「せいめいのれきし」バーシニア・リー・バートン
バージニア・リー・バートンの「せいめいのれきし」は科学と詩が調和した美しい絵本です。
この絵本はジャンルで言えば科学絵本といったカテゴリーに入るかと思うのですが、手に取りページを開き、本を最後まで読んでみればそうした他の絵本とは体部感触が違うことがわかってもらえるのではないでしょうか。
お話は太陽が生まれた場面から始まります。
銀河系の中の一つの星、宇宙の中をぐるぐると回っている、何億、何兆もの星雲の中の、一つの星として、一番大きくも、一番小さくもないそんな太陽が、この地球にとって大切なものだと語られながらこの絵本は始まります。
ページをめくっていくと、地球の誕生、その地球に海ができ、やがていきものが海の中に生まれます。三葉虫、頭足類、脊椎動物、植物、そうしたいきものという不思議なものがこの地球で移り変わっていく様子が描かれていくのです。
舞台は次第に海の中から地上へと移ります。裸子植物、そして爬虫類の時代になり恐竜たちが現れるのです。私たちもよく知っているように、中生代の恐竜の時代ですね。
場面はまた変わります。
地球の気候は絶えず変動して地上に住むものたちの姿を変えていきます。哺乳類が多く現れ、噴火と造山活動そして氷河期、人間の誕生が描かれていきます。
流れとしては、他の科学絵本とここまではあまり変らないかもしれません。ただ、この絵本を特別なものにしている最大の理由は、ここからだと思うのです。
人間の誕生、そして文化、文明を作り出し現在に至る。
その「現在」に至ってからが、この絵本「せいめいのれきし」では、他の科学絵本には見られないほどの多くのページを使っているのです。
舞台はアメリカに移っていきます。その土地に来たものたちが土地を耕したこと、200年前から100年ほど前の、農業をしながらの生活、しかしまた人々は都市部へ移動しその土地は荒れ、そのリンゴの木が生えた古い果樹園を「わたし」が買い、そこで生活を始めるのです。
それはバートンの終生愛したフォリーコーブの地なのです。
小さな家と画室を建て、荒れた土地を整え、子どもを育てながら、二十五年の時が過ぎます。
季節は夏から秋へ移ります。
昼は短くなり、夜は長くなります。木々の葉がオレンジに変わり、風が吹くとはらはらと地面に散ります。
去年の冬の、凍るような風、ひどい吹雪の日。特別に長い冬だったこと。
そしてまた日が少しづつ長くなります。
春がやってきました。雪は消え、凍りついた地面もとけました。植物は芽を出し、鳥たちも南の国から戻ってきます。
昨日はほんとうに良い日でした。いかにも春らしい、暖かく美しい、草木の伸びるのが、目に見えるような日。
新月が沈み、一つ一つの星が輝き出します。遠い遠い星たち。
家の中では時計の針が回って、また一日が終わり、新しい日が始まったということを知らせています。
そしていまは夜あけ…..
本の紹介を描いている私も、いつの間にかこの本の中に入ってしまっていました。遠い遠い遡った時間から語られた物語は、たった、今、この瞬間から語られていたのです。
時間の進むように語りながら、同時に遡っていたことが知れるこの瞬間の驚き、そして喜びが感じられるのではないでしょうか。
バートンの描く絵も、そうして考えてみると両方向的な運動の力を持ったものに見えてきます。うずまきや螺旋がその奥に潜んでいるように思われる彼女の構成された絵、そのうずまきや螺旋も、その中心が始まりなのか、それとも周縁から中心に向かっていくものなのか、考えてみると不思議なものです。
バートンは、そんな壮大な宇宙の螺旋から、彼女の地、フォリーコーブへと読むものを招待してくれたのです。
長い長い時間を語ったバートンは、最後に読者に声を掛けます。
さあ、このあとは、あなたがたのおはなしです。
1968年にその生涯を終えたバートンの、最後の本、それがこの「せいめいのれきし」です。
過去と現在と、そして未来への希望が描かれた、素晴らしい本です。
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「せいめいのれきし」バージニア・リー・バートン