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東洋大学 TIPS

ダイバーシティ勉強会アイヌ編 を開催しました(前編)

2021.11.05 10:00

 TIPSではダイバーシティをテーマに勉強会を行っています。今回は、アイヌ民族をテーマに、スズサップノ良子さんをゲストとしてお呼びし、アイヌ民族・文化についてお話を伺いました。


■ はじめに

 みなさんは、アイヌ民族についてどれくらい知っていますか?私は北海道の出身で、小・中学校、そして高校とアイヌ民族についてのイベントや教室でアイヌ文化に触れてきました。札幌の街中にはアイヌ文化を題材としたポスターや装飾が施されており、アイヌ民族の存在を身近に感じさせるものがあります。しかし、進学を期に上京し生活していると、アイヌ民族についての話題に触れる機会はほとんどなく、アイヌ民族のことを考えたり、意識したりする機会も少なくなりました。もちろん、東京でも「アイヌ」という言葉を聞いて「北海道の先住民族だよね!」と答えてくれる人はいますが、なんとなく知っているという方が多いのではないでしょうか。今回はTIPSの企画として、アイヌ民族の語り部であるスズサップノ良子さんをゲストスピーカとしてお招きし、アイヌ民族をテーマにダイバーシティ勉強会を行いました。この記事では、勉強会の様子と、道産子である私が勉強会を通じて感じたことを紹介したいと思います。


■ アイヌ民族について

 「アイヌ」という言葉は、アイヌ語で「人間」という意味を持ちます。アイヌ民族は、文字のない独自の言語を持ち、言葉や歌で文化の伝承をしてきました。アイヌ民族の起源は正確に分かっていませんが、千島列島から東北地方北部にかけて広い範囲に暮らしてきた日本の“先住民族”です。13世紀頃になると、本州から北海道(蝦夷地)に和人(アイヌ民族以外の日本人)が移り住むようになり、その頃から現地に住む先住民族を「アイヌ民族」と呼ぶようになりました。和人が自分たちに都合の良いようにアイヌ民族と交易をしたことで、アイヌ民族の中で不満が集まり、世界史にも登場するシャクシャインの戦いなどにつながったと言われています。明治時代の同化政策や、和人との貧富の差の拡大、見た目の違いなどに起因する偏見や差別の歴史もあり、自分がアイヌ民族であるということを隠して生活するアイヌの子孫が増えて文化の伝承ができず、アイヌ文化自体が消えつつありました。そんな中で、2019年4月19日、アイヌ民族にとっても北海道にとってもが吹きました。『アイヌ新法』と呼ばれる法律が衆議院で採択され、初めてアイヌ民族が日本の先住民族であることが明記されました。これは差別の禁止、観光や産業の支援についても触れられています。これを機に北海道では、アイヌ民族博物館であるウポポイがリニューアルオープンされ、北海道にとどまらず、全国でアイヌ文化への注目が急速に高まっています。


■ スズサップノ良子さんの経験から

 今でも自分がアイヌであると手を挙げるのは1万7千人ほどで、その中でもアイヌ文化発信の活動をしている方は非常に少ないそう。現在ではアイヌ文化の発信に尽力されている良子さんも、幼い頃からアイヌの活動を行っていたわけではなく、自身がアイヌ系であるということは知っていたものの、母からアイヌの文化について教えられたことはなかったそうです。それでも、祖母の生活スタイルや物事の考え方、自然との関わり方などで日々アイヌ文化を感じ、体験してきました。良子さんが30代になったのを機に自分のルーツを知りたいと思うようになり、図書館などに通ってアイヌについて勉強したといいます。兄弟からは「今更アイヌ文化の活動をやって何になる」「そんなことしても無駄だ」と反対されたそうですが、どうしてもアイヌ文化を伝えたいという思いから、良子さんは勉強を続け、現在は語り部としてオリンピックの開会式に参加するなど、広く活躍されています。


■ アイヌ民族の今と昔

 近年はBlack Lives Matterなど、差別に関する話題がニュースで取り上げられることも増えましたが、まだまだ日本で暮らしていると、民族差別はどこか他国の話だと感じられている方も多いかもしれません。しかし、アイヌ民族は私たちが暮らす日本で長い間差別を受けてきた歴史があり、私も北海道で暮らした幼少期にアイヌに対する偏見や差別を子どもながら感じていた記憶があります。そして近年、アイヌに対する認識が変化していることも肌で感じています。実際に、良子さんも最近は活動がしやすくなってきたとおっしゃっていました。道内をはじめ全国でアイヌ文化に関するイベントが開かれるようになり、道内の小学校や中学校では体験授業を行うことが増えてきました。東京でアイヌ文化について講演を行うと、一昔前はガラガラだった会場が、今では満席を越えて立ち客がでるまでになったそうです。また、出前授業で小学校を訪れた際には、最後に女の子が手をあげて「私もアイヌです」と話してくれたこともあったそうです。これは、少しまでは考えられなかったことで、まだ小学生の子が自らアイヌ民族であることを表明してくれたことに感銘を受けたと話してくれました。また、良子さんの娘さんは、学校で友人からアイヌ民族であることを「かっこいい」と言われたということもあったそうです。まだまだ、アイヌ民族に対する偏見や差別が完全になくなったわけではありません。しかし、相手を理解し、お互いを尊重し合う姿勢が広がっていくことが、ダイバーシティではないのでしょうか。

(イベントレポート:山崎翼)