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キリスト教で読む西洋史ー聖女・悪女・聖人・皇帝・市民

近代思想3-フィヒテ「ドイツ国民に告ぐ」

2021.11.13 11:21

ヘーゲルは壮大な世界を描こうとしたが、逆にドイツ人の魂を訴える者が居た。ヨハン・ゴッドリープ・フィヒテ、彼は仏軍占領下のベルリンで、1807年12月から連続講演を行った、有名な「ドイツ国民に告ぐ」である。実はこの講演は、政治的ではなく、教育改革についてのものなのである。

しかし彼の講演の前提が凄まじい。ドイツ人をドイツ語を話す者と定義し、ドイツ語は、他の民族が故地を捨てて出て行き、交わったのに対し、元の言語=生きた言語を持つ者として優位性を述べるのである。他から押し付けられた利己心を捨て、民族として結集すれば、偉大になれると言うのだ。

フィヒテ哲学は、個人意識を超越して絶対知に到達することを説いたが、そのように個人は個人意識を脱して、民族の意識に融合しなければならないというわけだ。彼は啓蒙的世界市民など考えず、基礎となるのは、言語や地域で結ばれた根源的な民族というのである。

実にドイツはこれまで、神聖ローマというコスモ的な中に居て、統一してるようで実はバラバラだった。しかしゲーテやシラーが、ドイツ文学を隆盛させ、その中でドイツ意識が芽生えてきていた。ドイツを他の民族に比べて優秀とした自国ヨイショは、コンプレックスの裏返しとはいえ、後世にも大きな影響を与えた。