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超人ザオタル(39)捨てる道

2021.10.25 23:42

夜も更けていた。

ふたりは就寝の挨拶をすると部屋を出ていった。

彼女たちにとっては善き瞑想の道への一歩であったろう。

だが、この道もまた、なかなかどうして一筋縄ではいかない。


そう知るのは後でも構わない。

祝福された一歩はそれはそれでいいものだ。

私はその同じ道であえいでいた。

この道は得るのではなく捨てる道なのだ。


この現世は何かを得る道だった。

たとえ物事を捨てていても、それは何かを得るためだ。

だが、この瞑想の道はただ捨てるだけ。

それも最も大切にしているものを捨てる。


自分を捨てる、だと。

自分を知るためにこうして道を歩んできたのではないのか。

そこで知識を得て、体験をして精神を成熟させてきた。

それが自分になっていったのだ。


それが本当の自分ではないのか。

いや、それは私個人の思考の産物だ。

凝り固まった固定概念なのだ。

あの場所では、そんな概念は通用しない。


こちらの概念に合わせてくれることもない。

ある意味、冷たく突き放される感じがする。

ザオタルを捨てる。

そうしなければ通り抜けることの出来ない扉がある。


ザオタルを捨てることが何だというのだろうか。

真実がそう言うのであれば、そうするしかないではないか。

それを完全に受け入れて、捨てるしかない。

それでどうなるかは分からない。


私は自分を失って混乱するかもしれない。

水の中で空気を求めてもがくように。

いや、そんなことを想像しているから、ザオタルを手放せないのだ。

ザオタルと心の道ではどちらが信頼できるのか。


それは心の道だ。

そこには真実がある。

ザオタルに何の真実がある。

ザオタルなど妄想と執着の産物でしかない。


そこに真実はないのだ。

真実がないから、それを探し求めて歩いてきた。

この道には真実がある。

何者でもない私がここにいるという真実だ。


その真実は消すことが出来ないのだ。

ザオタルにしがみついている手を緩めなければならない。

だが、私の生存本能がそれに抵抗している。

ザオタルという個人を殺したくはないのだ。


私は瞑想のあともそうして悶々としていた。

そうしているうちに、いつしか眠ってしまった。

目が覚めた時、美しい朝日が窓から差し込んでいた。

その光を見つめながら、私は覚悟を決めた。