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Past9:とある子供の成長記録

2021.10.23 08:30


母親の腕に抱かれキャッキャと楽しそうにしている小さな子供。

小さな両手を懸命に伸ばし目の前の蝶々を捕まえようとしているようだ。

捕まえてしまうと蝶々も可哀想だからと、母親は子供が手の届かないギリギリの位置で抱いたまま見守っていた。


「おーい、ジシャ!」

「なんだい!」

「そろそろ昼ご飯の時間だとさ!」

「分かった!」

「まんま!」

「行こうか、ヘラ」

「ん!」


元気に返事をするヘラ。

この子はまだ1歳になって間もない子だ。


─────


「ヘラちゃん、今日も楽しそうね」

「あぁ。

見るもの全てが新鮮みたいでね、何にでも興味を持つよ」


時間は午後3時頃、小さなママ会が始まっていた。

2歳になるナキの母親、リィを交えてお茶を楽しんでいる。

辺境の地の集落なので大したものではないのだが、娯楽としては十分だった。

ナキはこの時パパっ子だったので父親の所にいる。


「おぉーぅ」

「あら、立ったわ!」

「掴み立ちはよくやるようになったね。

そこから歩こうとするんだけど、掴んだ手を離さないものだからグルグル回ってるんだ」

「微笑ましいじゃない」

「あぁ、可愛いさ」


母親たちの事などお構いなしに、自由に過ごすヘラ。

この世代は運が悪く子供は現在ヘラとナキのみだった。

数年後には2人子供が増えたのだが、純血児はヘラのみである。

子供が少ないので、ヘラとナキは集落内では小さなアイドルのようだったかもしれない。


「そういえばジシャ」

「なんだい?」

「子供が魔法を扱えるようになるのはいつ頃になるんだっけ?」

「あぁ…どうなんだろうね、私は聞いたことがないや」


─────


ヘラは夜になるとよく泣いてしまう。

手で何かを追い払うようにして少し暴れる。

様子を見るからに精霊がイタズラをしているようだ。

そういう時、ジシャはよくヘラの目元を手で隠し視界をさえぎり、子守唄を唄う。

これはジシャも幼少期に母親にやってもらっていた行為で、ジシャもヘラもこれで落ち着くことが多かった。


この日は珍しく夜泣きもなかったようで、親子揃って仲良く寝ていた。

ヘラは寝相が悪いので気づけば母親のお腹の上に寝そべっていた。


─────


朝、ジシャが目を覚ますと横で立ったままじっと彼女を見つめているヘラの顔が見えた。

どうやらこの日はヘラの方が早起きだったようだ。


「まんま!」

「おはよう、ヘラ」


小さな手が頬に触れる。

とても温かく愛らしい。


「お、あいー」

「これ、どこに行くんだい。

そっちは壁だよ」


今日も元気そうだと思いながら身体を起こしヘラを抱き上げる。

視界が高くなりそれはそれで楽しそうに笑うヘラ。

そんなヘラが不意に手を挙げたその時、パンッと小さな音と同時に可愛らしい光が放たれた。


「………え?」


ジシャも何が起きたのか把握するのに時間がかかる。

これがヘラの初めての魔法だった。


─────


初めての魔法を見せてからは数日何もなかったが、どんどんと魔法を見せる回数が増えてきた。

ヘラ自身は無自覚に使っているが、見た目と術者からして何も害はないと彼女の父親でもある族長も判断した。

小さな光は星のようで、音と輝きだけの効果だ。

引退した先代の族長に話を聞くと、純血児が魔法を使い始めるのはだいたい2〜3歳らしく、ヘラは稀に見る早い方らしい。

ちなみにナキは4歳で初めて魔法を使っていたそうだ。


「お前は賢いんだね」

「?」

「…何でもないさ」

「まんま、ちょーちょいう!」

「おや本当だ。

ヘラはよく蝶々を見つけるねぇ」


部屋にいるため追いかけることはないが、目線は蝶々に行っているヘラ。

春の蝶々はとても綺麗で、ヘラの小さな魔法のようだった。


─────


夜、悲痛な泣き声が響く。

ジシャは泣き喚くヘラを抱いて大丈夫だよと優しくあやす。

族長も心配そうにヘラを撫でる。


「うぅ、ああ゙ー!」

「ヘラ、大丈夫だよ。母さんたちはここにいる」

「ヘラや、ぱぱだぞー?

泣き止んで可愛い顔を見せてくれ?」

「っ、ぎゃあ゙ーー!!」

「ッ!?」


暴れた拍子に手を挙げ魔法を出すヘラ。

害はないとはいえ急に放たれた光で目が眩むジシャを、族長は咄嗟に支えた。

振り払うように首を振ると、ジシャはいつもの様にヘラの目元を手で隠し、子守唄を唄い始めた。


夢よ夢よ 我が子を明るき夢へ連れて行け

明るき夢よ 我が子に甘い菓子の夢を

甘い菓子 我が子を眠りへ誘い出せ

眠ればいつしか 清き朝となろう


ヘラが落ち着くまで、繰り返し子守唄を唄う。

この日は珍しく朝方まで唄い続けた。


朝になると族長が一度外へ出た。

族長としての仕事をする為だ。

見送ったジシャは泣き疲れて眠っているヘラを抱き直し寝室へ戻っていった。


─────


2年ほどが経ち、ヘラは3歳…ナキは4歳になっていた。

この年に集落でまた1人混血児が産まれたのだ。

ヘラとナキは仲良く手を繋ぎながらチョコボの小屋に遊びに来ている。

彼女たちの親は新しく産まれた子と育児中の親の手伝いに行っているようで、チョコボを育てている集落のおばさんに世話になっている。


「ヘラちゃん、ナキちゃん」

「なにー!?」

「この小さなカバンにひなチョコボ用の餌を入れたから、あの小屋に行ってご飯をあげてきてくれないかい?」

「はーい」


斜めがけのカバンをかけてもらいながら返事をする2人。

ひなチョコボの小屋に行き、カバンに入っていた餌を出そうとすると、ひなたちが一斉に飛び寄ってきた。

面白いのか2人も笑いながら餌を与えていく。


「ヘラちゃんヘラちゃん」

「なぁに?」

「ナキね、このあいだ、まほーをつかえるようになったでしょ?」

「うんうん」

「しゅうらくのうらないのおにいちゃんが、ナキはどんなまほーがとくいなのかおしえてくれたんだ!」

「すごい!

なんのまほーなの?」

「しろまほう!」

「しろまほう!

ケガをなおすんでしょ?」

「そうそう!

それでね、こんどの5さいのたんじょうびに、しろまほうのつえをプレゼントするって!」

「いいな〜」

「ヘラちゃんはなんのまほーがとくいなの?」

「わからないの」

「わからないの?」

「うん、うらないのおにいちゃんにもきいてない…」

「そっかぁ。

わかったらおしえてね!」

「うん!」


カバンの中の餌がなくなると、飼育のおばさんの所へ戻り他の手伝いをしていった。

昼食もここでいただき、夕方になると2人の母親たちが迎えに来た。


「まま」

「なんだい?」

「わたしのまほーって、なぁに?」

「……得意な魔法って考えるとそうだね…、ままの見立てだとナキちゃんと同じ白魔法だと思うよ。

今度、ぱぱにも言って一緒にジンさんの所へ行こうか」

「じんさん?」

「占いのお兄ちゃんさ」


うらないのおにいちゃんという言葉を聞き、ヘラはぱぁっと笑顔になる。


「おや、その顔さてはナキちゃんからジンさんの話を聞いたね?」

「うん!

ナキちゃんもとくいなまほーをみてもらったって!」

「そうか、ナキちゃんもこの間魔法を使えるようになったってリィが言ってたもんね」


家につき晩ご飯を作っていると、仕事を終えた族長が帰ってきた。

ジシャは占いのお兄ちゃんことジンに話を聞きに行こうと言うと、族長も気良く賛成した。


─────


「族長が直々に来たからビビったじゃないか!」


開口一番がそれだったジン。

後日、やって来た親子3人は早速ヘラの魔法について問うてみた。

ちなみにジンがなぜこのような仕事をしているかと言うと、23歳を迎えた頃に突如としてエーテルを感じ視る力が強く出たからだそうだ。

白き一族は純血混血関係なく歳の衰えと裏腹に魔力は増幅し続ける。

純血種であるジンもそうで、それが結果としてこのような力を得たのだ。


早速ヘラのエーテルを覗いてみる。

彼の目の前にちょこんと座るヘラはきょとんとしたままだ。

しばらくエーテルを視ていると、ジンが少し驚いたような表情をした。


「…ジン?」

「なんだ、何かあったのか!?」

「ぱぱ、落ち着いて。

ジン、何が視えたんだい?」

「…得意な魔法は、ジシャの予想通り白魔法だ。

けど…」

「けど?」

「なんて言えばいいんだ?

その…ヘラの中に、別の力を感じる…?

あぁいやそうじゃないんだけど、そんな感じというか…」

「………別の力も芽生え始めている?」

「そんな感じだな、表現が難しいぜ…。

でも悪いやつじゃないのは確かだな。

上手く活用できればその第二の力も使いこなせるかもしれないぜ」


悪いものではないが、少し考えた方がいいであろう結果に終わった。

親子3人は家に帰ると、ジシャは管理していた歴史を漁り始める。

ヘラと同じ存在がいたのかどうか、いたならばどう対処していたのか。

調べ物は数日に渡って行われた。


─────


武力と魔力。

エーテルとはまた違う力。

基本的に偏りが出やすい力で、これらを両方兼ね備えることは難しいとされている。

だがこれらの力が強く交わるとごく稀に両方の力を持つ者が産まれる。

ヘラは、まさにそれだ。

最初に現れた力が魔力だっただけで、5歳6歳となるにつれ武力も強く出始めた。

ジンの言っていたことはこれだったのかと、ジシャは理解した。

強い力だが、このままでは強すぎてしまう。

そう考えていると、族長からある提案を出された。


「角尊に?」

「あぁ、彼らはここへ来ることもほぼほぼないからこちらから出向くしかないのだが…掟として純血種が外見出ることは基本的に許されない。

そんな中、混血種で外の世界へ旅立った者から1通の連絡が入ったんだ。

近々角尊の1人がこの近くへ来るかもしれないとな。

会うことができれば、ヘラの力を視てもらえるかもしれない」

「なるほど」

「ヘラの力は強い…それはいい事だが、強すぎるとその力を求めて厄介事が起きる可能性もある。

制御、或いは力の一部を削ぐ方が、ヘラの未来の為…一族の未来の為だと俺は考えている。

母親として、どう思う?」

「………ここまで強い力の持ち主は、一族の歴史を探ってもいなかった。

対処方法が見つからない以上、角尊と接触して相談することはいい判断だと思う。

先代の族長も[古き伝承に新しき知識を]と言っていたからね」

「なら、早速準備に取り掛かってくれ。

ジシャのいない間は俺がきちんとヘラを見ておくよ」

「頼むよ、ぱぱ」

「任せてくれ、まま」


そうしてジシャは早々に準備を始め、角尊に会えるよう捜索を始めた。


─────


それ以降は前にも軽く話には出ていたと思う。

ジシャは無事に角尊と会え、ヘラの力と一族の未来の為に対策を考え始めた。

ヘラの儀式はヘラ自身が強く力を出すタイミング…そうなると精霊も魔物も餌に釣られやって来るだろう。

危険を避けるために混血種と混血児は外へ出ること(混血児の親となった純血種は意思を尊重させ、集落に残るか親子共に離れるかを決めていった)。

そうして静かになった集落で、10歳を迎えたヘラが儀式を行ったが…結果は酷く、時魔法の誤作動で周囲の時間軸が歪みジシャも喪失。

ヘラは左眼を失い記憶もなくし、失った左眼にヘラのエーテルが宿いこれも喪失。

現在に至るというわけだ。


ヘラ…ガウラは旅の道中で武力に特化、エーテルは第一世界でアルバートから受け取り多少はエーテル量もマシになった。

左眼…ヘリオは魔力に特化したが一時的に暗黒騎士も努めていたのでどちらも得意としている。

エーテル量の多さと魔力を考え、一度大剣を置こうとしているがそれはまた別の話で。

ジシャはエーテル残骸がヘリオから離れたことで集落に残り、エーテル海へ還るまでにできる限りの整理を行っている。


ガウラ(器)をヘラと見るかヘリオ(エーテル)をヘラと見るかは、各々の自由だ。

けれど彼らは今を生きている。

今はそれだけで十分なのかもしれない…。