カール販売終了を憂い、マーチングバンド小説にときめく
カールが、私の住む地域では販売されなくなるらしい。
カールは、チップスターほど頻繁ではないが、ひと月に1回くらいは食べていた。あの、口内を埋めつくす、濃厚なチーズ味。舌で押すと、ぐしゃりと崩れ、歯と口蓋にねとねとまとわりつく食感。漫画家の藤田和日郎さんも大好きなカールよ。これからは、気軽に食べられなくなるのか。つらたん。
やさぐれた気持ちでお菓子のまちおかに赴き、カールを入手し、2ちゃんねるの「【スナック菓子】『カール』の販売、中部以東で終了へ」のスレッドを眺めつつ食べた。……うん。うん。いつもの数倍、おいしく感じるわ。
わしゃわしゃと半袋ぶんほど食べ終えたところで、飽きてきた。あと3日はいらないな、と袋の口をたたみ、洗濯ばさみで閉じる。スレッドも閉じる。しかし、翌日になれば、ロボットよろしく、次から次へとカールを口に押し込む私がいるのだった。うまー、うまー。
ピックアップの生産終了の報せは、カール以上に堪えた。つらたん(と書くと軽々しいが、本当に悲しくてたまらない)。これからはもっと買うから。もっと食べるから。許してほしい。
過去の私に会えるなら、「カールとピックアップとレバ刺しは、たっぷりと堪能しておけ」「鰻も高くなるから、見るのも嫌になるくらい食べておけ」と伝えたい。
先日、図書館で、武田綾乃さんの、吹奏楽部シリーズの小説をまとめて借りてきた。
本屋でなんとはなしに買った、「立華高校マーチングバンドへようこそ・前編」が面白くて、後編や他のシリーズも読みたくなったのだ。
マーチングコンテストへ向けられた、ひたむきな情熱、ストイックな学校生活。そうしたぎりぎりな環境から生じる仲違い。溢れ出る劣等感。妬み。憧憬。そうした様々な感情に揉まれながらも努力を重ねる部員たちの姿と、かけた想いと時間を結晶にしたような演奏描写に、グワーッときた。アー。
この本には、自分のすべてを捧げなければならない、そのようにしても報われる保証のない場所に身を置いた者のみが知りうること・見られるものが描かれている。読めばほんのすこしだけ、それらを自分のことのように感じることができる。日々、のんべんだらりと暮らしている私でも、だ。なんとおいしく、なんと素敵なことだろう。
私が中学生の頃、土曜日は半ドンだった。昼食を摂らず、帰り支度をする帰宅部の私の横で、吹奏楽部に所属するクラスメイトは、部員同士で机をくっつけ、弁当をつかっていた。昼食後は、練習に励んでいたようだ。その姿がかっこよく感じられ、憧れていた。今も時々、その情景を思い出す。白線が走った紺色のセーラー服も、美しく彩られた三色そぼろ弁当も、机の上に揃えて置かれたドラムスティックも、午後の白みがかったひかりにくるまれ、輝いている。