苦悩と歓喜9-ドイツロマン派フリードリヒ
2021.11.29 11:33
フィヒテなどのドイツ民族ナショナリズムに鼓舞され、ドイツ独自の精神世界を描く芸術運動が起きてくる、それがロマン派である。ちなみにロマン派のロマンは中世のロマネスクのことであり、その大胆で自由な作風を標章とした。そして絵画での代表者が、フリードリヒである。
フリードリヒは、ドイツ最北端のフォアボンメルで生まれる。最初に注目されたのはワイマールの美術展で、審査員のゲーテが特賞を出したことである。その後ドレスデンで、画家は自由主義的愛国主義者と交流をもち、1810年にベルリン美術アカデミー展に出した作品がプロイセン王室に購入され、評価を高めた。
フリードリヒの描く風景は、フランスロココの優雅な風景ではなく、ドイツの荒々しい自然の風景であり、そこに神秘的なテイストを加味した彼の絵は、ドイツ人の魂の風景だった。彼はさらに古代のゲルマン英雄の面影を入れることで、ドイツの愛国主義の心情を揺さぶる。
ゲーテが称賛したのは、フリードリヒのドイツ的風景だったが、どんどんリアリズムから離れて象徴的になっていく画風に、やがてゲーテはフリードリヒと決別することになる。ゲーテはあくまで啓蒙主義者だった。フリードリヒも、その後政治的傾向が批判されるが、神秘的傾向は、エルンストなどに受け継がれる。