第68回例会『土』
過ぎ去った時代より
沈潜され骨肉に住みついた
日本人の日常の行動の
根源をとらえて
鋭く現代に問いかける
好評の舞台
8年ぶりに再演
福島演劇鑑賞会 第68回例会
劇団文化座(1972)
原作:長塚節
脚色:大垣肇
演出:佐々木隆
例会概要
公演日
1972年2月3日(木) 18:00~
会場
福島市公会堂
ものがたり
筑波おろしの吹きつける鬼怒川べり―。黒々と覆いかぶさる杉森に踏ん付けられるかの様に勘次達の家があった。勘次は”東隣り”と呼ばれる地主から、わずかな田畑を借り、土にしがみついて生きている。働くことではひけを取らない勘次は、僅かの足にもと利根川の開鑿工事に出掛けていた。女房のお品も百姓のあいまに天評をかついではコンニャクを売り歩いたが、身ごもった胎児を自からおろしたのが因で死んでいった。畑一枚持たぬ勘次が気に染まぬため、進んで野田の警油蔵に火の番に雇われていった舅の卯平は、埋葬の日に帰ったが唯一言「死に目にも合わせねえで…」と深くつぶやくのだった。
そんな卯平の気をまぎらすものは幼い孫の与吉と何くれとなく世話をやく僅か十五のおつぎだった。然し勘次との折合いのつかぬまま、卯平は再び野田へ引返して行った。お品のいなくなった勘次一家でおつぎの手にはもう何度目かのマメが出来てはつぶれた。舅を追い出したと罵られながら、早く自分の土地を持ちたいと、懸命になって働くが一向に借財のへらぬ勘次の前に、野田から舅の卯平が帰ってきた。喜ぶおつぎや与吉をよそに勘次は一人顔をそむけた。孫に与える小使い稼ぎにせっせと草鞋を打つ卯平の心は重かった。
お品の面影を宿しすっかり娘らしくなったおつぎに若者達の関心が動かぬ筈はなかった。興がった若者に櫛を奪われたおつぎを勘次は目の色をかえて叱責した。おつぎは父の束縛をなじった末に「おっ母を殺したのはお父うでねえか」と叫ぶ。母の死が何であるかを知る年頃になったのだ。
冬の日、与吉のあやまちで卯平の小屋から出た火は、勘次の家を焼き尽し、お内儀の家の一部迄も焼いた。土地を買う夢を無残にも打破られた勘次は、灰となってゆく我が家の焼け跡を、獣のように大地を這いずり廻って泣きふした。
大火傷を負った卵平は、村人達の世話で念仏寮に寝かされた。家を焼かれた以上引き取って面倒見るわけにはいかないといい張る勘次を村八分にしてくれと村人たちは訴えたが、彼らのまえで勘次は叫ぶ。「おらにゃもう何もなくなった、爺ッ様連れて来て何食わせんだ!何処さ寝かせんだ!!」
おつぎは静かに訴える。「同じ火事に焼かれても小屋を建てられないおら達だぞ、それを同じ貧乏人から村八分にされて、お父はどうするつもりなのけ?」いつの間にか成長しきったおつぎの語調を勘次は不思議そうに見つめている………。
出演
佐々木愛……おつぎ
丸山持久……勘次
鈴木光枝……お内儀さん
加藤忠………卯平
河村久子……お品
喜福和則……与吉
鈴木昭生……平造