Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

Sui's standards vol.5

2021.11.20 11:00

「美」のスタンダード

子供の頃住んでいた家の近所に

庭に葡萄の木がある古い洋館がありました。


そこに住む高齢の女性は以前から

近所の子供相手にピアノを教えており

すでに習っていた姉を真似て

わたしも通うようになりました。


***


洋館の門構えはとても質素で

塀というよりは垣根に近く

白木でできた背の低い門を開けると、小道のような石畳が続いており

その先にクニャりと枝を伸ばした葡萄の木が

テラスの柱にしっかりと巻きつき屋根代わりとなっていました。


玄関がどこにあるとか

洋館の壁が何色だったとか

細かいディテールはもうすでに記憶に残っていません。


ですが、夏になるとテラスの窓が開け放たれ

葡萄の葉の陰になった暗い室内から

白いレースのカーテンがちらちらと揺れ

木漏れ日が丸い光をかたどってテラスの床に落ちる光景が

とても涼しげで品があって

まるで童話に出てくる世界だなと

当時のわたしは幼いながらも憧れを抱いていました。


***


レッスンは楽しかったりへこんだり

あんまり上手にはなりませんでしたが

レッスンの終わりに出される

先生手製のお菓子を食べたくて休まず通っていました。


先生はちょっと厳しめでしたが

お菓子はとっても甘くて優しい味で

子供相手だというのに

我が家にはないような綺麗なお皿で

丁寧にもてなしてくれました。


***


自分の「美」の基準はどこからきたんだろう。

そんなことを考えた時、真っ先に思い浮かんだのは

この洋館の夏の日の情景とレッスン後のもてなしでした。


残念ながら音楽的なセンスは育ちませんでしたけれど

写真を撮るときにも、絵を描くときにも

創造する時はだいたいこの情景を基準に裾を広げていきます。


意識してそうしているわけではなくて

自然と原点回帰してしまうのです。


誰も思いつかないような

天才的な発想はできませんが

いつでも帰ってこられる「美」のスタンダードがあることで

心地よく創造できるのは幸せだなと思います。


***


ラストを飾る最後の一枚は

わたしの中の「美」の基準の一つ

洋館の思い出をイメージしてセッティングしました。

キティーちゃんのティーカップは当時のわたしが実際に使っていたものです。

食器棚の奥からこれを見つけたときに

そうだ、この写真にしようと決めました。


最後の「Sui's standards」の写真を撮りながら思ったのは

わたしの写真はいつでも

当時の自分を思い出して懐かしむ。

懐古主義なんだということです。


そして、そんな「美」のスタンダードを持ちながら

わたしは写真を撮り続けていくんだなと思います。

現在もそしてこれからも。


スイ



text & photo by sui