Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

富士の高嶺から見渡せば

中国の湖になる?南太平洋

2017.06.09 06:14

「一帯一路」や「南シナ海」よりも先に、中国が影響力を拡大し覇権を誇示する状況が南太平洋の島嶼国で生まれている。南太平洋のトンガ王国やフィジー、サモアなどでは、すでに中国からの移住者で溢れ、中国人による犯罪も激増している。5月11日、トンガのアキリシ・ポヒヴァ首相は自ら記者会見を開き「数年以内にトンガは中国人に乗っ取られるだろう」と警鐘を鳴らした。しかも「トンガにいる中国人ビジネスマンは税金を全く払っていない」とも語った。

"Chinese will take over the country" PM Pohiva proclaims, while digging canals at Popua

Friday, May 12, 2017 By Pesi Fonua )


ポヒヴァ首相はその前の4月には公の場で「中国人のヒットマンがトンガに入り込んでいる」と仰天発言をした。「一部の中国人が殺し屋を雇い、中国人コミュニティーの商売敵を襲わせている」というのだ。

”Are There Chinese Hitmen in the Kingdom of Tonga? Remarks from Tonga’s prime minister make public an open secret about crime in the Chinese community. By Cleo Paskal April 17, 2017


以下は、クレオ・パスカル英王立国際問題研究所研究員による報告「トンガで跋扈する中国のヒットマン」(Newsweek日本版6月6日号)と早坂理恵子さんのブログ「やしの実通信(ポリネシアン航海)」

を参考にした南洋の楽園への中国進出の実態である。

トンガでは、この10年ほどの間に新たに移住した中国人が、小売部門を占有している。人口10万人のトンガで中国人が占める割合は3%だが、トンガの小さなお店の90%は中国人の経営だといわれる。しかも彼らは一切税金を払っていない。商品は中国本土から直接仕入れる。収益はほとんど本国へ送金し、トンガ・コミュニティーへ還元することはない。彼らはトンガに定住するつもりはなく、次の移住先としてニュージーランドやオーストラリアを目指しているから、トンガ社会に溶け込もうという意識も乏しい。地元に貢献しない中国人への反発が、2006年トンガで発生した暴動で中国人商店が標的になった理由だといわれる。このときの暴動では多くのインフラも破壊されたが、その再建にあたりトンガ政府は中国から約60億円の借金をして整備した。しかしこの借金が未だ返せず、2%の金利は膨らむばかりだという。

トンガやサモア、フィージーに移住して小売業の現場で働く中国人の多くは、貧しい中国の地方出身者が多い。現地で事業を営む中国人実業家により、中国の農村部などから連れてこられた人たちだ。

一方、トンガをはじめ島嶼国はパスポート、市民権などを売り物にしている。それを買うのは中国人や犯罪者である。中国人は、密入国業者の手引きやパスポートを売買する違法業者に借金をして入国する。入国の時点で、すでに犯罪に手を染めているケースも多い。トンガに最近移住してきた中国人たちは、人身売買、売春、麻薬などの犯罪を持ち込み、営利誘拐、密輸、賭博、放火、殺人、税関職員への贈賄、ビザやパスポートの偽造や不正使用、盗品売買などの事件に関与しているといわれる。

ところで、トンガは昨年8月から30日間までの観光はビザ免除にしている。しかし、このビザ免除で、サイパンでは中国人の違法労働者が何百人と入境、滞在するようになり、自然豊かなパラオ諸島には、大量の中国人観光客でホテルが占拠される事態になっている。

またサモアではコミュニティの秩序を守るため、商業地以外での中国人経営を禁止した。サモアからすぐ隣の米領サモアには、この4月25日、米国のペンス副大統領が訪問した。その際、現地の政治リーダーから指摘されたのが、サモアに大量に入ってくる中国人の密入国者と麻薬やマネーロンダリングなど国境を越える犯罪だった。米軍も駐留する米領といえども、米領サモアの法執行は脆弱である。独立国サモアへの中国の覇権は、米国の安全保障にもつながっている。

「数年以内に中国人に乗っ取られる」というトンガ首相の発言があった5月11日は、北京で「一帯一路フォーラム」(5月14・15日)が開催される直前だった。太平洋島嶼国での中国と中国人の動向については、さまざま取り上げられるようになったが、国家元首自ら、しかも公式にコメントしたのはこれが始めてではないだろうか?中国の一帯一路会議の直前のタイミングは何かを意味しているのだろうか?トランプ政権の米国をはじめ欧州やインドも中国の一帯一路構想にメガティブな姿勢を示しているが、太平洋島嶼国への影響もあるのではないか?と想像する。

トンガは2019年に「パシフィックゲーム」の開催を名乗り出ていた。そのため中国政府の資金拠出により、トンガに複合スポーツ施設の建設が決まっていた。しかし、5月になってトンガ政府はパシフィックゲームの開催返上を正式に発表し、中国が支援するスタジアムの建設も中止した。理由は、スタジアムの維持費に年間何億円もかかる事が、世銀のアドバイスでわかったからだという。

トンガが辞退を表明した2019年の太平洋ゲームには、早速サモアが開催に名乗りをあげた。サモアには既に中国の支援でスタジアムが完成している。その維持運営費も大変だが、このほどサモアを訪問した鄭沢光中国外務次官との間で、2億6200万ドル(300億円)の運営費供与に関する合意に署名したという。

中国が世界の途上国にスタジアム建設の支援をしていることを 「スタジアム・ディプロマシー」即ち「競技場外交」と呼ぶらしい。ウィキぺディアによると、50以上のアジア、アフリカの途上国が中国にスタジアムを建ててもらっている。太平洋島嶼国ではクック諸島、ミクロネシア連邦、フィジー、キリバス、サモア、パプアニューギニアの6カ国だそうだ。「太平洋は北京の湖になる?」という話ももはや冗談では済まされなくなっている。