さよならの言葉に代えて
2017.06.15 01:30
この季節になると思い出す
入院していた頃
病棟を結ぶ廊下に設けられた
ピアノ曲が流れる院内喫茶に飽きた僕らは
少しばかりの逃避行にはしゃぎながら
病院に近いレストランに出かけた
広いフィックスの出窓に
シクラメンが飾ってある
大きな鉢植えの下で
ささやかなランチをした
静かに流れるジャズの旋律が
二人を饒舌にしていったのか
彼女がふと呟いた 幻聴
なんと答えたか忘れた
彼女の苦しみを理解することは出来なかった
彼女もまたぼくの苦しみを理解出来なかったのだろう
二人の間に初めて細い溝が生まれた
窓の外は鉛色の空がどこまでも続き
遥か彼方に
守門岳が白くたおやかな峰を横たえていた