苦悩と歓喜11-ゲーテとベートーヴェン邂逅
2021.12.06 11:08
1812年7月19日、ついにテーブリッツで、ゲーテとベートーヴェンは邂逅し、2人で芸術論に花を咲かせた。ベートーヴェンは数回ゲーテにピアノを弾いたという。ゲーテは「あのように集中的で、エネルギッシュで、しかも内省的な芸術家に会ったことがない」と妻当てに手紙を書いている。
しかしベートーヴェンの知っているゲーテはあくまで文学上、特に初期の疾風怒濤時代のもので、現実のゲーテは、古典主義的になり、またワイマール公国の閣僚であり、この地に来たのも、ここはオーストリアのVIPがよく来るので、会って今後の情報を得るためだった。
そして、二人が散策しているところに、墺皇后マリア・ルドヴィカが通りかかると、顔の知れているゲーテは道を空けて恭しく礼をした。それにベートーヴェンは腹を立て「道を譲るのは彼らのほうだ」とド真ん中を歩いて帰っていったという。この簡単なことで世紀の邂逅はオジャンになったらしい。
この時期、オーストリアは、またもナポレオンに屈していた。単に貴族嫌いというより、情けない思いが出てしまったのだろう、現実を知る政治家ゲーテはあきれた。しかしこの二人は、二か月後には、友人のとりなしもあって再会し、誤解を解いて仲直りしたようだ。