『四月十三日』

2017.04.16 09:24

微睡みの中、壁を挟んだむこう側から微かに声が聞こえる。




何を話しているのかもわからず、ただただぼんやりと、僕はそれを聞いている。




薄明かりの、目を閉じた赤い闇の中で輪郭の無い声が漂う。




懐かしい声。




これは誰の声だろう。




まるで水の中のように、ゆらめいて、泡のように消えていく。これは誰の声だろう。




不確かな闇の中、道標のように。それは遠い記憶。それは僕の中だけの記憶。




壁のむこう、戸のむこう、ドアのむこう、静かな喧騒は終わらない。




僕はドアを開けられず、ここにいてはならぬとわかっていながらも、立ち尽くしその声を聞いていた。




そうだ。




煙のように、陽炎のようにそれはまた、今日も微睡みの中で姿を現す。





初音瞭


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