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TRAINSIT

南米リターンズ-2-

2020.01.16 11:52

久々のNYの雑踏を心行くまで満喫し、程よい疲労感で空港に戻った私は、ヲタク的感性が衝動的に買わせたTWAトートに荷物を詰め替え、保安検査を抜ける。検査官とTWAホテルのエロシティズムを讃えあいながら。ラウンジで晩飯を掻き込み、シャワーを浴び、いざ目指すは南米…、とここで早くも南米の洗礼。

搭乗便のゲートが定まらず、あーでもないこーでもないとアナウンスが二転三転し客もその度にデカいコンコースの端から端まで右往左往の民族大移動。その様子は民族大移動どころかロデオと表現しても差し支えないだろう。アナウンスは信用できないし乗客の動きを見ても誰もが自信なさげ。そもそもコンコースのどこを見てもLATAMの関係者の姿が見当たらない。結局どこが正解なのかどちらが正解なのか?もう歩きたくない思いと共に湧き立つ疑念に駆られ一度は振り落とされかけた。そこからの過程はあまり記憶に定かではないが、結局のところ爆睡した次の瞬間にはペルーはリマの国際空港に降り立っていた。

そして南米の洗礼第二弾。通過迄何時間とかかるかわからない長蛇のイミグレ。刻一刻と近づく乗継便の時刻。周囲を見ても同じような乗り継ぎ時間でクスコへ乗り継ぐ客も多く皆が皆そわそわしている。あの手この手で乗継便には間に合わせた。今回のツアーは3人。リマで合流する予定の各々がそれぞれのルートで洗礼に遭っており、危うくただ一人で最終目的地の空港に降りてしまうところだったが何とか一人の脱落に留まり、一旦は今回遠征最初の獲物が生息するところであるペルー最南端にほど近いイロの街へ投宿となった。

翌朝。いよいよ獲物を求めてフィールドへ向けて車を走らせる。辺りはいかにも砂漠然としたサラサラの砂質の荒野が広がる。これこそが今回狙うSCCP、銅鉱山専用線の魅力。世の中には砂漠は数多あれど、岩砂漠・・・・と純粋な砂丘の広がる砂砂漠は以外にも限られる。

今回の路線は沿線に比較的砂丘に似た景観を持つと共に、エリアによっては深い渓谷を攻略する為にそれはそれは壮大で迫力ある線形を取ることで知られる。「知られる」というのも、日本人には恐らく資源系を扱うビジネスマンか地理学徒にしか馴染みのないこの場所ではあるものの他の大陸の鉄道趣味者からは度々撮影者が訪れているからこのように表現させてもらった。日本からは確かに遠く、長距離フライトを二回も繰り返す必要があるのだがかたや北米ヨーロッパからしてみれば日本から見たタイか遠くてもドバイ程度の距離でしかない。つまり比較的に行きやすい立地に位置しているのである。そんな好立地の素晴らしい景観地にあって、編成後部に緩急車がつく中々に味わい深い編成が組まれ、積出元の鉱山が二系統あることもあり列車は2列車続行運転が定番。運行ダイヤもある程度パターン化されている(午前に港行き、午後に鉱山行き※原則。例外あり。)という撮影者に優しい仕様。ヲタクを惹きつけないわけがない。

散々勿体ぶったが、つまりこういった光景が見られる。

これだけでも既にお腹いっぱいなレベルなのだが、これでもまだこの路線の真髄には至ってはいない。

イロへ遅れてやってきた一人を車へ回収し、勿体ぶることなくこの路線の真髄・ご本尊ええいなんでもいい。とにかく夢にまで見たその場所へ向けて荒野を爆走する。

やがて着いたその場所は、今にも崩れそうな礫の丘がそそり立ち、風もないこの日は一切の音も存在しない浮世離れした世界であった。一枚の写真ではとても状況は表現できまい。パノラマで見ていただこう。

岩と砂だけの世界。それでいてこの極端な高低差。そこを数多のオメガを描きながら横たわる鉄路。一度大雨が降ればただちに流されかねない脆い見た目が不安を煽り、圧倒的非現実の光景の中にいる我々の心を更に揺さぶってくる。こんな路線が他にあろうか。知る限りでにおいて、渡航時の2019年末時点では他にない。どうしてもどうしてもこれが見たくて一年のうちに2回もの南米渡航をするという奇行に駆り立てた。

この数年、世界各地の辺境を巡り巡ってきたがここに来てその最もハイレベルなモノを目の当たりにしたような気がする。地球上にこのような場所が存在するとは思いもよらなかった。他にも幾らでもダイナミックな景観は存在するがここは兎に角一切の生命の気配がしないのである。火星を通り越したどこか。もはや鉄路抜きに単純に地形に圧倒されるばかりであるなか、彼方からドロドロと重いディーゼルサウンドが聞こえてきた。その前には露払いの保線車が線路異常を確かめながら可愛らしくトコトコ走っている。

※保線車。別ポイントにて撮影。

幾重ものオメガ、何度も何度もカメラの向きを変えて列車を撮って撮って撮りまくる。

我々が圧倒されて立ち尽くしているこのロケーションもこの鉄道に従事するものにとっては日常なのだろう。彼らにとってのこの地域のこの風景はどう目に写っているのだろうか。今更ながら突撃インタビューしておけばよかった。解答に困るかもしれないが…きっと自分ならそんな気がしないでもない。隣の芝は青い。青すぎる。

2本の貨物列車を撮ったあとはそそくさとイロの町に戻る。日の暮れるまでフィールドに居たって特に収穫もあるはずもなく、迷う余地もなく撤収の判断が出来る。これも運行パターンが明確なこの路線の良さ。1日がメリハリよく進んでいく。

翌日は早くも今遠征SCCP線の撮影最終日。慣れた動きで列車を追っかけ回す。


そして次なる獲物を求めて意気揚々と転戦。この後、どんな事件が待っているか。我々はまだ気づいてはいない。