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空想都市一番街

忍と『変人』ミュージシャン⑥

2021.11.28 07:30

誠司と忍は、セナの影響もあって新しい曲作りや路上ライブに精を出していた。


今の自分たちでやれることをやればいい。


その言葉が嬉しかったし、忍たちを後押しした。



忍はセナに、毎週金曜に路上ライブすることをメールで伝えた。


「行ける日は見に行きますね!!」


とのことだ。


忍たちも行ける日は、セナのライブを見に行った。


いつもセナのライブには、心動かされて勇気をもらった。


いつ聞いても泣く曲もあった。


なんでこの変人は歌ってる時はかっこいいんだろう。


歌ってる以外は危なっかしい変なやつなのに。


それもセナの魅力の一つなんだな。

ギャップ萌えってやつか。と忍は思った。


いっつもバカで意味わかんないことを言ったりしてるのに、どこに行ってもみんなセナのことをこと知ってて、愛されている。


「俺もそんなキャラになりたい」

なんていう誠司。


「お前全然違うだろゴツいしキモ、、じゃなくて顔恐いし無理」


「今キモって言った?泣いていい?」



忍たちとセナは、お互いのライブの後ご飯を食べて帰ることもあったが、

最近はセナが忙しいらしくてあまり行かなくなった。


「俺ら、おごられすぎだからじゃね?」


「それもそうだけど、なんか急いでどっか行く感じだよな。バイトにしては早いし。」


「まあなぁ。ともかく今度は俺らが奢ろうぜ。世話になってるんだし。セナさんなに好きかなぁ」


誠司はうーんと考えている。


忍はそれよりも、セナの様子がおかしい方が気になっていた。


「あ、そいえばセナさんとんこつラーメン好きって言ってたよな。お前一緒に行ったんだろ。どの店?俺も行ってみたい」


「あー、いいよ。腹減ったし行こっか」


2人は忍が前に連れて行ってもらったとんこつラーメン屋に向かった。


2人はガラガラと戸を開けてちわーっと入った。

「らっしゃい!あ、前セナと来た姉さんか。今日は彼氏連れかい?」


店長が威勢良くからかってくる。


「全然ただの友達です。ラーメン2つください」


めちゃくちゃクールに答える忍。


「ずいぶん強そうな兄さんだねぇ。セナとは音楽つながりかい?」


誠司は笑ってそうっす!と答えた。


「店長、最近セナさん来てます?」


「いやぁ、最近は見ねえなあ。」


「そうっすかぁ。やっぱ、あのことで忙しいんすかねぇ」


忍はカマをかけてみた。


「そうだな、やっぱ彼女のユイちゃんかなぁ。具合が悪くなるとつきっきりになるからな。俺の店でちょっとバイトしてた時からそうだったよ。」


「僕たちちょっとしか聞いてないんですけど、ユイちゃん今どんな感じなんですか」


「ずいぶん長く入院してるみてぇだなあ。いつ意識戻るかも分からねぇみたいだしな。あいつほんと、一途なやつだよな」


飼い猫じゃねーじゃん。


忍はため息をついた。


誠司は難しい顔をして頬杖をついた。


「寝起きで目が3でも猫と人間は間違えねぇか。なんかシリアスな状況なんだな」


2人はラーメンを食べて、また来ます!と言って店を出た。


彼女がいつ目が醒めるか分からないというのは、いったいどんな気持ちなんだろう。


最近セナが忙しそうなのも、ユイちゃんの調子が悪いからなのかもしれない。



そんなこともあって、忍と誠司は、またセナのために、曲を作ることにした。


同情だとか、軽はずみな励ましじゃなくて、ただ、尊敬の気持ちを歌にできたらと思った。


忍は家に帰るやいなや、ノートに言葉を書き出していく。


ノートに書き出された沢山の言葉、文章。


あれ?


忍ははたとペンを止めた。


僕の書き出している言葉は、変人でバカでカッコいいセナさんへの…


「これって…」


忍は天井を見上げ途方にくれた。

これじゃあダメだ、これは尊敬とかじゃなくて


ラブソングだ。



「僕、詩が書けない」


「どーした、スランプか?」


「ラブソングになっちゃう」 


「えっ」


誠司は下を向く忍をジーッとみて真意を探った。


「ラブソングになっちゃうんだよ」


「それって俺が思ってることで多分あってるよな」


忍は黙っていた。


「ラブソング以外の才能がない」


「うるせーなバカなの?」


誠司の冗談に忍はため息をついて頭をぐしゃぐしゃとしてうなだれた。


「悪い悪い。

俺さ、お前がセナさん好きなことくらい、ずっと分かってたぜ。」


「えっ」


「お前誰か好きになったことねぇからテンパってんだろ。分かりやすっ」


誠司は図星で泣きそうな顔をしている忍の顔を覗き込んだ。


「ブフッ…初恋」


「うるせえな」


「最初の曲も、セナさんへの気持ちだろ。お前は気づいてなかったけど。


お前でもあんなこと言うんだなって意外だったよ」


「僕どうしたらいいと思う?」


「別にいいじゃん好きなら。どーでもいいよ、ラブソングでもなんでも作ろうぜ。」


クソッ…自分がムカつく。


こんなめんどくさい気持ちになってるなんて。


「いい顔してるよお前」


誠司が笑いながら言った。


「超苦しそう(笑)それを歌えばいいんじゃねえかな。

言ってたじゃんセナさん。今の自分で歌えばいいって。」


「そうだな。つーかそんなに苦しそう?」


忍は再び作詞に取り掛かった。


好きってなんだ、よく分からない。


こんなこと言っちゃいけないんだけど、

なんとなくユイちゃんが羨ましいような。


セナさんが喜ぶ顔をするなら、ユイちゃんが元気になって幸せになって欲しい。


だけど…僕はどこかできっと、セナさんを手に入れたい。


あーもう、わかんないよ…。


忍は初めて感じる感覚に 戸惑っていた。