[2017.5.9]シリアにおける化学兵器使用疑惑と米国によるシリア軍拠点攻撃に対する、シリア人らの声
4月上旬、シリアにて化学兵器使用による多数の死傷者が出たニュースが世界中を駆け巡り、続いてアメリカ政府による初めてのシリア政府軍拠点に対する空爆が実施されてから、一か月が経過しました。日本政府もこのアメリカ政府の行動に対して一定の理解を示し、日本国内でも大きく報道されています。
シリア和平ネットワークは、この一連の事件を受けて、内外で多くの議論を重ねてきました。その中で、シリア人の友人たちからもらったこの事件に対するコメントは、私たちが活動をおこなっていく上で、現地理解のための大きな助けとなっています。刻一刻と変化する情勢において、シリアの人びともまた様々な意見を持ち、真剣な考えを有しています。しかし、テレビなどの報道ではこのシリア人たちの声が届けられることはほとんどありません。
今一度、私たちはこのシリアでの問題に、一体だれを中心に置いて考えていかねばならないのか、考えなければなりません。今回、シリアの人たちの声の一部を皆さんと共有し、もう一度この事件に対して、シリアの人びとの思いを考えていただければ幸いです。
Zaki Mehchy氏
[所属:シリア政策研究センター、コメント日:4月11日]
私たちが2月に東京で議論したように、シリアの情勢は外部勢力によって支援された国内の支配的(武装)勢力同士の戦闘と、増々の軍事化を反映しています。この危機の間に、様々な勢力によって様々な種類の兵器が、シリア人への影響を考慮されることなく使用されてきました。これまで50万人以上のシリア人が犠牲となっています。しかし、米国がシリアに向けてミサイルを発射したその意図として、サリンガスが使用されたということはメディア十分を魅了しました。私たちは、この(米国の)攻撃が危機を収束させていくのでなく、継続していくことに資するのであり、状況をさらに複雑化させるものだと考えます。米国やロシアを初めとする諸外国の意図的な介入は、シリア人の主権を喪失させているのです。
* Zaki氏に関する過去の記事は以下から
→https://syriapeacenet.themedia.jp/posts/2131645
ムハンマド(仮名)
[ラッカ出身者、30代後半、トルコ在住、シリア国内での職業:教師、コメント日:4月7日]
この事件(化学兵器使用疑惑)の後、米国トランプ大統領は化学兵器搭載の戦闘機が飛び立った空港を攻撃するよう命令を下しました。正直、米国がシリア政府を攻撃するということを、私たちは喜ばしく思いません。ロシアであれイランであれ、そして米国であれ、どのような諸外国であっても私たちの国を攻撃するということには耐えられないのです。それは例え、いかなる勢力であってもシリア政府のおこなう民間人の殺戮を止めるという行為が歓迎されるものであったとしても。
一方で確かに、米国によるシリア軍拠点爆撃のニュースを多くのシリア人が好意的に受け取り、現政権とバッシャール・アサド大統領が失墜するという楽観的に望んでいるというのもまた事実です。
カイス(仮名)
[ラッカ出身者、30代前半、トルコ在住、シリア国内での職業:英語通訳者、コメント日:4月7日]
あなたたちにまず知っておいてもらいたいのは、私たちは無知で馬鹿な市民だなんてことはないということ、トランプ大統領が我々シリア人を馬鹿な市民だとみなしていることも、私たちにはお見通しだということです。
アサド大統領が私たちに対する殺戮を実行してもう7年が経ちます。彼の航空拠点から発射された数多のミサイルと、(今回の化学兵器攻撃は)それが着弾する地では何も違いはありません。
また今回の件は、トランプ大統領がアサドに対して軍事作戦を実行したというほどのものではないでしょう。そんなのはただの見せかけ、それは親が子供に対し「もうしちゃだめよ」と頬をピシャリと叩くようなもの。アサド大統領の爆撃機は今日もまたたくさんの市民を攻撃し殺害しています。このような状況でトランプ大統領のやったことは、ただ人びとを馬鹿にしているようなものだと、私たちは受け取っています。
ユーセフ(仮名)
[アレッポ出身者、20代後半、トルコ在住、シリア国内での職業:大学生、コメント日:4月7日]
アメリカによる(シリア軍拠点への)爆撃について、私は何の驚きも感じ得ません。それは、政治的に正当化されるものでしょうし、化学兵器だけでなく全ての兵器使用は議論を巻き起こし、同盟国のスタンスを変えるほどに十分な行為だと思います。ただ、(今回の件で)ロシアと米国の状況はより一層悪化するのを懸念します。
今回の米国による爆撃の動機を人道的な復讐、あるいは正しい行動であると考えている人を、私は滑稽に感じます。そしてそこからは何も得られないでしょう。私は、殺戮兵器によって解決されるものなどありはしないと信じています。ただ万一これが人道的な見地からのものだったとしても、トランプ大統領が爆撃を実行に移す前には、様々な政治的なプロセスや他の如何なるプロセスを、経るべきだったことは間違いありません。
今回の行動は、バッシャール・アサドに対するものでも、シリアについてのものでも、ましてや自由や人道主義についてのものではありません。これはただ、ロシアと米国、プーチンとトランプのプレイグラウンド、チェス台のようなものです。そこでは誰しもが何の意味もなさない、塵のようなものです。私はそんな状況に激しく怒りを覚えます。私はこの戦争の如何なる勢力も決して支持しません。
ただ深く深呼吸をして、シリアの罪のない魂たちのために祈ります。
> Syrian Observatory for Human Rights (http://www.syriahr.com/en/?p=64269)