【10000万字インタビュー】反響により待望の続編!先生たちに聞いた!「大豆ミート」のこれからの話②
こんにちは、レシピ制作専門スタジオ、菜々食クッキングクラス事務局でございます。
さて、前回、「先生たちに聞いた!「大豆ミート」のこれからの話。」というインタビュー形式の企画を実施しました。先生方にお答えいただくという新たなスタイルの企画を公式サイトで発信するという試みでしたが、「今まで見たことがない内容だった」「素敵な企画を実現していただいた」と大変ご好評という結果となりました。
https://saisaishoku.amebaownd.com/posts/23352759
教室の関係者はもちろん、「大豆ミートに興味があったので良かった」「今までとは違った視点を得ることが出来た」など多くの方にご覧いただき、まだまだ聞いてみたいというお声もいただきました。
特に教室の生徒の方は神戸だけではなく、各地に卒業生がいることもあり、先生方の見識や見解に興味を持っているという卒業された生徒の方も多くいらっしゃいます。
そのため、前回に引き続き、続編としてさらにパワーアップし、なんと10000字越え!(正確にはもう少し多いです)指宿さゆり先生、スタジオ代表の御二方にお話を伺うことにしました。
前回のインタビューに続き、今回もテーマは大豆ミートに関して。近年、大豆ミートを使った商品も多く展開され、百貨店やスーパーマーケットなどでも特設コーナーが設けられるほど、一般的に普及してきました。大豆ミートとは、大豆を肉のような味や食感に加工した食品のことです。もちろん、大豆ミートを起点としつつ、内容は日本でも流行となり始めている野菜だけの食事法、野菜中心の料理、代替肉のことについて聞いてみました。
多くの方が関心を持っているものだからこそ、先生方にお話をお伺いし、理解を深めていければと思います。
野菜だけの食事法、野菜中心の料理をテーマとした料理教室も数多く開催され、生徒の方の体質や食生活などをヒアリングしたうえで、実施されている教室。前回に引き続き、大豆ミートについて、先生方のエピソードからお聞きしたいと思います。
「まずは前回のインタビュー含め、色んな方に記事を読んでいただけたことに感謝したいと思います。同時に世の中がどれだけ注目をしているかということが、改めて認識できて良かったです。大豆ミートが普及する以前、野菜だけの食事法、野菜中心の料理、精進料理と実践する中で、肉や魚、卵を使わないで、どのような料理が提供できるかということを考えてきました。当初はお肉もどき、動物性食材を使用していない植物性のお肉、お肉と言いますか、例えば、豆腐や車麩、高野豆腐、おからこんにゃく、テンペ(インドネシアの伝統的な発酵食品)など、肉の代替となる食材を多く扱ってきました」
プライベートレッスン、個別のレッスンだけではなく、時には料理が苦手だという方、幅広い年代の方が集まる場所でも教室を開催された経験のある先生方。これまでのご経験から振り返ってみて、現在の状況をどのようにお考えでしょうか。
「今ほど肉の代替となる食材の情報も乏しく、様々な資料も集めながら料理の大系を構築していきました。10年前、20年前であれば、大豆ミートがここまで受け入れられるとは、正直なところ、想像はできなかったですね。サンプルとして提供することも多かったですが、デイリーユースになるという事例は少なかったように思います。それと生徒の方々から、大豆ミートも関心はありましたが、豆腐やコンニャク、車麩などの料理にも興味を持っていただいたというのもありますかね。大豆ミートを取り寄せ、実食した時は本当にお肉みたい!と思う反面、果たして、多くの方に受け入れていただけるだろうか?という気持ちがあったと思います」
その話、もう少し詳しく教えていただけますでしょうか。
「わかりやすく言えば、仮にある日の晩御飯がステーキだったとして、次から代替肉になったとして、仮にお肉たっぷりのカレーが代替肉のカレーだったとして。ご家庭での摩擦なく、移行することが可能なのかどうか。生産する側、供給するサイドがどうぞどうぞと言っても、実際のユーザーはどうなのか。私たちの場合、料理教室では色んな生徒の方、高齢の方もいれば、20代の方もいれば、パートナーは菜食にあまり関心のない方、もちろん、家族で菜食に取り組みたいという方、健康のために食生活を見直したい方、本当にバラエティに富んだ方がいらっしゃって。すでにベジタリアンであったり、玄米菜食であったり、ヘルシー志向であったり、そのような方であれば、こんなに美味しいなんて!と言っていただけるのですが、そうではない方も多いのが私たちの教室でした。そんな生徒の方々の反応をダイレクトに見てきたので、大豆ミートであれば、下処理の工夫、味付けの工夫、料理としての活用法ということでは、単なる代替では満足できないだろうということを目標としていたと思います」
単に代替肉を使用するということが目的ではなく、受け手の食べる笑顔を大切にしてきたという先生ならではのエピソードでした。メーカー側が用意したものに対し、そのまま消費者に受け入れてもらえるほど、容易なものではないということでしょうか。先生方の場合、どのように取り組まれたのでしょう。
「料理教室の場合、レシピで料理を教えつつ、作りながら生徒の方々の反応を知ることができます。実際の反応を見るからこそ、推奨する以上、その推奨だけの根拠と言いますか、エビデンスは必要ですよね。何より、美味しいと思っていただけるための工夫は必要でした。その点でいえば、元来、肉を使わない精進料理を知り、精進料理のエッセンスを活かしつつ、海外料理、アメリカでも料理を学びましたが、イタリアンやフレンチ、中華料理、エスニック、色んな料理からアイデアを集め、可能性を探ってきました。料理教室で学んでいただいたメニューをご家庭に持ち帰り、実際に作り、パートナーの反応をヒアリングするということもしましたね。お肉が好きだというパートナーがいて、健康のために少しでも菜食を取り入れてもらうため、教室で勉強したいと遠方から通っていただいた方もいました。いきなり菜食ではなく、導入しやすいようなメニューを教えました。少しずつ肉食を減らすことができ、パートナー自身も快調ぶりを自覚したようで、喜んでいただいたこともありました」
続いて、大豆ミートに関心が集まっている理由についてお聞きしました。
「時代の変化だと思いますが、環境意識に関する世論調査などで分かる通り、気候変動や温暖化の影響を実感するのはどれくらい先か聞いたところ、既に実感していると答えている方が過半数をこえているとか。近年ですと、やはり、SDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)の与えている影響と言うのは大きいと思いますね。世界的な人口増加の問題は、もう何年も警鐘されてきましたが、その問題に対する意識の変化というか、食糧難と言うことに加え、動物性たんぱく質の将来的な不足、家畜や魚を育てることによる二酸化炭素や汚水の排出を含め、環境に関する意識がさらに高まっていると思います。オーガニックや有機もそうですが、消費者の声が高まれば、サイクル的に生産側にも影響を与える流れは、もはや必然であると考えています」
時代の変化という点がとても興味深いです。先生自身、教室を立ち上げたのが2002年で、その以前より色んな準備をされていたとお聞きしました。
「教室を立ち上げる数年前、アメリカで料理の経験を積んでいました。いわゆる欧米食で、華やかな料理に魅了されました。栄養バランスや最適な量を考えれば問題はないのですが、どうしても過食気味にはなるし、糖質や脂質、炭水化物に偏ってしまっていた。そこでやっぱり、健康的な食事を実践しようと思い、単に健康なだけではなく、それまで培った料理を活かそうと考えました。教室を立ち上げた頃、玄米自体がなかなか受け入れてもらえなかったし、粗食というマイナスのイメージが根強かった。オーガニックや有機食品も今ほど普及していなかったと思います。令和の時代では一般的なスーパーマーケットでも入手できるようになりましたが、教室を準備している頃は、一部の生産者から仕入れたり、専門の業者を頼ったり、自然食品の売り場で購入していました」
料理教室では講義の時間も設けることで、より深い理解を生徒の方々が体得され、やがて学んだ経験をカフェの開業などにつなげっていったとか。オーガニックや有機食品の提唱にも取り組まれてきた先生方だからこそ、時代の変化を敏感に感じ取っています。その傾向から見て予想されることをお聞きしました。
「今後、大豆ミートを含め、環境意識として、広告や商品パッケージなどで、環境に配慮して作られていることをアピールする商品はどんどん増えていくと予想されます。飲食店、もっと言えば、専門店ではなくともよりカジュアルに、そうした訴求というのは増えていくのではないでしょうか。20年近く前、オーガニックや無農薬の魅力を探求し、そもそも、オーガニックとは何か、無農薬とは何か、講義形式で教えることから始めました。それから次第にオーガニックもブームになったし、一部の専門店が扱うものではなく、手軽にオーガニック食品を購入できるようになってきました。食品添加物の問題もそうですが、消費者の活動や声を上げるということは大事な役割の一つだと思っていて。環境意識が高まれば、次第にマーケットにも影響を与え、商品のメッセージにもつながっていくのだと。実際、フードだけではなく、ファッションの分野でもサスティナブル素材を使った衣服であったり、動物性由来ではなく、何らかの生産工程上発生する原材料を有効活用するものであったり、食を基軸として様々な方面にも影響を与えていることだと実感しますね」
先生はアメリカで料理の経験を積んだとお聞きしました。各国の方と料理の話をするということもお聞きしました。最近では、一般家庭の食事だけではなく、学校給食でも大豆ミートをはじめ、肉を使わない給食の導入が進んでいるというニュースがありました。学校給食という視点での大豆ミートについてお聞きしたいと思います。
「アメリカの話になりますが、ある学校では、プラントベースで、かつ乳製品や卵も一切使用しないヴィーガン対応の食事を提供しているそうで、ニューヨークの公立学校では、毎週月曜日に給食で肉類を提供しないミートレスマンデー(Meatless Mondays)というものがあります。アメリカにおける導入は、その背景が興味深くて、ある街の市長によれば、肉の消費を少しでも減らすことは、そこに住む人々の健康改善につながり、温室効果ガスの排出量削減にもなると言った趣旨の発言をされたそうです。ヴィーガンチリやヴィーガンのテリヤキバーガーと言ったように人気のある肉料理を野菜だけの食事法、野菜中心の料理に代替したものが提供されています。これはこれで、アメリカならではの食文化を背景にした料理で、美味しいものであれば、普及するのに時間は要さないと感じました。日本での給食もこの辺りの食文化のルーツを起点としたものがもっと増えていくとよいのではないかと思います。ただ、アメリカの場合、生徒の健康面への配慮と言うのが第一で、過去の食生活への反省の意味もあり、プラントベース給食導入の理由になっているということですよね。ヨーロッパでは健康意識もあると思いますが、どちらかと言えば、環境面への配慮によるものでしょう。肉の消費を減少させるというものではなく、給食での肉類の提供をなくしていく動きもあるとか。オックスフォードの中学校だったと思いますが、昼食時に1種類のベジタリアン対応の食事のみを提供する学校があったり、フランスでは学校で菜食主義の日を週1日は設けるよう法整備がされてたり、お肉もいいけど、野菜も食べようというものではなく、お肉を無くしていこうとするわけですよね。気候変動のストライキに参加する学生の数が増えているというように、気候変動、環境保全のためにライフスタイルを選択していくということを体現しているのではないかと思います」
アメリカやヨーロッパなどの動向を踏まえたうえで、学校給食への導入の現状や背景を知ることが出来ました。それでは日本の学校給食という点ではいかがでしょうか。
「日本の場合、大豆ミートに近い例で言えば、玄米菜食、玄米ご飯を提供するという学校はありますよね。発芽玄米には精白米に比べるとビタミン、ミネラル、食物繊維なども豊富なので、体調が良好になったと自覚する傾向の強い食材ではあり、これに関しては児童からも比較的前向きな回答が多かったと記憶しています。もちろん、食物繊維の排出する働きも踏まえた上ではありますし、排出によって喪失されるリスクをカバーするために別の食材で補給するということを前提とした上で。特にパン食やファストフード、糖質の多い炭酸飲料などの食事に偏っているという子どももいると思いますので、白米以外の選択肢として、子どもたちに知ってもらう点ではよいのではないかと思います。小学校、中学校の給食に大豆ミートを導入している例も少ないわけではなく、近年の兆候であるSDGsについて考える、多様な価値観を学ぶ、どちらかと言えば、食育や環境問題の取り組みという視点での導入が進んでいるのではないでしょうか。給食のメニューは基本的に代替と言う点が多く、スパゲティミートソース、そぼろごはん、ドライカレー、麻婆豆腐などが多いようですね。共通しているのは、主にひき肉の代替で、これらの料理は肉料理から大豆ミートに代替しやすいですし、学校給食のように大量に調理することを想定すれば、ベターな選択ではないかと思います。仮に給食での利用を考える場合、なぜ、ミンチタイプが主流になっているのか、この辺りも判断基準になると思います。ミンチタイプ以外のブロックやフィレタイプの場合、難易度で言うと少しだけ上がると思うので、調理をする方々の現場も含め、創意工夫が必要になると思います。アメリカ料理でスラッピージョーというのもがありますが、牛肉や豚肉、たまねぎなどを煮込んだアメリカ発祥の料理で、スラッピージョーが提供されたことのある学校もあったと思います。子どもと言うのは好奇心旺盛ですから、普段とは違った食事と言うのは喜ばれるのではないかと。ヴィーガン代替の場合、牛乳も変更となるので、牛乳以外の飲料になって良かったなぁというケースもあるかもしれません」
教室の生徒の多くは成人した方がほとんどですが、キッズシェフを養成したい、子どものうちから食育を学んでほしいという声もあるほど。屋外のイベントでは子供向けの料理教室もあり、身近なところで、子どもたちの食生活を聞いたり、どんな食べ物が好きか尋ねたり、料理を進めながら子供たちとの触れ合いを経験してきた先生方。大豆ミートが学校給食に提供されることも踏まえ、率直なご意見をお聞かせください。
「代替肉の導入というのは、もちろん条件付きではありますが、選択肢の一つとしてよいのではないかと考えています。今後、一般的なスーパーマーケットで並ぶということを考えれば、子どもたちが大人になった時、お肉を買うべきか、代替肉を買うべきか、週に一度は代替肉にしてみようか、あらゆる選択肢の中で、その物差しの一つを担うという意味での必要性はあると思います。10年後、20年後、今よりもっと代替肉と言う選択肢がスタンダードになっていくと考えています。もちろん、既存の食事と比較したうえで、よりベターなもの、環境意識の変化だけではなく、食育と言う点、こんな食事の選択肢もありますよという意味で。日本の場合、現時点では法整備したり、自治体で強制したり、可能性としてはゼロとは言い切れませんが、そのような動向ではなく、環境について学ぶことの一環であり、食育と言うテーマで提供されているケースが多くなっていくと思います。その場合、やはり提供する側の理解はもっともっと促進されるべきですし、世の中で話題になっているから、日本以外の世界では導入している学校があるから、という理由のような短絡的な考えでは不十分で、やはり、長い目でみて、本来の目的を解釈できているかどうか、自分の言葉で相手に伝えることができている状態なのか、振り返りながら見つめ直していく時期がやってくるのではないかと考えています。授業で学ぶにしろ、意識を高めるため、単に一方的に伝えているだけではダメで、伝えているメッセージが伝わっているかどうかが大事ですよね。具体的な方法として代替肉にした場合とそうではない場合の児童の変化、体質などの変化はもちろん、日常の食生活への影響を含め、しっかりと観察し、データを集めていくという機会も設けてもよいと思います。たとえそれが想定しているような成果ではなかったとしても共有されることがあればいいなぁと。児童だけにとどまらず、保護者なども含めたうえで、メッセージやイメージを共有していくことが大切であると思います」
先生方は給食センターや施設も視察に行った経験があるとお聞きしています。もし仮に先生方が大豆ミートの導入を含め、学校給食における代替肉の是非を問われた場合、どのようにお考えでしょうか。
「大切になるのは、単に肉の代替ということではなく、やはり、なぜ、代替する必要性があるのか、丁寧に教えていくことが大切ですし、教える側もできるだけ実践しているか、実際に代替したことでの変化などを体得していることが望ましいと思います。すでに実施されているものは、地産地消の取り組みで、例えば、兵庫県であれば、県産食材の使用、市町村の食材や野菜を推奨するといったようなことは実践されていますよね。給食に使用するものをオーガニックにするという、いわゆる、オーガニック給食の取り組みと言う案もありますし、色んな選択肢が増えていくと思います。ただ、そうしたニュースが飛び交う一方、やはり、立ち止まって本質的な意味を考え、理解することが求められていくと思います。個人的にはアイデアの根幹がしっかりとしていれば賛同できますが。仮にオーガニック給食を声を大にして提唱するのであれば、提唱者サイドで、果たして本当にオーガニックを選んできたのか、なぜ、オーガニック給食なのか、オーガニックと農薬散布量の関係はどうなのか、安定供給という視点で、長期的な計画はできるのか、この辺りの議論は必ず必要になるはずです。時代の流れで、昨日までお肉などが大好きだった人が、急にオーガニック給食をやりましょうと言われても、なかなか理解が及んでいないのかなぁと感じてしまいます。当たり前のことですが、学校の先生は教員免許を取得するうえで、それに必要な教育課程や実習を踏んでいるわけで。地産地消の必要性にしても、規模の経済という点では一部の食材は地産地消にこだわらないという選択肢もあるでしょうし、個人的には郷土を理解するという意図、それに身土不二、その土地ならではの気候や地質に適した食材を使うという地政学と栄養学によるもの、これらの背景を理解したうえで、やはり導入を決定するべきだと思います。それに決定プロセスも公正にするため、よりオープンかつ、一方向的な説得や交渉ではなく、より幅広い方、子どもたち、保護者も満足するような取り組みが必要になると考えています。今後、既存の食生活とは違ったものを提供する以上、実体験も含めたうえで、何が最適なのか、しっかりと考えるということがより一層、重要になるのではないでしょうか。特に注意しなくてはならないのは、子どもの成長期というのは、身体の成長を含め、期間が限定されているものということです。成人しているのであれば、ある程度、選択する能力も備わっていますし、極端なことを言えば、代替肉を選択するかしないかは、個人の範疇です。学校生活と言うものは、後になって取り戻せるものではないということで、その辺りを議論するのであれば、議題のテーブルにのせるべきでしょう。もっと言えば、食事を提供するというのは、単に腹を満たすため、栄養補給だけではなく、やはり、その食事の時間を共有するということの意味も含め、重要な教育の一環でもあると考えています」
確かに一方通行の導入ということでは、仮に代替肉や野菜だけの食事法、野菜中心の料理の給食が導入されたとしても、想定している成果を得ることは困難であると思いました。それでは大豆ミートを取り入れる、代替肉を導入するという点で、栄養や健康という点でのご意見をお聞かせください。
「大豆ミートの栄養という点で言えば、大豆由来の食物繊維が多く含まれていること、ビタミンB群やカルシウムなども豊富で、飽和脂肪酸がほとんど含まれていないことでしょうか。普段の食生活で、肉食に限らず、脂質が多すぎるという場合、繊維質が不足しているという場合、大豆ミートに代替するというのは有効であると考えています。コレステロールも含まれていないため、コレステロールや血糖値の上昇を抑えるという効果も期待できるでしょう。肉類の代替としては良いと思いますし、取りづらい栄養素を取れるという利点があると思います。肉類を食べないことでのリスクは鉄分の不足。鉄分にはヘム鉄と非ヘム鉄と呼ばれる種類があり、簡単に言えば、お肉や魚に含まれているのがヘム鉄、野菜や海藻に含まれているのが非ヘム鉄です。非ヘム鉄は、小松菜やホウレン草、パセリといった野菜、ヒジキや海苔などの海藻類に含まれているため、これらの鉄分を補う食材というのを取り入れるとベターではないかと思います。それから大豆イソフラボンの効果で、大豆イソフラボンと言えば、女性の更年期障害の予防や緩和に期待ができると言われていますね。もちろん、イソフラボンは大豆製品全般に言えることですから、代替肉という視点だけではなく、お肉を食べる代わりに豆腐を料理にしてみようかとか、車麩でアレンジしてみようとか、そういう選択でもよいと思います」
大豆ミートの栄養などについても理解することができました。それでは今後、学校給食だけではなく、どのようなシーンで活用されることが予想されるのでしょうか。
「お肉をたくさん食べられないという方や、脂肪分が多くコレステロール値が気になるというケースには大豆ミートは有効な選択だと思います。その点でいえば、学校給食だけではなく、療養食、従業員向けの飲食施設などでも提供されていくでしょう。ただ、コレステロールについていえば、コレステロールは身体に悪いもの、摂り過ぎてはいけないものと言ったネガティブなイメージばかりが先行していますが、コレステロールは私たちの体内に存在する脂質の一つですし、細胞の膜や身体の働きを整えるホルモンの原料となると言われるため、一概に下げればいいというものでもないと思います。それと一概に肉食だけが数値の判定に影響しているかどうか、冷静に考える必要性があり、例えば、飲み物や処方されている薬なども考慮するべきでしょうし、運動習慣を含め、食事療法ではなく、体調を管理する習慣をつけるとか、別のアプローチがあってもいいと思います。代替食というアプローチ以前に、LDL(悪玉)コレステロール値が高い場合、食事療法などで一般的に勧められるのは、地中海食と呼ばれるもの。わかりやすく言えば、フルーツや野菜を多く摂取し、全粒穀物や豆類、ナッツ、種子類を食べ、オイルはオリーブオイルを使い、魚、鶏肉、乳製品によるタンパク質の摂取をするものです。魚や鶏肉の代替として大豆ミートなどの植物肉にしつつ、もちろん、それでは不足しがちの栄養素もありますから、その点を別の方法で補っていくというのが有効ではないでしょうか」
大豆ミートや代替肉が話題となり、購入を考えている方も増えていると思います。これから購入を考えている方が気を付けるべきポイントはあるのでしょうか。
「植物肉は、大豆搾油後の残渣物である脱脂加工大豆を主原料としているものと、原料に丸大豆をそのまま使用しているもの、大豆そのものから旨味成分や栄養価を引き出すことに注力しているものがあります。そのため、裏面の表示などを確認するとよいと思いますし、メーカーが用意しているホームページなどで、どのような生産工程なのか、調べてみることをおすすめしています。それから商品によって乾燥タイプと、そのまま使えるものがあります。乾燥タイプのメリットは常温で保存ができ、使いたいときに使うことができるという点で、簡単に言えば、スパゲッティのような存在だと思ってください。ただ、スパゲッティは湯を沸かし、茹でる必要があるように、乾燥の大豆ミートは水戻し、茹でるというプロセスが必要になってきます。これに加えて大豆ミート特有の風味が苦手だという場合、茹でる回数、水洗いの回数を調整したり、下味をつけたり、味付けを考えたりする必要もあります。購入後のプロセスは消費者に委ねられているという状況下なので、買ってみたけど、思ったようなものにならなかった、家族やパートナーの反応がイマイチだったということもあると思います。その意味ではある程度の知識や理解が必要なものであると言えるでしょう」
近年、大豆ミートの商品だけではなく、加工食品含め、スーパーマーケットでも特設のコーナーを設けているケースが増えてきました。この現状についてお考えをお聞かせください。
「加工食品についてですが、2020年前後、特にアメリカやヨーロッパで急速に代替肉、プラントベース、野菜だけの食事法、野菜中心の料理が普及する頃、日本でも発展していると感じますね。海外の流れとは背景こそ違いますが、若い人の間では文化的にも環境意識の高まりというのは需要があると思いますし、日常のアクションの中で、地球環境に少しでも良いものを選びたいということでしょう。そうしたユーザーの動きが商品を進化させると思いますし、比較的、家庭で取り入れやすいものが増えていると思います。例えば、大豆ミートのハンバーグ。大豆ミートのハンバーグではありますが、赤ワインを使った旨みのあるデミグラスソースで煮込んであり、この辺りの工夫は、やはり、2025年、2030年の市場を見込んでのことだと思います。大豆ミートの肉だんごというのがありますが、甘酢あんがまろやかに作ってあったり、大豆ミートのメンチカツでは玉ねぎの食感を活用していたり、デイリーユースで使うということを想定していると思います。ただ、多くの場合、卵白を使用している加工食品が多く、ラクト・オボ・ベジタリアン(植物性食品と乳・卵を食べるタイプ。牛乳や チーズなどの乳製品のほかに卵も食べる)であれば問題はないのですが、厳格なヴィーガンの場合ですと選ぶことができないため、乳製品を使用していないもの、もっと言えば、環境保全やサスティナブルという点での工夫も増えていくと思いますし、細分化されていくのだと思います」
大豆ミートだけではなく、近年、ますます健康に対する意識も高まってきました。
「大豆ミートに限らずですが、低糖質・高タンパク質という食事が注目されています。アスリートやスポーツ選手だけではなく、糖質に関する意識、加えてタンパク質の不足に関する認識が増しているのは良いことだと思います。この影響で、糖質が多く含まれるお米、パン、パスタ(ヌードル)といった主食に代替されるものが需要として増えていくと感じます。例えば、ダイズライス、大豆パスタのように大豆で作ったグルテンフリーの低糖質の食品が増えていますが、今後もそのような商品は増えていくと思いますし、まだまだ、糖質オフできる食材は多いはず。個人的には食材の代替にとどまらず、糖質をオフする分、どうすれば、満足いただけるか、どのような味が求められていくか、この視点での展開がこれからの時代には必要になると思います。そして、懸念しているのは、そうした売り場が実際にどうなのか、具体的には消費者にメッセージとして低糖質や高たんぱくがどうして必要なのか、伝えきれているかどうか、根っこの部分が届いているのかどうか、この辺りはまだまだ発展途上ではないかと思います。また、大豆商品だけではなく、植物性のツナ、植物生まれのビオバターのような多種多様な代替商品も増えてきていますよね。様々な商品群の中で、どのようなものを選んでいくべきなのか、消費者側も悩んでいると思います。この分かれ道は非常に重要で、魅力が伝われば、消費行動に影響を与え、生産にも関わってきますし、選ばれていくものによって、将来の売り場、市場が変化していくことに注目していきたいと考えています」
消費者の選択次第で、市場が変わる、売り場が変わるというのは興味深いお話です。最後に先生方にお聞きしたいと思いますが、大豆ミート、野菜だけの食事法、野菜中心の料理に関して近年、取り組んでいることはあるのでしょうか。
「大豆ミートのサンプリングについては、乾燥タイプ、レトルトタイプ、様々なバリエーションを試してきましたし、その素材をもとにした料理も数多く作ってきました。ヴィーガン料理に関しては、あるプライベートレッスンではレシピ数だけで300以上のバリエーションのレシピを作りましたし、レッスンの中で講義も提供してきました。レシピサイトなどでは、1200品をこえる野菜だけの食事法、野菜中心の料理を制作、監修、料理撮影まで行ってきました。その中で大豆ミートを扱うことも多かったですね」
様々な種類の大豆ミートを扱ったことで、そのご経験や知識をもっと知りたいと感じました。数多くの経験を積むことで、新しい世界が広がったとお聞きしました。そのお話をぜひお聞かせください。
「やはり撮影もするということで、料理の工夫はもちろん、盛り付けなども重要になってきます。人は見た目がという論説にある通り、料理も一定の見た目は大事なんだと。その辺りの経験から、見た目の美味しさというものもかなり意識しています。ですから、料理を見ただけで、どれだけこだわっているかどうか、作り手の真意がわかるようになってきました。大豆ミートに関して言えば、これまでの大豆ミートのレシピというのは、基本的に肉や魚を使った料理が前提にあり、その肉や魚という素材を置き換えるというものです。その経験を通して実感するのは、やはり代替するということが本当の目的なのか、代替することで、美味しいという視点を置き去りにしていないかどうかということです。既存のレシピサイトなどでレシピの通りに作ったものの、あまり満足できなかったというケースも出てくるのではないかと懸念がありますし、実際に生徒の方から、ヴィーガンに限らずですが、栄養バランスの偏りであったり、脂質や糖質過多であったり、体調がよくならないと言った相談を受けることがありますね。先程の話にもありますが、一般的な主食であるお米、パン、パスタがあったとして、その代替としてプラントベースにする場合、単に置き換えてしまえば、確かにゴールは達成できるのかもしれませんが、なかなか日本で普及しないというのは、やはり、美味しさ、ブームからスタイルへの定着化、習慣化において、まだまだ課題があったからではないかと思います。いきなり代替肉を提案ということではなく、どうすれば日常の食事に落とし込んでいけるかどうか、アイデアが求められていくことでしょう。そのためには代替するということは出発点であり、物語の序章に過ぎないのだということを共有することが大切ではないかと考えています。ですから大豆ミートを買おうと思いますと相談を受けた場合、それでは、ようやくスタートラインに立ったから、さぁ、どうやって美味しく調理しましょうか、どうやって下処理しましょうか、完成させる料理はどのように仕上げましょうか、そういった川上から川下まで、材料の調達から最終のパフォーマンスまで見届けるようにしています。レシピを作る上でも既存の料理への理解をベースとしつつ、さらに生徒の方との触れ合いで感じてきた経験も踏まえ、どのような料理を提供していこうかと考えているところです。時代によって新しい食材、食文化は生まれていきますし、新しいものには興味があります。やってみたいなぁと考えている新しいレシピもまだまだありますし、試行錯誤中で、動かしているアイデアもたくさんあります。健康にいいのはもちろん、食べても美味しいし、見た目もよくて、喜んで笑顔になっていただけるような料理、レシピを提供していければと思います」
いかがだったでしょうか。
大豆ミートに関する様々な視点でのお話は本当に興味深いですし、これからどのようなことが必要なのか、習得していく必要があるのか、より知ることができました。代替するだけではなく、新たな価値、美味しい料理を求めていくという姿勢に感銘を受けました。
先生方、御多忙の中、本当にありがとうございました。
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◆指宿さゆり先生について
神戸出身。日本やアメリカなどでパーティ料理やオーガニックを学び、2002年に「菜々食CookingClass」を主宰。これまでに多くの卒業生を輩出し、神奈川県、京都府、鳥取県、長崎県など東日本から西日本まで幅広いエリアで料理教室が開設され、カフェなどの開業実績も多数。
「レシピ制作専門スタジオ」では料理部門の代表として、オリジナルレシピ開発、連載レシピ記事、料理動画のメニュー監修、大手家電メーカーとのタイアップ企画、飲食店のメニュー開発などに従事している。
◆レシピ制作専門スタジオ/菜々食クッキングクラスについて
2002年より神戸の新しいお料理教室として、オーガニックの要素を取り入れオリジナルの料理やパーティー・おもてなし料理を提案。レシピ制作専門スタジオでは、企業向けのオリジナルレシピ開発、タイアップ企画レシピ、連載レシピコンテンツ、料理動画コンテンツ、飲食店のメニュー開発などを提供中。
◆野菜だけの食事法、野菜中心の料理の実績
2002年より20年近い経験、各ジャンルの料理をベースにした野菜だけの食事法、野菜中心の料理を提供。
これまでに和食、洋食、中華、イタリアン、フレンチ、エスニック、地中海とジャンルを横断した1200品をこえる野菜だけの食事法、野菜中心の料理を制作、監修、料理撮影の実績有。
【Mail】recipeibusuki@gmail.com
【Twitter】 https://twitter.com/SaishokuCooking
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