「宇田川源流」【大河ドラマ 青天を衝け】 ホームドラマと企業ドラマの二つの「人間物語」を巧妙に描いた中で光る母の愛
「宇田川源流」【大河ドラマ 青天を衝け】 ホームドラマと企業ドラマの二つの「人間物語」を巧妙に描いた中で光る母の愛
水曜日は、大河ドラマ「青天を衝け」についてご紹介している。今回の青天を衝けは、明治6年に国立第一銀行設立する。まさに、今回はその話であるといえる。実際に、渋沢栄一は、大河ドラマの通りに、「国立第一銀行の総監」となって、小野組と三井組双方から頭取を出しながら、その二つを調整する形で総監として手腕を振るった。
さて、明治六年といえば、ドラマの中でも本当に軽く触れたが、明治政府の中では「明治6年の政変」が起きた一つの分岐点の年ではないか。明治6年の政変とは、歴史的には様々な解説がされるものの、簡単に言ってしまえば、岩倉遣欧使節団が、自信満々に欧米に行き、江戸幕府が行った不平等条約を是正するように交渉に行ったが、あまりにも大きな違いに愕然として帰ってきた。その帰ってきたときに、西郷隆盛や板垣退助、江藤新平などがかなりさまざまなことをしていたために、自分たちの考えとは異なるまたは先に行ってしまって、浦島太郎のようになってしまったことから、大久保利通や岩倉具視が中心となって、西郷隆盛などを明治政府から追い出したという事件だ。一応は「征韓論」が基軸になっているというようなことになっているが、実態としては政治的な主導権争いであったし、また、権力に対してこだわりがなかった西郷隆盛などが身を引いたという方が正しい見方ではないか。
翌年明治7年に、江藤新平や島義勇らをリーダーとして佐賀で起こった明治政府に対する士族反乱が「佐賀の乱」であり、その不平士族の最も大きなものが明治10年の「西南戦争」になる。ある意味で、日本の内戦は、この西南戦争で終わるといっても過言ではない。
そのような中で、大蔵省を辞職した栄一は、井上馨やアレクサンダー・フォン・シーボルト、その弟のハインリヒ・フォン・シーボルトの協力も得ながら、明治6年(1873年)自ら設立を指導した第一国立銀行(後の第一銀行、第一勧業銀行、現:みずほ銀行)の総監役に就任する。大株主の三井組、小野組の頭取2名の上に立って、日本最初の銀行の創業を担うことになり経済の面で政府を相手に戦うということになるのである。
なお、小野組はこの翌年の明治7年に破綻するのであるが、まあそれは来週のこの項でお話しすることにしよう。
<青天を衝け>「ありがとう、かっさま」とっさまに続く“別れ” 最期まで優しく…和久井映見の名演に涙
俳優の吉沢亮さん主演のNHK大河ドラマ「青天を衝(つ)け」(総合、日曜午後8時ほか)第32回「栄一、銀行を作る」が10月24日に放送され、栄一(吉沢さん)と母・ゑい(和久井映見さん)との別れが描かれた。
第32回では、栄一は明治政府を辞め、第一国立銀行の総監役として、新たな道を歩み始める。開業後、駆けつけた五代友厚(ディーン・フジオカさん)は、“商いは化け物”、魑魅魍魎(ちみもうりょう)が跋扈(ばっこ)していると栄一に助言する。
そのころ、三菱を率いる岩崎弥太郎(中村芝翫さん)は、大蔵卿に就任した大隈重信(大倉孝二さん)と結びつきを強め、海運業で急成長していた。そんな中、ゑい(和久井映見さん)が体調を崩し、東京の栄一のもとに身を寄せることに……。
ゑいは栄一に「寒くねえかい。ごはんは食べたかい」と優しく問いかけると、最期は栄一の妻・千代(橋本愛さん)に「お千代、ありがとう……。ありがとうね」との言葉を残し、眠るようにこの世を去った。
10月10日放送の第30回「渋沢栄一の父」の“とっさま”こと父・市郎右衛門(小林薫さん)に続く、親との別れに栄一は「ありがとう、かっさま」とぽつり。
SNSでは「ああ、かっさま」「かっさま…ご臨終…」「かっさますてきな人」「お千代さんへのありがとうに全て込められてる」などと視聴者は反応。またゑい役の和久井さんの静かなる名演に心を打たれた視聴者からは、「本当に涙が出てきた」「かっさまが臨終に際し、美しすぎる」「和久井さん、立派な、女優さんになられて…」「名優、和久井映見、こん身のの演技」「今回の大河は、女性や家族の描き方が、美しくてすてきですね」といった感想も書き込まれた。
「青天を衝け」は、“日本資本主義の父”と称される渋沢栄一が主人公で、連続テレビ小説(朝ドラ)「風のハルカ」(2005年度後期)、「あさが来た」(2015年度後期)などの大森美香さんが脚本を担当。「緻密な計算」と「人への誠意」を武器に、近代日本のあるべき姿を追い続けた渋沢の生きざまを描く。
10/24(日) 20:45
https://news.yahoo.co.jp/articles/440cc1cf2b8bd637953396a175e9265cab4ce9af
さて、前半では史実に関して書いたので、ドラマに関して集中的に書いてみたい。実際に、このドラマは非常にうまくできていて、前回の視聴率も12%を超えているという話になっている。ある意味で「戦争のない大河ドラマでもホームドラマと企業ドラマで、非常に楽しく作ってある」という評価ができる。近年、例えば「半沢直樹」のシリーズのように「経済・企業ドラマ」であっても視聴率が高い状況になるし、また、ホームドラマはやはり日本のドラマや映画の中では人気のあるコンテンツの一つである。そのようなところを非常に「一つ一つのエピソードを丹念に描く」ということと、「とりあげなかったエピソードをなるべくカットする」ということが最も大きな内容になる。
「カットする」と書くと、なかなか興味深いのであるが、実際に「限られた枠の中で重要なものをしっかりと描く」ということが非常に重要であり、その「ドラマのテーマ性」から、外れたもの丁寧に書くことはできない。そのことから、いらない部分をなるべくそぎ落とし、そして必要なところを丁寧に書くという作業が必要だ。そのことがうまくできているドラマが優秀なドラマであり、なんでも入れてしまったり、史実にこだわってテーマ性が失われたドラマがダメなドラマということになる。
今回のドラマは、その辺が非常にうまくできていて、見ていて面白い。基本的に、「企業ドラマ」も「ホームドラマ」も、人間を書いているということは間違いがない。それは戦争も同じである。しかし、その書き方は異なることになります。
企業ドラマ系ということになれば、「見通し」と「選択」が重要になります。まさに、その「選択」が、今回の渋沢喜作との間の会話も五代友厚との会話にも有るのではないかと思われる。それぞれがこれから発展するだろう見通しがあり、その見通しを考えて事業を起こす。もちろんその先の困難もしくなくないと思うのであるが、そこはまた一つのドラマであろう。
そしてもう一つがホームドラマである。今回は「母の愛」と「母の死」であろう。母というのは、常に子供を心配している存在として描かれる。それは素晴らしい母でも、ダメな母でもその愛情は同じである。今回渋沢ゑいを演じた和久井映見さんの演技は、まさに「素晴らしい母親像が、最後まで子供たちへの愛を伝えた」という物語ではないか。
ゑいは栄一に「寒くねえかい。ごはんは食べたかい」と優しく問いかけると、最期は栄一の妻・千代(橋本愛さん)に「お千代、ありがとう……。ありがとうね」との言葉を残し、眠るようにこの世を去った。<上記より抜粋>
ある意味で、この母親があったからこそ、この家族ができたといえる。愛情をあふれるほど注いでいるから、家が一つになり、また人を許せる家族ができたという、最も良い話ではないか。その人を許せる家庭に入ったから、千代(橋本愛)は、妾を許せる人物になったし、また、その子供たちも立派になっていったのではないか。そしてその千代の器の大きさは、その臨終の場面に妾のくにを連れてくるということからもうかがえる。
まさに、この完成されたドラマが、実は大河ドラマの中では、非常に受けが良いのではないか。来週は小野組破綻、そして、その次は西南戦争とつながると思われる。また楽しみなドラマになった。