冬紅葉
https://www.mysai.net/cgi-bin/kaisetsu_disp.cgi?kisetsu_cd=4&kisetsu_kbn_cd=1&bun_ya_cd=07&bun_ya_kbn_cd=03&kigo_no=0034 【季語解説】より
冬(初冬)・植物【冬紅葉】 ふゆもみじ(・・モミヂ)
◇「残り紅葉」 ◇「残る紅葉」
気候温暖な地方では、立冬を過ぎてから紅葉する場合があるが、本意は、なお冬に入っても枝に残っている紅葉にあり、その風景は周囲の枯れ色に対し、なまじ色があるだけに哀れで寂しいものがある。
例句 作者
冬紅葉日陰日陰へ水はしり 能村登四郎 冬紅葉擁かれつ蹤きつ女の身 石田波郷
流れすぐ日向を離れ冬紅葉 河合照子 夕映に何の水輪や冬紅葉 渡辺水巴
朱よりもはげしき黄あり冬紅葉 井沢正江 冬紅葉冬のひかりをあつめけり 久保田万太郎
冬紅葉しづかに人を歩ましむ 富安風生 沈む日を子に拝ませぬ冬紅葉 長谷川かな女 鎌倉のこの谷戸知らず冬紅葉 星野立子
https://kidetatetemiyou.com/shiru/article32.html 【木々の冬支度。紅葉から落葉までの仕組み】より
秋も深まり、紅葉真っ盛りの季節です。毎年私たちを楽しませてくれる紅葉ですが、木にとってはどのような意味があるのでしょうか。今回は「木々の冬支度」と題して、木の紅葉から落葉までを追いかけてみました。
葉を落とす木と、落とさない木があるのはなぜ?落葉樹と常緑樹の違い
葉を落とす木と、落とさない木があるのはなぜ?落葉樹と常緑樹の違い
紅葉する木の大半は落葉樹と呼ばれ、冬には葉を落とす樹種です。それでは落葉樹と、常緑樹の違いはどこにあるのでしょうか。
冬に葉をすべて落とすのが落葉樹。1年を通じて葉を茂らせている常緑樹。落葉樹は季節変化の大きい中緯度地域を中心に分布し、常緑樹は赤道直下から北極圏まで幅広く分布しています。
光合成を行って栄養分を作り出すのが葉の役割ですが、葉を作り維持するのにもエネルギーが必要です。日光が少なかったり気温が低かったりなど条件が悪いと、葉が作り出すエネルギーよりも使うエネルギーが上回ってしまいます。したがって、1年の中で気候の差が大きい地域では、光合成に適した季節だけ葉をつけるのが効率的と言えるのです。
はじめは常緑樹だった樹種が進化の過程で、寒暖差や日射量、降雨量の差が大きい気候に適応して生態を変えていった結果が落葉樹だと考えられています。私たちが何気なく目にしている落葉という現象は、木が進化の過程で獲得した生態の一つなのです。
紅葉と黄葉。木の葉が色づく仕組み
紅葉と黄葉。木の葉が色づく仕組み
イチョウのように黄色く色づく「黄葉」と、モミジを代表とする赤く色づく「紅葉」ではその仕組みが少し異なります。
葉の中には主に緑色のクロロフィルと黄色のカロテノイドという2種類の光合成色素が含まれています。通常は緑色のクロロフィルの方が量が多いので、カロテノイドの黄色は目立たず、結果的に葉は緑色に見えます。
秋が深まり日照が落ちて気温が下がってくると、葉が作り出すエネルギーよりも葉が使うエネルギーの方が上回るようになります。そうなると、木は光合成活動を低下させ、葉を落とす準備を始めます。これが紅葉や黄葉の引き金となります。
木は葉を落とす前に、葉にある栄養分を出来る限り回収して再利用しようとします。クロロフィルやカロテノイドを分解してできた栄養分を、枝を通じて幹まで運びます。その際に、植物にとってより重要な栄養分の含まれている緑色のクロロフィルが先に分解されるため、残されたカロテノイドの黄色が目立つようになります。これが、「黄葉」の仕組みです。
「紅葉」には、もう一種類の物質が関わっています。紅葉する木の葉では、クロロフィルが分解されると同時に赤色のアントシアンという物質が作り出されます。クロロフィルの緑色がアントシアンの赤色に取って代わるため、葉が赤色に見えるわけです。アントシアンの役割については研究途上で、詳しく解明されていないそうですが、クロロフィルの分解過程で生じる活性酸素の発生を抑える機能があるのではないかと言われています。
黄葉や紅葉のあと、木は葉を落とします。では葉は枝を離れて地面に落ちると、その役割を終えるのでしょうか。確かに生物としての木の一部ではなくなりますが、「森」や「山」といった生態系全体の中で見ると、まだまだ重要な役割を持っています。
落ち葉は微生物によって時間をかけて分解され、土壌に養分を供給します。木は「紅葉」などの仕組みで落葉前に葉の栄養分を再吸収するものの、もちろんすべては回収されず、葉には炭素や窒素、リンなど多くの重要な栄養素が残っています。その養分は様々な生物によって利用されますが、特に樹木を始め植物にとって重要な栄養源となります。落ち葉は分解され、廻りまわって、新しい葉を作る材料になっているのです。
また、土の上に降り積もった落ち葉は直射日光を防ぎ土を乾燥から守るため、土の中で暮らす土壌微生物にとって快適な環境を作り出します。落ち葉のおかげで、キノコやカビなどの菌類、ミミズなどの小さな土壌動物が暮らしやすい環境が作られます。土壌の生物多様性が高まるほど土壌の機能が高まり、落ち葉や枯れ木などの有機物が分解され、利用される循環が促進されていきます。
さらに別の視点から見ると、落ち葉には炭素を蓄積する役割もあります。「木で建ててみよう」でも以前森林による炭素の貯蔵についての記事を公開していますが、落ち葉も同様の役割を果たしているのです。
森のはたらき、木の役割。地球温暖化と森林の関係とは。
https://kidetatetemiyou.com/shiru/article10.html
木の葉は紅葉で私たちの目を楽しませた後も、土の中の小さな生き物や葉を落とした木そのものによって、余すところなく利用されていることがわかります。
落葉(らくよう)と落ち葉の役割
今回は紅葉というテーマから、落葉の仕組みや落ち葉の役割について考えてみました。紅葉や落ち葉など、身近なものごとの裏側にも、生命の歴史や生態系のつながりなど目には見えない広がりがあると思うと感慨深いですね。今年の紅葉狩りでは紅葉の美しさを楽しむことに加え、その仕組みの精巧さについて思いを巡らせてみると新たな発見があるかもしれません。
「木で建ててみよう」ではこれからも、「木を使う」とは木を単に資源として利用することではなく、生態系の一部に参加することであると捉え、木を深く知るための取材や調査を続けていきたいと考えています。