近代思想2-馬上の世界精神と精神現象学
2021.11.12 08:08
イェーナに侵攻したナポレオンを「馬上の世界精神」と表現した者が居た。哲学の大家として名を残すゲオルグ・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲルである。彼はその時、最初の哲学的主著となる「精神現象学」を書き上げようとして、フランス軍の侵攻に逃げまどっていたのである。
「精神現象学」は1807年に出版された。この書は、人間が感性から始まり、知覚から悟性にすすみ、さらに理性を獲得し、道徳にまで進んでいく、という人間精神の発展過程を哲学的に著述したものである。注目すべきことは、ここで初めて哲学に「発展」の概念が示されたことである。
ヘーゲルは、この発展の原動力を自己否定に求める。つまり今までの意識の低さで矛盾に陥って自己否定して、より高度な認識へと至る。ヘーゲルによって「否定」はむしろポジティブなものに位置づけられるのだ。この過程は大小の「論理学」によって、弁証法として体系化される。
ヘーゲルは、フランス革命に対して「思惟が精神的現実界を支配すべきことを認識する段階に達した」とこの上なく評価している。ヘーゲルの精神は個人の中に留まらない。精神は、世界をつくっていくのである。彼は後にそれを絶対理念の自己展開と名付けることとなる。