事業承継問題に取り組む
開業前から興味のあった分野、事業承継。
そこそこの期間、そこそこの量を勉強・研究してきました。
山形県行政書士会の企業法務研究会で講師として研修会も開催しています。
しかし、行政書士が事業承継に携わるのはなかなかに難しいものがあります。
その理由の一つは事業承継は弁護士・公認会計士・税理士・中小企業診断士の4士業が専門家とみなされ、国もそれらの専門家に問題対応を要請していること。
経営革新等支援機関の認定というのがありますが、上記専門家4士業はその資格のみで認定を受けることができます。
その認定を受けると経営承継円滑化法の申請、事業承継補助金の専門家費用の対象専門家、事業引継ぎセンターからの専門家派遣の依頼を受けることができるなどの特典があります。
事業再構築補助金でも3千万円を超える申請には認定経営革新等支援機関の認証が必要です。
行政書士が認定経営革新等支援機関となることも可能ですがそれなりのハードルがあります。
事業承継には前述の4士業以外には参入障壁があると言えるでしょう。
行政書士は資格を取得するルートが数多くあり、経歴も能力も経験も個人差が大きすぎる点も行政書士を事業承継の専門家として挙げられない事情の一つと感じます。
元々行政書士は業務の範囲が非常に幅広く、何でもやる人から一点集中で専門特化している人まで色々な仕事の仕方、色々な行政書士がいる点も一概に行政書士を事業承継の専門家として挙げられない理由になるでしょう。
しかし、行政書士を事業承継の専門家と言えないとしても、事業承継を専門にする行政書士は成り立たないでしょうか?
ところで、現時点で日本の事業承継問題は解消に向かいつつあると言えるでしょうか?
答えは「否」です、明らかに。
専門家とされている4士業の他にも、事業承継を支援する機関が数多くあります。
地方自治体、商工会・商工会議所、金融機関、よろず支援拠点、事業引継ぎセンター。
民間でもM&A関連業界は元々事業承継は関連業務と捉えています。
それだけの団体、専門家がいてもまだまだ解消にはほど遠い状況です。
問題解決に必要な、専門家に求められる能力が相応に高く、そして多角的です。
あまりにも複雑で難しい問題だからこそ、なかなか解消されずにいるわけです。
事業承継はどんなに有能な専門家であっても一人で解決できるような問題ではありません。
経営・法務・財務・税務・労務・許認可・人材育成・企業内統制・知的財産・知的資産・保険・経営者保証など事業運営に関するあらゆる面に対応し、尚且つ引退する経営者の引退後の生活やその家族、株主、役員・従業員のことまで将来に向かって配慮し、遺言・相続の支援まで要します。
上記の課題解決に順を追って、関わる人たちの感情面まで配慮しながら、事業承継計画立案し、その計画の実行を指揮し、承継後の支援までしなくてはなりません。
それぞれの分野の専門家が連携しながら進めなければ安心できる事業承継にはなりません。
それぞれの分野の専門家がそれぞれに自己の分野のみ全うしても全体の統括者がいなければ難しい面があるでしょう。
では、全体の統括者は何をすべきか。
対象企業内・事業・業界の膨大な情報の収集と精査。
対象企業の認識されていない価値の探索。
属人的な技能を継承可能な技術、知的資産へと変換。
課題の抽出とその対応策の立案、適材適所の人員配置と連携。
後継者がいればその育成と人脈・信頼の基盤形成、いなければ探索または他の道の模索。
事業承継に絡む財産移転の税金対策と資金調達策の立案。
引退する経営者と後継者、企業に関わる人たち全体の将来に安心・安定・安寧を与える。
更に次世代まで遺せる企業に成長できる可能性の種を植えておく。
ざっくりしていますがぱっと思い付くのはこんなところでしょうか。
これらを進めていくにあたって専門家が存在する分野については熟知しておく必要はない。
そして、統括者・監督者・指導者・指揮者・教育者と立ち位置を変えつつも、決して自らが課題に取り組むプレイヤーに成り代わってはならない。
プレイヤーの課題はプレイヤー自身が克服していかなければ身に着きませんし、最終的には結果に対して納得も理解もできません。
諭され、導かれ、示されての結果だとしても、自ら気付きを得て、自らの意志で課題に向かい合ってそれを克服した者はその分だけ強くなります。
応急処置を施しただけで問題を解決したと判断するのは誰の為にもなりません。
経営権、株式の移転だけで事業承継が完了するのであれば大した問題になっていません。
事業承継を機会に企業を整頓し、第三者視点からも魅力的な企業へと磨き上げ、将来に向かって成長戦略を立てられなければ本当の成功とは言えないのではないでしょうか。
事業の継続性・発展性・成長性を高めれば後継者候補が集まってくるのは必然。
信頼される企業、事業内容となれば経営者保証も不要になるのも当然。
事業承継を真に成功させたいのであれば、総合的にコンサルティングできるだけの能力と覚悟、そして情熱が必要なのではないかと。
時には外科的な処置を要する場合や、状況や条件と照らし合わせて敢えて邪道を選ばなければならないときも、冷徹に余命宣告をしなければならないときもあるかも知れません。
手に負えない、手に余る、手が出せない案件も出てくることでしょう。
事業承継の全体統括者を漢字一文字で表わすとするならば「帥」でしょう。