Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

富士の高嶺から見渡せば

中国の人口は公式発表より9000万人も少ない?

2017.05.30 08:18

不正確な人口統計データに基づく経済・社会政策は最初から信用できない。

北京大学で開かれた人口問題に関するフォーラム(5月22日)で、中国の実際の人口は、公式発表の統計データより9000万人少ない、という指摘が出された。9000万人という数字は、スペインの人口(4600万人)の2倍にあたる。スペイン二つ分の規模に相当する人口が、理由もなく闇に消えたことになる。

人口統計は、国家のあらゆる政策立案の基本である。正確な人口統計なくして経済などあらゆる行政施策の企画、立案、評価はできない。また民間企業にとっても事業計画の策定、販売計画などの意思決定には、正確な人口データに基づく各種の統計データは不可欠だ。

公式発表では中国の2015年の人口は13億7000万人。スペイン二つ分の9000万人は全人口の6.5%にあたる。これほどの規模の人口が存在するのかしないのか、あいまいで疑義が出されているのである。統計上の誤差というにはギャップが大きすぎる。

こうした見解を示したのはウィスコンシン・マディソン大学の研究員、易富賢(イー・フーシエン)だった。5月22日の北京大学でのシンポジウムで彼は、中国の2016年の実際の人口は12億9000万人で、中国統計局の発表した数字より9000万人少ないと語った。

易富賢によると、1990年以降の中国の人口に関する公式データ、特に出生率に関するデータは、誇張されてきたという。彼の研究によると1991年から2016年までの出生数は3億7760万人で、公式の発表データ4億6480万人より9000万人少ない。

South China Morning Post 2017年5月23日 China may have 90 million fewer people than claimed (that’s twice of Spain’s population)

その原因は、政府の予測した出生率と実際の間に乖離があったからだという。たとえば2014年の出生率(女性一人が生む子供の数)を政府は1.8と予測していたが、2015年に100分の1の規模で実施された国勢調査のデータによれば1.25だったという。一人っ子政策が廃止され、出生率は2.1まで回復すると中国政府は予測するが、易富賢によるとせいぜい1.4に過ぎないと主張し、毎年の新生児の数も政府予測の2100万人に対し、1500万前後だろうと予測する。

易富賢は医学の研究者で、2007年出版した『大国空巣』(Big Country with an Empty Nest)では、中国の計画出産政策を厳しく批判して出生率は低いより高いほうがいいと主張し、中国国内ではしばらく禁書扱いとなっていた。

ニューヨクタイムズ中国語版2016年3月24日「易富贤:计生政策让中国经济无法超越美国」

易富賢の政府発表の数字は誇張されているという主張について、フォーラムの出席者のなかには、ほかにも同調する研究者がいた。このフォーラム自体は人口制限を撤廃しデータの質を高めることを呼びかけるものだった。

北京大学李建新教授(人口学)は「政府は出生率を高めに誇張し、人口学的な変化のスピードを過小評価した」。「不正確なデータは、行政当局が適時に正しく政策を修正する手段を奪っている」と言及した。

上海社会科学院経済研究所の梁中堂研究員は「一人っ子政策が採用されて以来、人口データは深刻な間違いを抱えてきた。家族計画の報告は30%は誇張されてきた。40年近く続いた産児制限は現実に即してこなかった。政府の家族計画システムは廃止すべきというのは避けられない」と主張する。

同上 South China Morning Post 2017年5月23日

中国の実際の人口が公式発表より9000万人も少ないということは何を意味するのだろうか。中国政府の公式発表では2015年時点で13億7000万人で、世界最大の人口を擁する中国は、予測より早くインド(2016年時点で13億3000万人)に追い越され、また老齢人口の急増と労働人口の縮小のよる社会問題は、予想よりさらに深刻さを増すということだ。

中国は労働人口の減少に直面した2011年以来、「一人っ子」政策を緩和してきた。親は2人まで子供を持てるようになったが、政府は産児制限を完全に撤廃することには慎重だ。そもそも人口を管理・コントロールする政策が有効なのかどうかは分からず、さりとて完全に野放しにしたときにどうなるのか、中国の為政者には自信がないというのが実態であろう。

中国の60歳以上の人口は、2014年時点で全体の15.5%を占める。国連の推計によると、この中国の60歳以上の人口は、今世紀半ばに5億人に達すると見込まれるという。過去30年以上の急速な経済成長を支えてきたのは安い労働力だった。出生率の低下で労働人口は縮小しはじめている。経済成長を支えてきたいわゆる「人口ボーナス」は失われ、習近平の目指す「新常態」に、いかにソフトランディングするかが問われている。そのためにも、すべての政策立案の基礎となる人口統計データの正確性は不可欠である。