どうしても語りたい一冊/夢のはじまり。【コラム03】
コラム第3冊目のテーマは「夢のはじまり」です。
絵本は『サンタクロースっているんでしょうか』。
“はじまり”のきっかけは、小学生の高学年。
ある日私は、当時入っていたクラブの顧問の先生からクリスマスプレゼントを渡された。
袋を開けると入っていたのは絵本。
クリスマスが近かったこともありサンタクロースにちなんだ絵本だった。
当時私は、なぜ先生がプレゼントをくれたのか、しかも自分だけ!?特別に!?と訳も分からず不思議な気持ちもあったけれど、ただ単純に嬉しかったことは覚えている。
月日が流れ、大学生になった頃、その謎はいとも簡単に解けることとなった。
母と思い出話をしていた時、なんの気無しに先生からもらった絵本の話をした。
「そういえば、私が小学生のとき先生に絵本もらったよね。」
「そんなことあったね。」
「あれ、なんでくれたんだろうね?」
「あー、それは先生が結婚するって聞いてお母さんがお祝いにお花をあげたお返しだよ。」
「えええ!?そうだったの!」
...早く教えてくれたらよかったのに。と言いそうになったけれど、大人って大事なことは子どもに何も説明しないものだよな、と思い直した。
ずっと心の片隅で謎だったことが一瞬で解き明かされたけれど、先生しか答えを持っていないと思ってずっと心にしまっていたことがこんなにも簡単に答えが出るものだったなんて...とあまりの呆気なさに少し複雑な気持ちにもなった。
何はともあれ、謎は解けて再びプレゼントと向き合うことになった私は、絵本を手に取りもう一度読み返した。
するとその絵本はもう、私が子どもの頃読んだものとは全く違うもだった。
ただただ嬉しくて眺めていたこの絵本が、今読むと言葉のひとつひとつが心に響いた。
ああ、先生ありがとう。読み終えたとき心の中でそっと思った。
今だから分かる。これこそが先生の想いだった。子どもの未来に希望を持って接してくれていた素晴らしい先生。
絵本を贈られるってこんなに嬉しいことなんだと改めて思った瞬間だった。
私は今でもこのときの想いが忘れられないでいる。
そしていつしか自分に関わる全ての人にこの感動を味わって欲しい。そんな風に思うようになっていた。
絵本は手紙。
贈る人の気持ちをのせて人から人へ。
優しさと希望とが満ち溢れている。
ーだから今、私は絵本屋をしている。
『サンタクロースっているんでしょうか?』
子どもの質問にこたえて
社説:ニューヨーク・サン新聞
訳:中村妙子
絵:東逸子
偕成社
あらすじ:子どもの質問に答え、目に見えないもの、心の大切さを語りかけた100年前のアメリカの社説です。