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粋なカエサル

「『江戸名所図会』でたどる江戸の四季」19 冬(2)「二軒茶屋」③防寒対策

2021.11.08 05:29

 江戸時代は寒冷期(14世紀半ばから19世紀半ばの約500年の長期間にわたって小氷期)にあったから、現在よりも冬は寒かった。1773年、1774年、1812年の冬には隅田川が凍ったと記録にある。江戸名所の雪景色を描いた浮世絵も数知れない。もちろん、そのことは単に当時の寒さだけが理由ではない。北ヨーロッパなどの冬の寒さは日本の比ではないが、日本の浮世絵の影響を受けるまで冬景色など画題にすらならなかった。文化の違いだ。四季折々の自然の風物のなかで、もっとも雅趣あるものとされるものの総称「雪月花」。東洋的な風雅の心を抽出した概念の集約であるが、限定的には、春の桜、秋の月、冬の雪をいい、風流韻事の最たるものとして、平安時代以来、日本人の風雅の心の根幹を形成するとともに、象徴的素材として美的生活を支える基盤となってきた。

 雪が降り積もった日の遊びの定番と言えば雪合戦とともに雪だるまづくりだが、江戸時代にはその形も「達磨」(禅宗の僧侶である達磨が座禅をしている姿をかたどった人形)だけでなく「犬」、「猫」、「兎」、「カエル」など実に多様だった。また子どもだけでなく大人が雪だるまづくりに熱中している様子も描かれた。

 では、江戸時代の寒さ対策はどうなっていたか?暖房として建物全体をあたためるものには「囲炉裏」があるが、家屋が木造であるうえ密集していた江戸の町では、火災の危険があるから派手に火は焚けない(船宿にはあったようだ)。暖かく過ごすと言っても、精一杯厚着をして、火鉢に手をかざしたり炬燵(こたつ)に足を入れるくらい。

 火鉢には金属製・木製・陶製があり、形も長方形・四角形・丸形とあったが、町家でもっとも使われたのは木製で長方形の「長火鉢」。もちろん木製は外枠のことで、内側は鉄板が施されていた。火鉢の木炭または炭団(「たどん」炭の切りくずや粉をまるめて固めたもの)を燃やすところに三本の足がついた「五徳」をおき、その上に鉄瓶を置いてお湯を沸かした。このように火鉢は暖房棄兼湯沸かし器だった。

 炬燵には、床に炉を切って固定しその上に蒲団を被せた「掘り炬燵」と、櫓の下に持ち運び可能な土製の火鉢を置いただけの「置き炬燵」があった。江戸時代にはこの炬燵を出す日が決まっていて、旧暦十月最初の亥(猪)の日(上亥日)。「炬燵開き」と呼ばれていた。猪牙舟などでは炬燵をコンパクトにした「行火」(あんか)も用いられた。木製の囲いのなかに土製の火入れを置き、炭火を起こして暖を取るもので、手軽に持ち運びできる暖房器具として重宝された。さらに簡易な暖房器具として用いられたのが「温石」(おんじゃく)。石を温めて真綿や布などでくるみ懐中に入れて胸や腹などの暖を取るために用いた道具で懐炉の原型にあたると考えられる。

 手っ取り早く冷え切った体をあたためるには「蕎麦」。湯に通してあたためられた蕎麦は、冬の江戸の名物だった。夜蕎麦売りを描いた有名な浮世絵に国貞の「神無月はつ雪のそうか」があるが、「そうか」とは江戸の「夜鷹」に相当する大坂の最下級の遊女のこと。夜蕎麦売りの客の多くは「夜鷹」だったと言われる。

        「姉様やたんとあがれと夜蕎麦いひ」

あつあつの焼き芋も冬を代表する食べ物。冬の江戸の夜に焼芋屋のいないところはないといわれるほどだった。

「芋でさえ煙をたてる花の江戸」

売ったのは屋台店や「番太郎」(略して「番太」)。番太郎は各町の霧口の木戸のところにあった木戸番屋の番人。仕事は木戸の開け閉め、町内の雑務だったが、薄給のためアルバイトが認められ、草履・草鞋など様々なものを商っていたが、その一つとして、冬季には番屋で焼き芋を売った。焼芋屋の看板で多かったのが「〇焼」(まるやき)。「丸ごと焼いた」の意。「八里半」という看板も多かった。クリ(九里)に近いうまさという意味で、「九里半」という場合もあり、こちらは、クリより少しうまいという謎。では「十三里」という看板の意味は?「クリ(九里)より(四里)うまい十三里」ということだ。

国貞「神無月はつ雪のそうか」

雪夜に夜蕎麦売りの屋台に集まる「そうか」(「夜鷹」最下級の街娼)たち

菊川英山「雪遊び」 

広景「江戸名所道戯尽 廿二 御蔵前の雪」

鈴木春信「雪で犬をつくる二人の禿」

国芳「初雪の戯遊」

渡辺延一「雪月花内 瑠璃袴に雪」

国貞「源氏十二ヶ月之内 雪見月 」

広重「外と内姿八景 桟橋の秋月 九あけの妓はん」 囲炉裏

国貞「七小町 見立鸚鵡」 長火鉢

勝川春扇「吉のや」 丸火鉢

『絵本常磐草』 炬燵で読書する三人の娘

春信「炬燵で文を読む男女」 炬燵の上に座る絵は珍しい

国政「娘と猫」   「亥の日から猫の居場所が高く出来」

『絵本和歌浦』掘り炬燵 男性が竹筒を吹いて炭を起こしているところ

国貞「江戸名所百人美女 今戸」  火鉢から炭を移す様子

豊国「猪牙船の宗十郎  三代目沢村宗十郎と梅本の茶屋女」

 男の前に置かれているのが「行火」(あんか)

『金儲花盛場』焼芋屋

広重「名所江戸百景 びくにはし雪中」

豊国「十二月の内 小春初雪」

 左に描かれているのが焼芋屋。「大々叶」(だいだいかのう)は成功祈願の祝詞。大相撲や歌舞伎で用いられる。