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富士の高嶺から見渡せば

金正恩の犠牲となる北朝鮮兵士

2017.04.21 08:14

わが日本の10代、20代の若者たちが、勉学や就職活動など時には辛い苦しい時間を重ねながらも、同時に、時にはスポーツや音楽に熱狂し、興味の赴くままにファッションやコンピューターゲームに熱中し、仲間たちとのはじける笑いに時を忘れ、まさに、まぶしいほどの若さと喜び、青春の輝きを満喫しているさなかに、おそらく戦争になったらまっさきに犠牲になるであろう同世代の若者たちがすぐ近くの国にいる。

北朝鮮の兵士たちだ。つい最近も平壌で行われた軍事パレードで、一糸乱れずに行進する姿を世界に見せつけたあの若者たち。不自然なほどに足を高くあげ、一糸乱れず行進する異様な集団の姿には、哀れみさえ覚えた。彼らのたった一人の独裁者へ忠誠心を見せつけるために、食料も十分ではなく腹を空かせているにもかかわらず、あえて体力を余計に消費する不自然で異様な形での行進を見せなければならない。ヘルメットに双眼鏡をつけ顔を墨でまっくろに塗った特殊部隊といわれる集団や、白衣の制服を着た化学兵器部隊の集団も登場した。さらに女性兵士の集団も勇ましく行進していた。

いま20代前半までの若い兵士たちは、200万人から300万人が餓死したといわれる1990年代以降に生まれた世代だ。この世代は出生率が例年より3割も低く、この世代で兵力を充足させるためには、男子だけでは足りず、女性にも頼らざるを得ないという事情がある。実際に2015年からは、男性の兵役期間を11年に延長すると同時に、それまで志願制だった女性にも7年の兵役義務を課すことになった。北朝鮮の徴兵年齢は17歳からだから、兵役期間11年の男子なら28歳まで、7年の女子の場合は25歳までが兵役期間ということになる。まさに「青春」という光かがやく宝石のような夢の期間のすべてを、たった一人の独裁者、無慈悲で気まぐれで、大して智恵も能力もなく、国民の生活や食料の改善は何もしてくれないくせに、自分だけはぶくぶくと醜く太った男のために捧げなくてはならないのだ。現在の日本の若者が、いきなりそんな境遇に投げ出されたら、どうなることか。あらん限りの力で抗議の声を上げ、抵抗や逃避のため手段を尽くそうと考えるだろう。これほどの理不尽さ、非合理は許せないからだ。

ところで、実際の北朝鮮の兵士は食糧不足で飢えに苦しんでいる。石丸次郎氏による北朝鮮報道「アジアプレス」には、がりがりにやせた北朝鮮兵士や力なく地べたにへたり込む兵士、建設現場の労働に従事させられ、疲労で力なく横たわる兵士の姿などを映した写真が多数掲載されている。韓景旭著『ある北朝鮮兵士の告白』(新潮新書2006年)によれば、北朝鮮の兵士の多くは飢えに苦しみ、農家や工場倉庫などを襲い、食料の強奪や窃盗を繰り返している。このほど世界のマスコミを集め、華々しく竣工を祝った高層ビル群の街「黎明通り」も、金正恩の命令で1年という建設期限を設けられ、北朝鮮人民軍兵士が突貫工事で建設に従事したものだろう。こんな工事で完成した地上70階もの高層アパートが実際に居住可能なのか、エレベーターを動かす電力があるのかどうかなど、疑問は尽きない。飢えに苦しみ、慣れない建設作業の現場や食料確保のための農作業に従事してきた兵士たちが、実際の戦争になって、何かの役に立つのかどうか、これも大いなる疑問だ。

北朝鮮人民軍の総兵力は120万人。そのうち20万人が特殊部隊。また兵力の3分の2は、韓国と接する38度線TMZ(非武装地帯)近くに配備され、多連装ロケット砲2500門をはじめ長距離砲・迫撃砲・高射砲など3万門に及ぶ各種兵器を運用しているといわれる。朝鮮半島でいったん戦端が開けば、北側からは首都ソウルを狙って、これらの兵器が一斉に火を噴くのは明らかだが、そのため、この38度線近くに貼り付けられた北朝鮮人民軍の兵力は、当然、米軍・韓国軍による最初のじゅうたん爆撃の標的になるだろう。トンネルや山の洞窟に隠れているとはいえ、先に米軍がISの一掃を狙ってアフガニスタンで落とされたMOAB爆弾複数発を効果的に使えば、軍事施設を含めて一網打尽であろう。さらに開戦当初の攻撃目標としては、ノドンやスカッド・ミサイルを発射するミサイル部隊の拠点や発射台だが、その位置を迅速・正確に探知するためには、監視衛星や無人探査機の運用など相当な準備が必要だ。

いずれにしても、北朝鮮でひとたび戦端が開かれれば、まっさきに命を犠牲にするのは、青春の喜びなど味わったこともない若い兵士たち。金正恩のまさに奴隷、ロボットとして存在し、戦場の矢面に立たされる北朝鮮人民軍の兵士たちなのである。