!」

 ぼっと灯ったリングの炎を、匣へと注入する。

 「『暴雨鮫』!!」

 まばゆい光を纏って、宙に鮫の姿が出現した。一角の目が、見開かれ、鮫の姿を凝視する。臆しているのではない、値踏みしているのだ。

 「なんだ・・・こいつは」

 【虚】とは違う・・・だが、手強そうだ。

 力量次第では・・・卍解を使うか・・・解放したばかりの鬼灯丸を手に、一角は今まで対峙したことのないタイプの敵に、楽しくてしょうがない。

 「一角!」

 だが、その勝負に水を差す声が割って入った。

 「弓親か」

 応えるが、視線は鮫からはずさない。

 「う゛お゛ぉいっ!援軍か?禿」

 小ばかにしたように、スクアーロがわめく。

 「禿じゃねぇって云ってんだろ!・・・邪魔すんじゃねぇよ、弓親ぁ」

 「お楽しみのところ、悪いけどね、一角 ─── こいつらは、僕らの敵じゃないみたいだよ?」

 「んだとぉ?」

 「云われたろ?僕らの任務は【謎の魂魄反応】を探る事。この鮫・・・匣兵器っていうらしいんだけど、その匣兵器を扱うための、特殊な炎 ─── それが、【謎の魂魄反応】の正体らしいよ」

 「だから?」

 「・・・【謎の魂魄反応】は、我々にとって害を成すものじゃないってこと。わかったら、さっさと帰って報告しなくちゃ・・・」

 「そうは、いかねぇようだぜ?弓親 ─── 」

 「一角?」

 ききわけのない、と眉間に皺を寄せた弓親だったが・・・一角の視線は、鮫ではなく別のものの姿をすでにとらえていた。

 「・・・【虚】だ、どうやら、俺たちの戦いに反応して出てきやがったらしい・・・」

 見れば、広がる星空に裂け目のようなしみが広がりはじめている。

 「やれやれ、【虚】退治か・・・丁度いい、退屈してたところだからね」

 弓親が、ぼやきながらも藤孔雀を握りなおす。

 「う゛お゛ぉい、貴様・・・逃げるのか!?」

 逃がしはしないという勢いに、

 「隊長・・・ミルフィオーレの奴らも来てンだけど?どおするよ?」

 ベルが頭の後ろに腕を組み、のんびり声をかける。

 「ってゆーかぁ、あのヒトたち・・・ミルフィオーレじゃないみたいですよ?無駄な戦いしてないで、あっちの敵さん倒して下さいよぉ」

 フランが後ろを指差し、ぼやく。

 「倒して下さいじゃねぇだろ?貴様らがやれ!」

 銀の髪が翻り、ベルとフランに視線を噛み付かせ、スクアーロが吼えた。

 近づいてくるミルフィオーレの小隊に、スクアーロは『暴雨鮫』を向かわせる。ししし♪と笑ったベルの肩から、いつのまにか開匣されていた『嵐ミンク』も、その姿を躍らせる。

 「ちょっと、数が多いな・・・」

 「行くぜ、弓親」

 死神二人は、空間の裂け目から這い出てきた【虚】へと向かっていく。

 「う゛お゛ぉい!斑目とかいったな?禿」

 「禿じゃねぇ!」

 「貴様の太刀筋・・・悪くないぜ。今度逢った時は、必ず倒す ─── それまで、生き延びろ」

 スクアーロの言葉に、一角はふっと口元をほころばせ、

 「俺の実力は、まだまだこんなもんじゃねぇぜ・・・俺に逢わないよう、せいぜい気をつけるんだな!」

 ふっと、お互い笑った。

 それが、別れの挨拶・・・

 すれ違うように、お互いの敵へと向かう二人は、もう振り返らない。

 「楽しかったみたいだね、一角」

 「あぁ、久しぶりに手ごたえのある奴だったぜ・・・」

 「こっちは、大した手ごたえなさそうだね。さっさと倒して尸魂界へ帰ろう」

 【虚】に向かってアゴをしゃくった弓親に、「おうよ!」と答え、一角は鬼灯丸を構えた。

 一方、ヴァリアーのほうでは、思い出したようにフランがつぶやいた。

 「どうせなら、あのアホの作戦隊長・・・死神に連れてってもらえばよかった、なぁ」

                           ☆ END ☆