苦悩と歓喜5-オペラ「フィデリオ」
2021.11.02 08:25
オペラを書きたかったベートーヴェンに、願ってもないチャンスが訪れた。フランスの民衆反乱を題材にしたジャン・ニコラス・ブイイの戯曲をもとに、ウィーン主要劇場のオーナーになったブラウン男爵がオペラの依頼を、もちかけたのだ。後のベートーヴェン唯一のオペラ「フィデリオ」である。
面白いのが、このオペラの主人公が政治犯で捉えられた夫を、妻が男装して救いだしに行くというストーリーである。女性が活躍した革命初期の状況を映し出している。オペラでは、夫婦の理想的な愛ということでうまく処理していて、アリアもそれに則って書かれている。
この戯曲は、やはりウィーンの検察当局に禁止されたが、フィガロの結婚と同じく、台本作者が、皇后の推薦をもらってなんとか制作を許可してもらった。オペラは、バスティーユのように反乱するのではなく、正義の大臣が来て救われるという点で、ラディカルさが緩和されている。
しかし、何と初演の1805年11月20日の前にウィーンはナポレオン軍に占領され、観客の大半はドイツ語のわからないフランス兵士で、大失敗に終わった。ベートーヴェンは、このオペラを何度も書き換え、最終版初演が行われたのは、革命が失われ、ウィーン会議が行われる1814年だった。