茶の湯の正月「炉開き」と「亥の子餅」
旧暦10月は「亥の月」と呼ばれます。旧暦は月の満ち欠けによって月が替わるので普段のカレンダーとはズレがあり、今年であれば11月5日からが旧暦10月の始まりです。
この月は茶の湯の世界では「茶の湯の正月」ともいわれます。それまで畳の上でしていたお点前を、炉という畳を切って作った場所に炭を入れてするようになる大きな節目となる月です。この「炉開き」にはおぜんざいを食べて祝いますが、同じく話題になるのが「亥の子餅」という和菓子です。
この「亥の子餅」は平安時代には10月10日の10時に食べて無病息災を願ったり、鎌倉時代には多産であるいのししにあやかって子孫繁栄を願ったりしてきたそうです。おせちひとつひとつに何かの願いが込められているように、和菓子にもそういった意味合いがあったのですね。
「亥の子餅」は名前のとおりいのししの子どもの姿をかたどったもので、形は愛らしく、和菓子屋さんによってさまざまな材料で作られます。先日、京都の出町柳近くにある昔なつかしい風情が残る「桝形商店街」を訪れた際にたまたま見つけて買ってみました。
この桝形商店街は京都の北の方にあり、京阪電車の出町柳駅の近くです。この商店街に入る前の広い通り沿いには有名な「出町ふたば」があり、それでご存知の方もいらっしゃるかもしれません。ここの豆大福は「午後には売り切れてしまう」と言われるほど人気で、この日も長い行列ができていました。
その行列を横目に見ながら、桝形商店街の中にある和菓子屋さんに向かいました。出町柳から入ってすぐのところにある小さなお店で、ケースに並ぶ和菓子を見ているとワクワクします。「わらび餅」や「おはぎ」だけでなく、お赤飯もありました。地元の人たちが途切れることなく訪れていましたから、人気店なのでしょうね。
ここの「亥の子餅」はほんのり薄茶色でした。「うり坊」と呼ばれる、猪の子を思わせる色具合です。胡麻が使われ、それらしい背中になっていますね。形も丸く作られてかわいらしく、手で持った時にあたたかみを感じました。作り手の気持ちが伝わってくるように感じたのは、「桝形商店街」で感じた郷愁からでしょうか。
味は意外にもモダンなシナモン味。でも京都では、決してモダンではありませんでしたね。有名な「八つ橋」も同じ味でした。京都ではシナモンではなく、「肉桂(ニッキ)」と呼ぶ方が似合うかもしれません。
ニッキの味加減だけでなく、餅の柔らかさも中のあんことのバランスも絶妙でした。粒あんがしっかり入っているにもかかわらず、甘ったるさはなく、パクパクと2個食べてしまいました。さすが長年続いているだけある、味にてらいがないと満足しました。おまけにお値段もリーズナブル。地元に愛され続いている和菓子屋さんのファンになりそうです。
6月の「水無月」に加えて、10月の「亥の子餅」も季節の和菓子として頭にインプットされましたよ。古くから人々の生活に入り込み、様々な願いや言われがある和菓子をこれからももっと楽しんでいこう!と誓った「亥の子餅」の美味しさと楽しさでした。
桝形商店街の近くにある京都御所で拾った「秋」と、京都駅構内で飲んだイノダコーヒーの写真も置いておきますね。京都に行かれたときにはこちらもぜひどうぞ。