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#134.トランペットとの対話(楽器選定)

2021.12.13 21:31

いつ頃のことか忘れてしまったのですが、内容だけは鮮明に覚えていることがあります。

私がまだ子どもだった頃、トランペットを始めて数年の時だと思いますが、年上の方がいくつかの楽器を吹き比べていて、楽器からほんの少し音を出すたびにおもむろに


「ダメだこの楽器」


と次々と一蹴したのです。その頃はまだ楽器の良し悪しもわからないので、その人が言っていることを真に受けて、なるほど楽器にはダメな楽器がたくさんあるのか、楽器を選ぶ際にはアタリを見つけないといけないんだな、と信じて疑いませんでした。純粋!

確かに、外国の楽器を選定した際、あからさまな製造ミスを確認したことが何度かあり、そうしたものが市場に出回っているのも残念ながら事実です。ただ、今回のお話しはそこではないので、また今度機会を見てお話しさせていただくとして、今回はそうした製造上の問題がなく、なおかつある程度の金額のするきちんとしたメーカーについて、本当にダメな楽器がそれほどまでに存在するのか、という観点からひとつお話しをします。


みんなそれぞれ良さがある

楽器選定をする際に注意したいことのひとつに、楽器を自分の意のままに操ろうとする姿勢で良いだ悪いだと言うことは避けるべきです。それがたとえ自分の楽器を選定する時もです。具体的には例えば、楽器にやたらと息を吹き込んで、「この楽器、息が入らない=ダメな楽器だ」といった感じです。ちなみにこの判断はまず間違っています。なぜなら楽器は息が入りやすいものが良いとは一概に言えず、そもそもトランペットを演奏する際、「息を楽器に流し込む」という発想自体が私自身の中では間違いであると考えているからです。


トランペットの管は空気を流し込むところではなく、唇の振動が共鳴して音楽的なサウンドに変換される部分であり、そのサウンドを発生させるための体内の空気圧バランスを生み出すサポートをしている部分でもあります。そのようなトランペットの管の役割について正しく理解していれば「空気が流れにくいからダメな楽器」などという発想に至ることはあり得ないのです。

他にも「鳴らそうと思っているのに全然鳴ってくれない」とか「この楽器音程悪い」というのも、本当にその楽器が問題なのでしょうか。


楽器を理解する

それぞれの楽器には製作者、メーカーのコンセプトやプライドや自信があるはずです。トランペットと一口に言ってもそれぞれの個体に与えられた独自のサウンドが備わっています。一方で、すべての楽器が音程が良い(方向性で制作している)のは、音程の悪い楽器を作ろうものなら一瞬でユーザーにバレて誰も使わなくなってしまうので当然です。そんなリスキーなことをメーカーがするわけがありません。


そうした状況から生まれた楽器にはそれぞれの特徴、例えばオーケストラの中でシンフォニックに響くサウンドが鳴るように作られていたり、ジャズやポップスで芯のある輪郭のはっきりした演奏ができるように作られていたり、初心者に優しく扱いやすい楽器として作られていたりと様々あります。


このようなコンセプトや楽器の持つ魅力を理解できないと、さながら運動しやすい上質なスポーツウェアを試着して「こんな服で晩餐会に出席できるか!」と言うような滑稽な状況になってしまうので、選定は難しくなります。


楽器と対話する

楽器を演奏する際は、自分の意思を押し付けたり、しつけるような姿勢ではなく「どのように演奏したらこの楽器の魅力が一番発揮するのだろうか」を見つけましょう。それができた瞬間、音の響きの良さ、ピッチの安定など、様々な面が安定する方向に向かうことでしょう。


そして、楽器と仲良くなれると、それぞれの楽器にはそれぞれの魅力、良さが備わっていて、製作者のコンセプト、目指すサウンドなどが見えてきます。私自身個人レッスンをしていても、生徒さんが楽器を活かせるようになって瞬間、その楽器メーカーのサウンドが聴こえてくるという経験を何度もしています。BachにはBachの、ヤマハにはヤマハの素晴らしい響きとサウンドがあるのです。


そうした音が出せるようになると、楽器選定をする際、「素晴らしいたくさんの楽器の中から」自身(もしくは生徒さんの)求めているものが何か、どんなシーンで使おうとしているのかなどによって選ぶことができるわけです。選定の際にもっとも大切な姿勢は「楽器選定は悪いものを排除する行為ではない」という点です。


今あなたが使っている楽器も、鳴らそう、とか音程を修正しようという「しつけ」や「言い聞かせる」発想ではなく、「どんなふうに演奏したら本領発揮してくれるか」を見つけてあげてください。楽器とタッグを組んで一緒に素晴らしい演奏をしよう、と考えると練習が今まで以上に楽しい時間になるはずです。


こうした考えや行為を私は「楽器との対話」と呼んでいます。



荻原明(おぎわらあきら)

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