どうして医者になったのですか
思春期・青年期とは、外の現実世界で、現実検討して自分を知り、自分の限界に落胆し、新たな同一性を育て、親から離れる分離・個体化の時期である。親の引いたレールに疑問を持ち始めたり、親の期待に応えられない自分を知ったり、本当に自分がやりたいことを見つけたりする。
クリニックには高校生がけっこうやってくる。授業があるので朝に面接している子もいる。苦悩や将来への不安が伝わってくると、自分の遙か昔に抱えていた感情が呼び起こされる。悩んだり、時には死にたくなってしまう高校生に同一化しやすいのか、自分の若い頃の感情がわき上がり応援したくなる。
私は高校時代は「陰湿」であった。突然の凹みがあったし、いつも空しさがあった。自転車を漕ぎながら、友達の家で賭け麻雀、自室に籠もって音楽にタバコと、勉強など手につかなかった。
大学時代は、もっとひどい。授業に出ないで酒ばかりのんで小説読んで、たまに絵を描いて、ギター弾いて、留年して、母親の仕送りは金だけ抜いて手紙は捨てるという親不幸。暗い陰湿な思い出ばかりの故郷に引き戻されたくなかった。しかし、どこかで故郷を求めている自分がいたのであろう。故郷は本当の故郷でなくてもいい。私は「新宿」を自分の心の故郷に置いた。神奈川と群馬の間に新宿があったし、帰郷の時には必ず寄って帰った。研修医時代あたりから、西口思い出横丁の岐阜屋に行くようになった。一人でチューハイを飲みながら、田舎や親のことを思ったりもした。何かあるたびに岐阜屋に行った。信ちゃんという店長を兄貴のように思うようになり、親が恩師が亡くなった後も、いつも一人で飲んでいた。
先日、信ちゃんが、亡くなったことを店員から聞いた、悲しい。
あ、話しを戻さないと・・・
医者になりたいという高校生もやってくる。「先生はどうして医者になったのですか」と聞かれることもある。しかし、明確な動機づけなど高校時代には全くないし、自分の医学部時代など語れない。強い動機付けがあり医者になったわけでもなく、叔父と祖父の金をあてにして、二浪したくないので私立医大に行っただけ。
そこで大学教員時代に、講義などで使わせてもらったyoutube動画を見せている。
叔父と祖父へ・・・今、私は故郷で恩返ししています。