again【再び】
Waiihaには、とっても大切なベーシストがいた。
ゆっくりとした声で、若手を褒める野津さんは東京人だった。
戦後の復興も進み、赤線の灯が消えて、東京タワーが立った。
東京オリンピックが開催されて、ハワイアン音楽が席巻していた。
そんな、古き日の「新宿駅界隈」の昭和の思い出話しを良子ママと
確かめるように楽しそうに語っている野津さんの横顔が忘れられない。
野津さんは「敏いとうとハッピー&ブルー」に在籍していた。
白片タケシさんのライブには、皆勤賞だった。
細身で端正な顔立ちでベースを弾く姿は、カッコよかった。
今夜、根本さんが奥様と一緒に、ご来店されました。
根本さんは『アゲイン』というお店のマスターです。
数年前の初夏のある日、ダンプさん(根本さん)がWaiihaに訪れた。
話しを聞いていると、新宿の淀橋付近のK大学だと分かった。
僕は、とっさに「野津さん!知ってますか!」と聞いてみると、
「お~。野津さん!知ってるよ。なんで、知ってるの?」
「今、タケシさんの日、来てくれています!」
根本さんは「大学出てプロになって、一緒に仕事もして…。
あ~。生きているなら会いたいな~」
この出会いから、奇跡のようなストーリーが始まった。
その夏、野津さんに、根本さんのことを話してみたら
「あ~。覚えている。生きてたのか。ダンプ。会いたいな~」
「野津さん。いま、根本さんに電話してみます。」
その夜、僕の携帯で、野津さんと根本さんは、声を交わした。
声だけだけど再会した。その光景を眺めていると、
遠い日の学友と語らう「真夏の青年」のように見えた。
そして、今夜、根本さんがご来店された。
時間の限り、野津さんの話しばかりしていた。
お帰りの時、入り口付近で見送りながら僕は思った。
「やっぱり、お二人を再会させたかったな。」
それでも、きっと今夜は、こんな笑顔で、僕らの会話を
いつもの指定席に座って聞いていたんだろうな。
じゃあ、次は『アゲイン』で…。