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増田勇一のmassive music life

🎦『ディア・エヴァン・ハンセン』を観た。

2021.11.30 01:59

11月最後の日曜日にあたる28日、朝のうちに原稿を書き終え、夕方から筋肉少女帯のライヴを観に行くまでの間に時間ができたので、映画館に足を運んだ。観たのは26日に公開を迎えたばかりの『ディア・エヴァン・ハンセン』。正直、前々からすごく楽しみにしていたというわけではなく、つい先日、アレサ・フランクリンの波乱万丈が描かれた『リスペクト』を観て「やっぱり映画は大きなスクリーンで観るべきものだよな」などと思いながらパンフレットを買ったら、その表3(裏表紙の裏)にこの作品の広告が掲載されていて「あ、これも観たいと思ってたんだった!」と思い出したのだった。

この作品、ミュージカルの映画化なのだが、そもそも僕はあまりミュージカルというのが得意ではない。物語の途中でいきなりみんな歌い始める、みたいな流れに抵抗があるのだろうと思う。ただ、それでもこの作品を観たいと思ったのは、少し前に何かを観に行った時に流れていた予告編を目にしてストーリー自体に興味を持ったのと、ある人からこのミュージカル自体を絶賛する言葉を聞いてたのを思い出したからだ。で、実際に観に行って大正解だった。というか、もう何度か観に行きたいくらいだと思っている。

物語のキーワードは「嘘」。相手を思いやるがゆえについた小さな嘘が思いがけない膨らみ方をしていき、すべてが良い方向に向かいつつあったはずなのに些細なことから取り返しのつかない事態へと急変していく。具体的なことは書かずにおくけども、現代社会においてティーンエイジャーやその親たちが抱える現実が、SNSの即効性や弊害などを絡めながらとてもリアルに描かれている。しかも当然のことながら音楽がとてもいい。僕の苦手な「突然みんな歌い始める」みたいな違和感をあまりおぼえなかったのは、コミュニケーションが不得意だったり言葉が足りなかったり本心を打ち明けられずにいたりする登場人物の心情吐露がそこに重ねられていたからだと思う。

主人公のエヴァンは、学校で誰からも注目されず家族愛にも飢えていて、精神的にも不安定な高校生。その彼が「面と向かって言えないこと」が歌になっていたりするわけだ。そんな劇中歌を聴きながら僕が思い浮かべていたのはベン・フォールズとかルーファス・ウェインライトとかジャックス・マネキンといった「泣き虫系ピアノ・ロック」だったのだが、そのエヴァンの自室の壁にRADIOHEADとベン・フォールズのポスターが貼られているのに気付いた時には、思わずマスク越しに声をあげそうになった。登場人物のキャラクターを描くために壁にポスターやレコードを、みたいなのはよくあるけども、RADIOHEADはともかくベン・フォールズのポスターだなんて! それはショッピングモール内のロック・グッズ屋などでは売っていないものだろうし、この主人公はよほどの音楽好きで、普段から音楽に救われているのだろうな、と思わされる。だからこそ「言えないことが歌になっている」のがいっそう自然なことに感じられたのかもしれない。

帰宅後、僕はBEN FOLDS FIVEのデビュー・アルバムを引っ張り出して聴き始めた。1995年の秋から年末にかけてはコレばっかり聴いていた気がする。単純に音楽自体も大好きなのだが、歌詞にも惹かれるものがあった。特にピピッときたのは“Underground”という曲の歌い出しの「I was never cool at school. I'm sure you don't remember me」という歌詞だ。「学校での僕はクールな存在だったことなど一度もなかった。きっと君も憶えてないはずさ」だって? これってまさに自分のことじゃないか、と感じたのだ。しかもこの歌の主人公は、それから10年を経てもまだどんな人間になろうか迷っていたりする。誰にでもある程度当て嵌まる話だといえば確かにその通りなのだが、この一節にはグッときたものだ。余談ながら“Julianne”の冒頭には「僕が出会った女の子はアクセル・ローズに似ていた」という歌詞もあって、そっちにも惹かれた。すごく掴みの強い歌詞を作る人だな、と感じさせられたものだ。

エヴァン・ハンセンも学校でちっともクールな存在ではなかった。家庭環境的にも似たような経験のある僕は、この映画を観ながら彼に「心配すんなよ、大丈夫だから」と声を掛けたくなった。きっとエヴァンも“Underground”を聴いてグッときていたはずだし、そんな妄想を膨らませることができるのも音楽ファンならではの特権かもしれないな、と思った。

ちなみにこの映画鑑賞の前夜には東京国際フォーラムでKING CRIMSONの来日公演を堪能した。このツアーのタイトルは『MUSIC IS OUR FRIEND』。あそこまでの次元に達している人たちがこんな素朴な言葉を掲げているのが素敵だな、と思う。音楽も映画も本もいい友達だ。そういう意味では、エヴァンも自分もいい友達に恵まれているのだと思う。