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Extra14:災難

2021.11.19 22:00

ミコッテという種族は、特徴として猫のような耳と尻尾を持っている。  

耳の大きさや長さもそれぞれ違うが、尻尾は特に違いが分かりやすい。  

獅子のように先端が筆のようになっていたり、毛が短く髪色のメッシュも目立つ毛色だったり。  

ガウラやヘリオの尻尾は、毛が長くふわふわとしている。


だが今のガウラの尻尾は、ピンとしてボサボサに膨れ上がっていた。


─────


数時間前の出来事である。  

気候もよく風も心地よいので、ガウラは久しぶりに武器も置きリムサ・ロミンサを散歩していた。  

まぁ護身用に短剣は提げているのである程度の身を守る件に関しては問題ない。  

この後予定もあるのだが、時間が余っていたので1人早めに目的地付近にいるのだ。  

リムサ・ロミンサは、海賊や行商人も多い。  

海賊と言っても、規則を守る者と守らない者と両方いるので、正直素人目線では見分けはつけにくい。  

上甲板層のアフトカースルから見る景色もよく、下甲板層の盛んな様子も見えて楽しい。  

ちなみに予定というのはヴァルとの食事だ。  

フロンティアドレスを着て来いとの指摘もある。  

潮風が冷たくなってくる時期でもあるので、羽織りも忘れずに。


「よう嬢ちゃん1人かー!?」  

「ん?」  

「君だよ君!1人なのか!?」


そう声をかけてきたのはルガディンの男性だった。  

ガウラの知らない人である。  

ルガディンの男性は馴れ馴れしくガウラの肩に手を回し、大きな口を開けて喋り始めた。  

ガウラは少し警戒を始める。


「今日のリムサは絶景だろう!  

海も見えるし都市の様子もよく見えて!」  

「あ、あぁ…」  

「可愛子ちゃんも多いしなぁ!  

俺も酒を飲みつつ可愛子ちゃんを探しててよぉ、どうだ嬢ちゃん!1杯!」  

「結構だ」


リムサらしいナンパだ。  

肩に乗せられたままの手を払おうとするが、体格差があるのか力を入れられてるのか、払うことができない。  

相手は是が非でも連れて行きたいようだ。  

ガウラの目は警戒の色をしている。


「釣れないこと言うなよ〜!」  

「知らない相手にホイホイついて行くほど、甘くはないんでね…?」  

「今こうして会ったんだから、知らない仲とは言えねぇだろう!  

美味い酒が入ってるらしいし、嬢ちゃんも飲める口だろう!?」  

「生憎人を待ってるんだ、やめておくれ」  

「そう言わずにさぁ〜、行こうぜ嬢ちゃん!  

酒なんて何杯飲んでも困りゃしねぇし、なぁ?」


一瞬、男の目の色が変わった気がした。  

嫌な予感がして相手の手を振り払おうとしたが、逆にその手を掴まれどこかへ行こうと歩き始めた。  

手首を強く掴まれているので、解こうにも解けない。


「おい、どこへ行くんだ…!?」  

「どこって…そりゃぁオタノシミだ」  

「はぁ…!?」  

「まさか嬢ちゃん、ハジメマシテか?  

可愛いねぇ…」  

「ヒッ……!」


男は振り返りぐいっと顔を近づける。  

その拍子に空いている手で尻尾の付け根あたりを撫でられた。  

誰しも、というわけではないのだがガウラの弱点ではある。  

ぞわりとしたのと、男の目を見て小さな悲鳴を上げる。  

男の目は獲物を逃がさないとでも言いたげだった。  

黙り込んでしまったガウラを見るとにやりと笑い、また歩き始めた。  

護身用の短剣を出すにも、都市内なので大事になりかねない…ガウラはされるがままに連れて行かれる。


「美味い酒飲んで、釣れた女を可愛がって!  

最高だろう!」  

「……っ」  

「そんな可愛い格好をしてるからだぜ?  

しかも処女!いいねいいね〜」  

「嫌だと言っているだろう…!」  

「そう言いながら来てくれるのは、ツンデレってところか?」


いや、お前の手を掴む力が強すぎるんだ!  

ガウラの頭の中は既に真っ白で、ただただ逃げたいと心が訴えている。  

そんなことも気にせず、男は溺れた海豚亭で席を取り酒を頼み始めた。  

座らされると手を離された、逃げるチャンスだが恐怖で思うように思考が回らない。  

男は嬉々として話し続けるが、話の中身なんて聞いていない。


「今日は可愛いミコッテちゃんだな?」  

「あぁ、いい子だぜ〜!」  

「…!」


話しかけてきたのは店長のバデロンだった。  

冒険者として彼にお世話になっているガウラは、彼を見て少し冷静さを取り戻す。  

バデロン自身も冒険者の顔を覚えているので、ガウラの存在も知っている。  

知っていて、話しかけに来た。  

バデロンは男に酒を盛りつつ話を始める…そしてこちらにアイコンタクトを取る。  

[こいつは溺れるのが早いんだ]と。


「そ〜れでさぁ〜!  

今日も引っ掛けたら〜、こうして来てくれたんだなぁ〜!」

どうも彼の思惑通り、すぐに酔っ払ったようだ。

「…はぁ……、こいつはいつもこれなんだ。  

最近来るようになった奴でな、いつもどっかから女を連れて来て酒を飲んでは女を頂戴する。  

酒が弱いってのに何してんだか」  

「……」  

「あんたの顔を見て俺もビックリだ。  

…さ、こいつは酔っ払ったらこのまま寝ちまうから、もう行きな?  

情報も多くなった頃だし、いい加減イエロージャケットにも引き渡せるだろうよ」  

「…すまない、ありがとう」  

「それじゃ、本物のデートを楽しんでこいよ?」  

「デ…!?」


─────


男から運良く逃げることができ、下甲板層のエーテライト・プラザのベンチに座った。  

恐怖と驚きで未だに心臓がうるさい。  

尻尾は素直で、驚いた拍子にボサボサに膨らんだまま、なかなか治まらない。


「すまないガウラ、遅くなっ…た……」  

「っ!?」


ぼうっとしてたら声をかけられ、またもビックリしてしまい尻尾は更に膨らんだ。  

オロオロと目を向けると、目の前にいたのはヴァルだった。


「…何かあったのか?」  

「ふぇ…?  

あ、あぁいやなんでもない!」  

「……」


ヴァルは疑いの目を向ける。  

誤魔化すように自分の尻尾を触り、ボサボサになった毛を直していった。


「…我慢、しなくていい」  

「え?」  

「何かあったなら言え」  

「……」  

「その手首の痕はなんだ?」  

「あ、えっと…その…」


言われて初めて気づく。  

男の力加減が強かったのか、掴まれていた手首に痕が残っていた。  

ガウラは小さな声で、事の経緯を話し始める。  

段々と声が震えるが、彼女は最後まで話す。  

ヴァルの顔が険しくなってきているのは、雰囲気で分かった。


「あ、でも今頃バデロンさんがイエロージャケットに引き渡してるだろうから…!」


とりあえずこれを言っておかねば、ヴァルが相手の首を狙いに行く可能性がある。  

流石にそれは望まないので念を押して。


「すまない、あたいが早めに来ていれば」  

「仕方ないさ。  

私も油断していたし…」  

「……場所を変えるか」  

「え?」  

「騒動があってすぐだから、ガウラが落ち着かないだろう…。  

一緒に行ってみたいレストランは山ほどあるんだ、今日は別の所に行って、ここはまた今度にしよう」  

「いい、のか…?」  

「あぁ」


ヴァルがそう言いながら、ガウラの横に座り地図を広げ始めた。  

行きたい場所が多いのか、地図には印がたくさんついている。  

場所を決めているヴァルの真剣な表情を見てガウラは少し安心したのか、先程の泣きそうな顔と違って穏やかな表情になった。


─────


「ご馳走様」  

「お粗末様。  

口に合ったか?」  

「あぁ、美味かったよ!」  

「それならよかった」  

「…ありがとうな。  

正直、怖かったからさ」  

「顔を見れば分かる」  

「え!?まぁそれはいいや。  

ナンパは流石に初めてだったからさ…、自分でもどうすればいいのか分からなくなってしまったよ」  

「今度、対処法を教えてやる。  

仕事の都合上、そういう場面も多かったから…参考にはなるだろう」  

「それはありがたい、よろしく頼むよ」


食後に出された暖かいイシュガルドティーをいただきながら、談笑する。  

ガウラも気分が良くなったようで、ヴァルも安心したようだ。  

元々負の感情を出すことが余りなかったガウラ…それはきっと今まで歩いてきた道にそうさせる何かがあったのだろうが、ヘラを知っているヴァルにとってはそれが懐かしく感じる時があった。  

ヘラは大人しく利口だったが、自分の感情や欲を伝えることは苦手だった。  

仕草で分かってしまうので結果的に伝わることは多いのだが、やはり不器用さは目立っていた。  

記憶をなくしガウラとして生きている今はそれこそ感情豊かな性格だが、それでも負の感情に関しては伝えることは苦手そうだ。


「ガウラ」  

「なんだい?」  

「あたいはガウラを護り続けるが、やはり今回のように護れないこともあるかもしれない。  

だから護身術はできる限り教えておきたい。  

あたいが居なくても、自分の身を護れるように。  

これも、あたいの使命に繋がるならと…そう思う」  

「…あぁ、教わってもいいならお願いするよ。  

私は戦闘ができるだけだからねぇ、身を守る術はきちんと知っておきたい気持ちはある」  

「それじゃ、また日を改めて機会を設けよう」


冒険者故に先へ進む者への、御守りとなるように。  

ヴァルはできる限りの護身術を教えていこうと決めたのだった。