「セーラーとペッカ」ヨックム・ノードストリューム
ずっとこの「セーラーとペッカ」シリーズの絵本を紹介しようと思っていたのですがなかなか紹介出来ずにおりました。
というのも、当店のお客様にも探している方が多く、探求書としてご依頼をしばしば頂いており、そのため入荷しても、お店で普通に販売させて頂く機会が今までになかったのです。意外とこういう本は多いんですね。
ですが今回はこのシリーズの絵本が2冊入荷できましたので、是非御覧ください。
この「セーラーとペッカ」は、仲良しで一緒に暮らしている元船乗りのセーラーと、その犬のペッカのお話です。
海からほど近い港町に住んでいるこのセーラーとペッカの日常、街へ行ったり、ゆっくりして、レコードを聞いて、たまに具合が悪くなったり…。
ストーリー自体に不思議なところはあまりないのですが、その絵と、ノリとでも言うような妙な抜けたグルーヴ感には脱帽です。
とにかく尋常じゃない絵本なんです!
作者のヨックム・ノードストリュームはスウェーデン、ストックホルムの現代美術家でこのシリーズが彼の手がけた初めての子ども向けの作品でした。この作品はフランスや日本で翻訳され(英語版は出版予定はあるようですが意外にもまだ出ていないようです)、カルト的な人気を博しています。
現代美術家の絵本作品というと日本では大竹伸朗さんや岡崎乾二郎さんの絵本が思い浮かびますが、確かに何処か近いニュアンスが感じられます。やはり美術家という人間は只者ではないのですね…。
この作品について細かい部分を指摘していったらキリがないほど興味深いツッコミどころが満載なのですが、「いったいどうした?セーラーとペッカ」のペッカが薬を買いに街へ出ていく場面、風船売りの女の人から、謎の街の風景のページに続く流れ、このページには戦慄してしまいます。
風船売りの女の人が出てきた時点でもう既に十分不穏な感じがするのですが、次の街の風景の、妙な居心地の悪さ、狂気をユーモアで包んだような、他では感じることの出来ない異様な感触がそこにはあります。
小津安二郎の「晩春」の有名な壺のカットを思い出しさえするような不思議な場面です。
既に所有している方も是非もう一度じっくり見て頂きたいです。
アウトサイダーな感覚が横溢しているからでしょうか、子ども向けの絵本ではないという声をよく見かけますが、どうなんでしょうか。個人的にはそこまで気にすることもないと思います。
これは難しい話かもしれませんが、お子様がこの絵本を読んで、どうこうということよりも(普通に楽しめたらそれはそれで良いですし、好きじゃないという感じだったらそれはそれで良い、という他の絵本と変わらないものだと思います)、この絵本を子どもに読ませる親御さんの拒否反応のほうが気になってしまう絵本ですね。
ですからお子さんよりも、大人から嫌われてしまうことの多い絵本なのだと思います。
版切れが続き重版がされないのも(そのため比較的最近の本なのですが古本市場での価格が高くなってしまっています)こうした理由からなのでしょうか。
万人にお薦めできる絵本ではないかもしれませんが(私は誰にでも薦めておりますが…)、他の絵本とは一線を画した、独自の魅力を持った絵本です。
未見の方は是非、一度読んでみて下さい。
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