Ameba Ownd

アプリで簡単、無料ホームページ作成

uni-nin's Ownd フジタイチオのライトエッセイ

2012.09.10 03:18

 妻がそばに立っていた。

 

 顔をあげて妻を見た。

「いかないでって言っても、どうせいくんだもんね」と聞き取れないような声で言った。

 

 「ごめん」と返事をして、また視線をスポーツバッグに移して支度した。

 

 そう。いくなと言われても、いってしまう。

 

 



 いつもは過剰なほど走りきる気分満杯のマラソン大会であるけれど、今回はちがった。

 

 無事に終わったいま正直言うと、ホントは自信がなかった。

 

 とにかく右側に体重がかけられない。

病院で検査をしているのだが、どこが原因なのかいまだにハッキリしていない。立っていると右の腰からお尻の辺りに耐えがたい痛みが走る。

 

 じっと寝ていればいいのかもしれないが、そういう生活をしていたら筋肉が弱って65キロなんて走れない。

 

 でも、走る練習をすれば、もっと状態がわるくなってスタートすらできない。

ようするに、今回は参加しないほうがいいのだ。それは自分でよくわかる。

 

 みんなが心配してくれた。

走らないほうがいいと言ってくれた。大会は来年もあるんだからと。

 

 でも、この大会はスタートしたかった。まだ走ったことのない距離の大会、走る前からあきらめたくなかった。

 それに、払ってしまった12,000円がモッタイナイじゃないかという気持ちも少々あったし。



 途中棄権も視野に入れて、スタートした。

ダメだったら潔くやめる。これが約束だった。

 

 たくさんの「心配してくれる心」を感じながら走った。

だから「苦しい」ってことを棄権の選択肢にしないことにした。



 苦しくても痛くても、それが肉体に後遺症を残すようなものでないと思えるならば、それを理由に走るのをやめたりしないことにした。

 

 スタート前から体は痛かった。トイレの順番待ちなどで立っている時間が長かったせいか、すでに足腰にダメージがきていた。

 

 とにかく、走り方がヘンだった。自分でよくわかる。痛いところをかばっているから、体のバランスがおかしい。ヨレヨレの爺さん。まさにそんな感じ。しかし、笑うんなら笑え。

 

 20キロほど走った山中で、木の棒を何本か拾った。その中の、長さと重さのいちばん感じのいいものを杖にして走った。最初は冗談のつもりだったけれど、途中からなくてはならないものになった。

 

 終盤のエイドステーションで会った大会スタッフに「杖ついて走っている人をはじめて見たよ」と言われたけれど、杖ついてまで走るとは、わたし自身も想定していなかった。



 走りきれたのは、みんなのおかげだ。

キレイ事で言うんじゃない。ほんとの気持ちだ。わたしは一人じゃ走りきれなかった。

 

 途中のトイレで迷子になってしまったけれど、そこまでいっしょに走ってくれたHa-Se くん。この大会に最初に申し込みした彼のやる気が伝染して、わたしのモチベーションが上がった。

 40キロを過ぎてから苦戦しているという情報も入って心配になったが、無事にゴールしたことを知り、ホッとした。がんばってきた人にがんばった結果が出てくれたのがうれしい。

 

 そして、スタートから最後までいっしょに走ったとめ。なんども「先にいけ」と言ったのだが、いかなかった。わたしを置いて先にいけば、もっと良いタイムでゴールできたのに、スタートからゴールまで遅く走ってくれた意地っ張りだ。

 

 エイドステーションごとに前から走ってきて応援してくれたくま。彼の走ってくる姿が見えると、エイドが近いことがわかってホッとした。

 最後の50キロ地点からは、ずっといっしょに走ってくれた。彼がいなかったらゴールはもっと遅くなっていただろう。いや、最後の関門に間にあわず、ゴールできないでいたかもしれない。

 

 そして、最初はわたしの参加を強硬に反対していたきら子。でも、わたしの考えが変らないことを知ってからは、完走のために強力にサポートしてくれた。レンタカーの用意から凍ったタオルの準備などなど。完走を祈ってくれているのがよくわかった。みんなの到着を、泣きながら迎えてくれた。心配かけた。すまなかった。

 

 あきらめない。

最後は「走れ」というわたしの命令に反応できなくなっていた肉体であったが、それでもあきらめずに動こうとしてくれた。

 

 体が前に倒れる力で足が出ているような状態。それを動画で見たら、きっと不様だ。指をさして笑ってしまうだろう。

 

 でも、あきらめない。一人だったら、あきらめた。でも、一人じゃないから、だからあきらめずに走ることができた。

 

 みんな、ありがとう。

 

 

 ゴールのあと、ウエストバッグから電話を出してコールした。

 

「走りきったよ。ゴールしたよ」と言ったら

 

「よかったね」と、小さな声で妻がこたえた。