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Extra11:初対面

2021.10.21 04:00


今日は一段と平和だ。

[食器の片付けはあたいがする]

と頑なに譲らなかったヴァルに食後の片付けを任せ、ブラックコーヒーを飲みながらスケジュール帳を開け今日の予定を再確認する。


ヘムロックでの件があって以降会うのは初めてになるリリンと午後にお茶会の予定を入れていた。

ヴァルと来客の話になり彼女の名前を出す。

素直にアリスが保護した子と言えばいいのに、あまりにも気に入らないのかアリスのことをバカ呼ばわりするヴァルがなんだが面白かった。

うん、まぁ確かにバカだが…お節介バカだろうな。うん。


そういえば昼食の時とは別の甘い匂いがしている。

そう思っていると、ヴァルはどこからかバスケットに入ったクッキーを出してきた。


「お茶をするのに必要だろう?」


思わずポカンとしてしまった。


「お前、甘い物を食べたことがないって前に言っていなかったかい?」

「プリンセスデーの時に、一緒に食べたクランペットが初めてだったよ。

それで菓子にも興味を持ってね、作るようになった」


それにしては器用すぎないか?


「そういえば、これとは別の甘い匂いもするけどまだ何か作っているのかい?」

「あぁ、そろそろ焼きあがってるんじゃないかな」


そう言いながらオーブンの方へ戻っていくヴァル。

カウンター越しに見てみると、彼女の手には綺麗に焼きあがったアップルパイがあった。


「アップルパイ!」

「ガウラの好物だろう?」


なんだか嬉しくなり尻尾が揺れる。

皿に盛り付けテーブルに運びながらヴァルはガウラに話しかけた。


「食べたいか?」

「でも、これはお茶会用だろう?」

「それはな」


キョトンとするガウラ。


「それで、食べたいのか?食べたくないのか?」

「そりゃぁ食べたい、けど…」


ここでようやく自分がいつも以上にテンションが上がっていることに気づいたのか、段々声が小さくなり恥ずかしそうにするガウラ。

そんな彼女を見ながらにやりとするヴァルは、再びオーブンの前に戻り中から何かを出してきた。

手には小さいサイズのアップルパイ。

こちらも綺麗に焼きあがっており香ばしい匂いがする。


「そう言うと思って、個別で作っておいた」

「!?」


思わず興奮が止まらない。

ピンと立った尻尾と耳、目はルンルンに輝いている。

やはりこの子も分かりやすいな…なんてヴァルは思いながら小さなアップルパイをガウラに渡した。


「ほら、熱いから気をつけて食べるんだぞ」

「ありがふぉ!…あつっ!?」

「あーほら、急いで食べるから…」


水を貰い慌てて飲むガウラの顔は、恥ずかしかったのか林檎のように赤かった。


─────


時刻は過ぎて14:30頃。

お茶会の時間は15:00と聞いているのでヴァルは出かける準備を始めていた。

またもキョトンとしながらガウラはヴァルに問うた。


「おや、ヴァルは参加しないのかい?」

「あたいには関係のない子だからね。職業柄、余計な人とは接触を避けたい」

「そうかい」


そうこうしているうちに準備ができたようで外に出るのに扉を開けようとしたヴァル。

だがそれよりも早く扉が開いた。


「ガウラお姉ちゃん!お邪魔しまぁー……」


元気な声が響く。

だがすぐに小さくなる声。

不思議に思ったガウラが様子を見に行くと、玄関前で固まったヴァルと物陰に隠れているリリンがいた。


─────


「……」

「………っ」

「…はぁ……」


2人を一旦落ち着かせ席につかせる。

リリンはヴァルの方をじっと見ながらガウラの袖を掴んでいる。

ヴァルもじっとリリンを見ている、顔がどんどん険しくなっている。

この状況が続くのはよろしくない。

そう思ったガウラは口を開いた。


「リリン、怯えなくてもいいよ。

こいつは私の知り合いで、ヴァルと言うんだ」

「お姉ちゃんの、知り合い?」

「あぁそうだよ」


紹介されたヴァルはまだ目線が痛い。

ギロリと見られたリリンが小さな悲鳴をあげて袖を掴む手に力が入る。


「おいヴァル…そんなに睨むなよ、リリンが怯えている」

「別に睨んじゃいない。ただ見つめただけなのに心外だ」


んー、これは困ったぞ。

[いつもみたいに笑ってくれりゃいいんだけど…]

なんて心の声がどうも口から出たらしく、ヴァルもリリンも驚いた顔をしている。


「いつも私と話している時は微笑んでるじゃないか」「っ!?」


ガタリと席を立ち去っていったヴァル。

どうも今まで私に見せていた表情は無自覚だったらしい。

取り残された2人はキョトンとしたままだった。


「…ねぇねぇ?」

「なんだい?リリン」


[ヴァルお姉ちゃんって、私と同じ人見知りなの?]

今度は私が驚く番だった。


「同じ人見知りなら、仲良くなれるかなぁ?」

「…あはは!

さぁ、どうだろうなぁ?」


頭にハテナを浮かべたリリンをよそに、ガウラは笑った。

この子にはヴァルがそう見えたのか…、なかなか楽しいことになりそうな予感がした。


「さぁ、お茶会を始めようか!」

「うん!」


今日のクッキーとアップルパイはヴァルが作ったのさ!

そう言ってあげるとリリンは[仲良くなれたら作り方を教わりたい]と言った。

この輪にいつか彼女も入れて、お茶会を楽しみたいと思った瞬間だった。