1,農業に携わる
サザエさん症候群に悩まされはじめたのは、入社して1年も経過しない頃でした。中学も高校も皆勤賞でしたし、勉強はできないながらも辞めたいとか不登校になりかけたことは一度もありませんでした。もちろん大学も3年間でフル単位を取得して、万全を期して取り組んだ就職活動で勝ち取った内定でした。
小さい頃から憧れていたアニメ会社。才能はないことはわかっていたので事務職、営業での内定をいただきました。とても楽しみにしていたにも関わらず、入社直後からなんとなく違和感を感じはじめました。
明確な言葉で表現ができないような本当に繊細な違和感だったように思います。人間関係が難しかったことはたしかにあったでしょう。しかし、それはどこの会社でもどこの組織でもありえるようなことだったので直接的な原因ではななかったように思います。
叱責されることも学生時代の部活であれば「自分たちのためだ」と素直に受け取ることができたのに、なぜか社内での叱責は素直に受け止めることができませんでした。
原因を探しても明確な原因がみつからず、精神科に行ったりもしましたが、抗うつ剤を処方されるだけで、なにひとつ改善しませんでした。
休職をしてみました。何も変わらないどころか、状況は逆に悪化しました。停滞感に苛まれ、二度と会社にいけなくなってしまうような気分に日夜悩まされました。
もはやこの時、サザエさん症候群ではなく、本格的なうつ病になっていたのだと思います。
友人のSに相談しました。Sは農家です。毎日楽しそうに見えました。太陽の下、真っ黒になって仕事をしているSが実に人間らしく見えたのです。そんなことをぽろっとこぼした時、Sは「隣の芝生は青く見えるものだよ」と言ったのです。
なんとなく怒りを覚えました。お前は恵まれているからそんなことが言えるのだと。農家の仕事は体力勝負で大変な職業だということはわかっているのにもかかわらず、俺はSに噛み付いたのです。
「いい商売じゃん。人の顔色とは無縁で、毎日体動かすから健康的で」。
口からその言葉が出たあと、ひどく後悔しました。
Sは大笑いでした。
「じゃあ、お前も手伝いに来る?休職中なんだろ?」
1週間手伝いをさせてもらって俺はこれが俺の天職なのかもしれないと思ったほどに楽しかった。
Sは半笑いで給料袋を渡しました。あの時の「まいったよ」という顔が忘れられません。
Sは俺の親友です。
俺とSがはじめたこのクリエイターチーム、そもそものきっかけが農業だったと聞いたら皆さんは驚かれるかもしれませんね。