巨大食道症ってどんな病気?
『巨大食道症』という病名を聞くと、「食道が巨大になるってどういうこと?」「どんな症状で一体何が原因なんだろう?」、と思う方も多いのではないでしょうか。
今回は「巨大食道症」についてお話していきます。
はじめに
ご飯を食べると、口から入った食べ物は胸の中の食道を経て胃へと運ばれます。食道は蠕動運動(ぜんどううんどう)と呼ばれる収縮運動を行い、食べ物を胃へ送っています。
この食道の部分がだらんと伸びきってしまい、食べ物を胃にうまく運べなくなってしまう状態のことを「巨大食道症」といいます。あまり多い病気ではありませんが、生まれつきの病気やほかの病気がきっかけでおきることがあります。
ペットの食道は水平方向
二本足で立っている私たち人の食道は垂直方向ですが、四本足の犬・猫の場合、口から胃を結ぶ食道は水平方向に走行しています。そのため、もし食道に力が入らなくなって伸びきってしまうと、食べたものは胃までうまく運ばれずに、途中で滞ってしまいます。たとえば雨どいを想像してみましょう。もし雨どいがやわらかいビニールシートでできていたら、雨水は途中に溜まり、その重さでビニールシートの一部はだらんと垂れ下がってしまいますよね。それと同じことが体の中でおきてしまうのです。
症状
食道に溜まって胃になかなか送られない食べ物や水を吐いてしまうのが主な症状です。胃の中に入っているものを吐くよりも、食べてすぐ、噴き出すように吐くのが特徴です。食べても食べても吐いてしまうため、体はどんどん衰弱して痩せていってしまいます。また、何度も吐いてしまうため、吐いたものが肺のほうに入り込んで肺炎の原因となり、咳をしたり発熱がみられることもあります。
原因
大きく分けると、生まれつき(先天性)の原因と、何らかの病気や事故が原因の場合(後天性)があります。
先天性の場合、多くは食道の神経や筋肉などに異常があるようですが、詳しい原因はまだわかっていません。また、誕生と同時になくなるはずの血管が食道の根元を取り囲むように残ってしまい、そのせいで絞り込まれた食道の手前に食べ物がいつでも溜まるようになり、次第に広がってきてしまう病気(右大動脈弓遺残症)が原因となることもあります。特に離乳し始めて固形物を食べ始めたころに、頻繁に吐くようになって気が付くことが多いようです。
後天性の場合は、ホルモンの異常、怪我や病気などによる筋肉や神経の異常、重症筋無力症、腫瘍などが考えられます。
診断
どのようなときもそうですが、ペットが吐いたときには、必ず吐いたものを持って動物病院に連れて行きましょう。何を吐いたかによって、それが胃からのものか、食道からのものであるか判別できる場合があるからです。何度も食道から食べ物が出てきてしまうと判断されたときには、次にレントゲンを撮って実際に食道が広がっているかどうか調べます。まだあまり大きく広がっていないときには、バリウムを飲んで食道の輪郭を明らかにすることもあります。
治療法
食道以外の部分が原因である場合は、その原因を取り除けば治ることがあります。たとえば、ホルモンが原因(甲状腺機能低下症)の場合は、そのホルモン(甲状腺ホルモン)を補うことによって治ることがあります。また、右大動脈弓遺残症の場合は、食道を締めこんでいる血管を除去する手術を行います(これは胸を開ける大手術となるため、専門の技術を持った動物病院で行う必要があります)。
しかし、明らかな原因がわからない場合は効果的な治療法がないこともあります。食道の蠕動運動を促すような薬を使っても効果が見られないことがあり、そのようなときには胃にチューブを通したり、胃に窓を開けて直接流動食を入れて、栄養を維持するようにすることもあります。
おうちでの管理
巨大食道症のペットは、毎日のご飯の食べさせ方がもっとも大切な管理となります。なるべくスムーズに食道を通過するような高カロリーの流動食を少量ずつ与えるようにし、ご飯中や食後、しばらくはなるべく食道を垂直に維持することによって、食道に食べ物を溜まりにくくします。具体的にはご飯を食べさせるときには、階段の途中に食器を置いてうしろ足より前足が高くなるようにしたり、ペットサークルの縁に足をかけさせながらご飯を食べさせるといった工夫をします。また食後しばらくはおうちの人が縦に抱っこするのもよい方法です。
おわりに
巨大食道症はそのままにしておくと悪化してしまう病気です。
食道に食べ物が少しでも溜まるようになると食道炎をおこしてしまいます。
その結果、上手く食道の蠕動運動が働かなくなり、栄養状態もどんどん悪くなってしまいます。ペットが何度も吐いているとき、特に幼いペットの場合はなるべく早く動物病院で診察を受けるようにしましょう。