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とある冒険者の手記

V.抑えられぬ激情

2021.10.20 23:30

ヘラを探し始めて少しした頃、ヴァルに里から司令が届いた。


─奴隷を積んでいる荷馬車を探し出し、奴隷を逃がせ─


というものだった。

普段であれば、この程度の依頼は護りの使命が無い者に回ってくるのだが、奴隷の特徴の欄を見て、何故自分にこんな依頼が回られたのかを悟った。


─奴隷は全て、白い髪をしている─


もしかしたら、奴隷の中にヘラがいるかもしれない。

指令書には、見張りや護衛の命は問わないとの記載。

楽な仕事、しかもヘラが見つかる可能性があるなら一石二鳥と、素早く行動を開始した。

意外にも早く奴隷の荷馬車を見つけ、夜に野営をしている時を狙った。

見張りと護衛をあっさり仕留め、奴隷を解放した。

次々と逃げ出す奴隷の中にヘラが居ないか目を凝らしていると、奴隷の1人が「危ないっ!!」と声を上げた。

反射的に振り返ると左目に激痛が走る。


「くっ」


咄嗟に後ろに飛び退き、状況を把握する。

どうやら、護衛の1人を仕留め損ねて居たようで、ナイフを持って息荒く、怒りを滲ませている。

半狂乱になっているのかナイフを振り回しながら襲いかかってくる護衛。

予測がつかない動きで襲ってくる護衛のナイフがヴァルの頬から鼻筋を切り裂いた。


「チィっ!」


ヴァルは素早く懐に入り、護衛の胸に短剣を突き刺した。



************



そんなことがあったのはヴァルが15歳の時だった。

ヴァルはクルザス西部高地のヘムロックにある小屋の前で息を潜めていた。

何故、今そんな前のことを思い出したかと言うと、似たような状況に巻き込まれているからであった。

音信不通になったガウラを探して、ようやく辿り着いた人攫い達のアジト。

ガウラの弟達からの情報で、他にも攫われた人達が居たらしいが、それを逃がして1人残ったのがガウラの可能性が高いとの事だった。

そして、今回の被害者の共通点も白い髪。

アリスに座標と増援要請を送り、行動に出た。

あっさりと小屋の中に侵入し、様子を伺う。

相手は男5人。

金蔓を逃がされた事で気が立っている1人を最初の標的に決め、ヴァルは奇襲を掛けた。

1人、また1人と気絶させ、残った男は2人。

これ以上の奇襲は難しいと判断したヴァルは、男等の前に姿を現す。

その時に香った花の甘い香り。

男共の足元に倒れている髪の短いミコッテ族。

それが、ガウラであると確信した途端、全身の血液が逆流する様な感覚に襲われる。


「な、なんだ女じゃねぇか」

「そんな怖い顔をするなんて勿体ないぜお嬢ちゃん。子猫はさっさと帰りな!」


男等の言葉に、感情を抑えながらヴァルは答えた。


「その子を返してくれたら、な」 

「それは無理な相談だ。俺たちはこの子に用事があるんだから」

「あたいもその子に用事がある」

「へぇぇ?けど悪ぃな、俺たちが先約だ。とっとと帰りな!」


 次の瞬間、男の1人が黒魔法を連発。

それを防ぐのに手一杯で、なかなかガウラに近づけない。

ヴァルに苛立ちが募っていく。

そんな時、ガウラの近くに居た男が、ガウラの髪を鷲掴みにし、顔を上げさせた。


「起きろよ嬢ちゃん、可愛い子猫がお前を探しに来てくれたんだとよ」

「……゙」


虚ろな瞳に薄ら涙を浮かべたガウラの顔。


「゙、ァ…ル……」

「……ッ!その子に触れるな!!」


怒り任せに、飛んできた魔法を叩き切った。


─落ち着けっ、落ち着けっ!感情を殺せっ!感情に呑まれたら、助けられなくなるっ!─


フーッフーッと呼吸を整えて冷静さを取り戻そうとするヴァル。

その間にも男はごちゃごちゃと何かを言っていた。

そして、魔法を使っていた男がデスペアを放った。

素早く残影で受身を取る。

小屋の壁が破壊され視界が煙で遮られたが、吹き込んだ風で直ぐに視界はクリアになる。


「あーあ、派手にやってくれたな…。あぁ子猫ちゃんはそこから動くなよ?動くと子猫ちゃんの大好きな子が痛い目にあうことになるからなぁ」

「っ…」


無傷だった男は、ガウラを引きずりながら、破壊された壁から逃げようとする。

ガウラを人質に取られ、身動きが取れない。

奥歯をギリっと噛んでいると、ガウラの口が動いた。


─たすけて─


その瞬間、ヴァルの中でプツンと何かが切れる音がした。

そして、男は悲鳴を上げて崩れ落ちた。


「ガウラっ!!」


ヴァルはすぐさまガウラを助け起こした。

チョコボを呼び、荷台から毛布を取り出しガウラの体に巻く。


「…ヴァ…ル…」

「ガウラっ!!もう大丈夫だからな!」


ヴァルの言葉に、ガウラはホッとしたように小さく微笑み、眠りについた。

それを見て、ヴァルはギュッとガウラを抱きしめる。


─あたいがもっと、連絡を取っていればっ、目を離さなければっ─


ガウラを危険な目に合わせてしまった悔しさに、震えが止まらなかった。



***********



イシュガルドの医療館から無事に退院したガウラ。

弟達と、快気祝いと称したお茶会が終わった後、姿を現したヴァル。

ガウラは、ヴァルに問いかける。


「この髪、綺麗にできるかい?」


その問いに「……あぁ」と答え、ヘアメイク道具を取り出し、髪を整え始める。

髪は女の命。

その髪をこんな風にした上に、ガウラに恐怖を与えた奴らに、怒りは収まらないが、奴らはイシュガルドの監獄の中だ。

手の出しようもない。

蒼天騎士団の動きがなければ、ヴァルは奴らの命を間違いなく奪っていただろう。

だが、最後の1人に関しては手加減が上手く出来なかった。

死んではいないが、首の骨が折れて体の自由は効かない状態になっていたと、後からアリスから報告を受けた。


─ガウラの事になると、感情が上手く殺せない。あたいもまだまだだな…─


自分自身に苦笑しながら、髪を整え終えると、ガウラは言った。


「…私が泣きべそかいてたのは、秘密にしておいてくれな?」


その言葉は、今まで彼女が誰にもそんな姿を見せたことがないことを意味していた。


「………ふふ、了解した」


なぜだか、それが嬉しいと感じたヴァル。


「そうだ、ガウラに伝えておこうと思っていたことがある」

「なんだい?」

「あたいはこれから裏稼業を受けることはなくなった」


ヴァルの話に目を丸くするガウラ。


「今回のことで、お前は目を離すとろくなことに巻き込まれないと学んだからね。入院中に族長と話をつけてきた。これからはガウラを護ることだけに専念出来る」

「…流石従姉と言うか、血は争えないね…過保護なところが」

「何の話だ?」

「お前とアリスの話だよ」

「……あのバカと同じにされるのは心外だな」


ヴァルの発言にガウラは笑った。