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ライター

2017.05.22 15:36

澤田はタバコも吸わないのにライターをもらった。煙を蒸気機関車のように吸い込んでは吐いていた山内が不意に渡してきたのだ。

「ほら、もうほぼ入ってないけどやるよ」

「いらないよ、こんなの」

駅前の喫煙所にはとんでもない量の吸い殻が転がっていて、煙はとうに澤田の服に染みついていた。

「いや、新しいジッポ買ったからこれもういらねえの。ほれっ」

山内が放ってよこしたそのライターには成る程、中身がほとんど入っていなかった。緑色の半透明の入れ物は妙に軽く、澤田の心を落ち着かなくさせる。

ジジっと歯車のような金属を回すと小さな炎がオレンジをちらつかせて、すぐに消えた。

「ま、じゃあ仕方ないからもらっとくよ」

胸ポケットにそれを忍ばせて澤田は不満げを装った。


ジジッ。

深夜、何とはなしに澤田はライターの着火コマを回す。炎とさえ呼べない火花が散る。

それでも炎になりきれない火の粉を見て、澤田は純粋な衝動に駆られた。何の汚れもない、本能に近い欲望だった。

ゴミ箱にある丸まったティッシュをつまみあげる。鼻をかんだそれか、自慰の後始末に使ったそれか、定かではない。いずれにせよ澤田はそれを机に並べて、火の粉をふりかける。


ジジッ。ジジッ。

摩擦の熱か、火による熱かわからなかったが右手の親指は焼けたように熱い。握りしめた4本の指は凍ったみたいに白く、固まっていた。

遠くの方で小さく消防車のサイレンが聞こえる。部屋ではジジッという音だけが一定間隔で鳴らされるだけだ。

ティッシュにはじわっと焦げが広がって、何重にも細かく織られた煙がすうっと立ち昇る。自らの体液が染みついた紙屑を燃やすことで何かを成仏させているような、不思議な気分に澤田はなっていた。


不意にティッシュに、火がついた。一瞬で火が広がる。机の上では嘘紙屑だったものが嘘みたいに燃えている。突然のことに焦った澤田はライターをベッドに放り投げる。

澤田は消化器の存在を思い起こし、白い冷たそうな煙を連想した。そして何を思ったのかカバンから急いで制汗スプレーを取り出し机に向かって構える。

ふう、これで安心だ。右手の人差し指は制汗スプレーの発射ボタンを捉える。

残念ながらその引き金を引いて消えたのは、炎ではなかった。


…………………………

チャッカマンが部屋から出てきたのでカチャカチャやってて、いらないプリントちょっと燃やしては消すみたいな遊びをしてたら部屋が焦げ臭くなって親に怒られました。

そんな21歳です。