#132.マウスピースだけの練習はほどほどに
コロナ禍で思うように楽器が演奏できなくなった辛さも徐々に解消しつつあるように思いますが、みなさんの周りはいかがですか?部活動や地域の楽団など、練習が再開したり、コンサートの企画など進んでいますでしょうか。
コロナの影響は想像を超えたレベルで、音楽の世界でも大変なダメージを与えられてしまいました。こればかりは今後の経過を見守りつつ、少しずつ戻していくしかありません。そうでなくともトランペットは以前より練習環境に悩まされる楽器のひとつであることに変わりありません。
それにしても楽器が思うように演奏できないのは本当にストレスであり、特にトランペットは音を出すために直接体のあらゆる部分を使う必要があるため、その感覚が鈍ってしまわないか常に不安がつきまといます。
例えば、多くの学校では定期テスト1週間前になると部活の活動を停止することがほとんどです。ここだけの話、一週間部活を停止したからと言って定期テストの点数に何ら変わりなど起きることなどなくて、勉強する人は部活があってもなくても常に勉強をしているし、勉強しない人は時間を用意されたところで勉強などするわけがないのです。後者だった私が言うのだから間違いありません。こんなこと言ったら学校の先生から怒られちゃうのでしょうが、事実なんだから仕方がない。
私は中学生の頃、もはや部活のためだけに学校に通っていました。学校への興味など音楽以外になくて、だから定期テスト一週間前から部活動ができなくなると学校に行く意味を感じられなくなり…いや、一応行きましたけどね。同じように夏休みのコンクール地区大会後、8月に入ると新学期まで部活がまったくなかったり(県大会なんて行ける学校ではなかったので)、年末年始も当然部活はありませんでした。この期間た大変にストレスフルで、音を出したくても場所がありません。家は無理だし、当時はカラオケなどありませんでした。
マウスピースしか手元にない場合
以前、中学生の頃の私が持っていたこの悩みと同じ相談をされたことがありました。その人は、部活が活動停止期間になるとトランペットが吹けないことが不安だとおっしゃっる学生さんでした。トランペットは部活の備品なので持ち出しもできず、手元にあるのはマウスピースだけ。テスト期間明けに再開する部活でしっかり演奏できるにはどうしたら良いか、家でできることはないか、という内容でした。
これに関してまずお伝えしておきたいのは「マウスピースだけの練習は内容を限定して、やりすぎない」ことです。
トランペットを演奏することを「吹く」と言いますが、正しくは吹くのではなく「体内に空気を溜める」なのです。クラリネットやサックスなど木管楽器の多くにはリードという音の発生源が楽器に装着されているのに対し、トランペットなど金管楽器には音の発生源がないことからも、楽器に空気を吹き込んだところで音は一切出ないことはわかりますね。
音の出る原理の解説は今回の話しと趣旨が異なるため割愛しますが、体の中に空気の圧力を発生させることが音を出すために必要な行為であり、演奏するということは「体内の空気抵抗をコントロールする」ことと捉えるのが最も筋道が通っています。
では、その空気抵抗はどのように発生しているかと言いますと、ひとつは腹筋を使うことによって発生する腹圧(腹腔内の圧力)。もうひとつはアパチュアです。腹筋によって横隔膜が下から押し上げられ、肺から口の中までにある空気が対外に押し出されるわけですが、アパチュアという空気の出口が小さくなれば、外へ空気が出にくくなり、そのぶん体内の空気圧(=抵抗感)が増します。
空気抵抗は他にも、マウスピースと楽器によっても発生します。マウスピースはカップというくぼみの中央にスロートという小さな穴によって、楽器の管の細さや管のカーブも空気抵抗を発生させています。
これらすべてが絶妙に関係し合い、絶妙な空気圧のバランスによってそれぞれの奏者の「ベストな演奏状態」が完成するわけです。
少し難しい言い回しになってしまいましたが、要するにトランペットを演奏している時の状態はマウスピース単体では得られない、ということです。
ウォームアップ時に注意しましょう
その日の一番最初にマウスピースだけの状態からスタートする方は特に注意が必要です。マウスピースだけなのにまるでトランペットを演奏しているかのような音量でタンギングや音の高低を作るはコントロールバランスを混乱させてしまうため、オススメしません。もしマウスピースだけでウォームアップをするならば、「セッティングルーティン(音を出すまでの毎回の同じ動きや準備)の確認」と「極めて小さな音量での音出し(唇が振動するか確認する程度)」にとどめましょう。
したがって、もし楽器がまったく吹けない期間、手元にマウスピースだけがある場合は、いつものセッティングの感覚やセッティングルーティンを確認することだけに限定し、音を出してもほんの少しの時間、ppで楽な音域をゆっくりを鳴らす程度にしましょう。マウスピースで音階やリップスラーめいたことをする意味は私にはないどころかマイナスになると考えています。それをするくらいならしっかりした音程感を養うためにピアノなどを用いて、声で歌える訓練をするなど、トランペットにこだわりすぎない実践をしたほうがよほど意味があると思います。
ということで今回はトランペットを演奏している状態とマウスピースだけの状態の違いについてお話しました。楽器が吹けないからと言ってマウスピースで楽器のように音階やタンギング練習をすることは極力避けるようにしましょう。
次回の記事では、楽器が吹けない時にできる音楽的センスの磨き方についてお話して参ります。ぜひ引き続きご覧いただければ幸いです。
それではまた次回!
荻原明(おぎわらあきら)
誰でも受講できる単発レッスン!
トランペット特別レッスン12月28日、30日開催(明日より受付開始)
年末にどなたでも、どのような内容でもOKのトランペット単発レッスンを開催いたします。
奏法についてのレクチャー、テクニック、歌い方や表現の仕方、ウォームアップ、指導方法など、今あなたが一番知りたいこと、解決したいことがテーマです。
受付開始は12月1日(水)13:00。以下のリンク先に詳細をお申込みフォームがございます。ぜひご参加ください!