第70回『華岡青洲の妻』
無視されてきた
女のドラマ
福島演劇鑑賞会 第70回例会
劇団文学座(1972)
作:有吉佐和子
演出:戌井市郎
照明:穴沢喜美男
装置:古賀宏一
例会概要
公演日
1972年5月14日(日) 18:00~
会場
福島市公会堂
ものがたり
天明の初年、紀州に蘭方医を業とする華岡家があった。この華岡家の世継ぎ青洲のもとに、近郷の名門妹背家から加恵が、青洲の母於継に見込まれて嫁いできたのは、青洲が京に遊学中のことであった。
加恵は姑於継小姑の於勝、小陸に仕え、華岡家の人となることに努め励んだが、夫青洲が帰ったとき、はたと女が家に入ることの難かしさを思い知らされた。夫の母親は妻の敵だろうか。これまで一途に敬愛してやまなかった於継に、ある種の闘志を感じないではいられなかった。
わが家の貧乏もかえりみないでの乳癌手術の実験、そのための麻酔薬の研究に没頭していった青洲は、次第に紀州一の名医の評判を高くしていった。麻酔薬の実験もあと人体実験を残すだけとなったとき、嫁と姑の対立感情は凄まじいまでとなった。人体実験に、わが身の提供をすることによってだがいの優位を満足させようというのであった。
出演
杉村春子……青洲の母(於継)
北村和夫……華岡青洲
渡辺美佐子…青洲の妻(加恵)
矢吹寿子……青洲の妹(於勝)
本山可久子…青洲の妹(於勝)
田辺信子……加恵の母(於沢)
三津田健……良庵
高原駿雄……作兵衛
大出俊………青洲の弟子(米次郎)
龍岡晋………問屋小六
尾崎友美……お勘
尾瀬格………利兵衡
かいせつ
「華岡青洲の妻」は「紀ノ川」「香華」などの紀州女のいのちを謳う作品の系列に属するもので、閨秀作家有吉佐和子の最高の傑作と、すでに世評高い作品です。
160年ばかり前に、世界初の全身麻酔の偉業を遂げた手術外科医、華岡青洲の成功に、自ら劇薬を口にして力を貸した母や妻の美談の陰に、作者独白の眼に見える前近代的な「家」にある嫁と姑の争いを描いています。それは単に女の宿業がえぐられているだけではなく、それを越えて、どうしようもない人生の真実の姿が強烈に浮き彫りにされています。だからこそすべての人の心を打つのです。
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